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キッコーマンの23年3月期本決算を分析

調味料大手のキッコーマンは4月27日、23年3月期の本決算を発表しました。どんな業績だったのか、今後の見通しも含めて分析していきます。

今期最終0.4%増で最高益更新へ

前期実績

売上・利益ともにやや会社計画を上振れして着地しました。23年3月期の売上は19.8%増の6188億円、より本業の儲けに近い事業利益は(売上-原価-販管費)12.4%増の587億円、営業利益9.2%増の553億円、経常利益12.1%増の607億円、最終利益12.4%増の437億円。

出典:株探

今期予想

同時に24年3月期の業績予想を開示しています。売上3%増の6375億円、事業利益6.7%増の627億円、営業利益3.4%減の535億円、経常利益2%減の596億円、最終利益0.4%増の439億円。

4期連続増収、営業利益と経常利益は為替差益の剥落で小幅な減益見込みも、最終利益は11期連続で最高益更新の見込みです。

出典:株探

国内は大幅減益も海外好調と円安が支え

全体では増収増益も為替影響を除くと微減益

3期連続増収、二桁増益、最終利益は10期連続最高益と力強い決算を出してきましたが、為替影響を除いた事業利益は前年比97%に留まっています。円安の支えがなければ微減益ということであり、このあたりは評価が分かれそうです。

出典:決算短信

国内は原材料高を価格転嫁しきれず

成長が続いているキッコーマンも、他の食料品企業と同じように原材料高の影響を受けています。特に国内では原材料価格上昇に値上げが追いつかず、31.2%減益に落ち込みました。

また値上げによる買い控えと巣篭もり特需の反動か、売上も2.2%減収に転じています。決算短信によると、家庭向けしょうゆ、たれ類、豆乳が前年を下回り、外食需要の回復で加工・業務用のしょうゆ、「濃いだし本つゆ」や白だしが好調に推移したつゆ類、デルモンテ飲料、家庭向けの高付加価値商品が好調で売上を伸ばし、外食需要回復の支えもあった本みりんは前年を上回ったとのことです。

全体的には家庭向けは売上が伸び悩み、外食需要の回復で加工・業務用の増収効果を打ち消した印象です。

出典:株探

事業利益増減の主な要因を見ると、原材料高で71.8億円の押し下げ効果に対して、単価増による押し上げ効果は27.4億円に留まり、広告宣伝費を抑えても42億円のマイナスで、価格転嫁が追いついていないことが分かります。

出典:決算短信

海外は売上が大きく伸びて円安も追い風

キッコーマンは日本以外にも、北米・欧州・豪州など世界中でしょうゆやつゆなどを製造販売しています。国内では原材料価格上昇に値上げが追いつかずに苦戦した一方で、海外は大幅な増収増益を達成しました。

地域別では欧州市場がロシア・ウクライナ情勢の影響を受けて、イギリスを除いて伸び悩んだものの、北米市場では主力のしょうゆのほかしょうゆベースの調味料などの拡充に力を入れ、前年比32%増収と大きく売上を伸ばしています。アジア・オセアニア市場もフィリピン、インドネシア、タイなでで好調に推移し、33%増収と大きく売上を伸ばしてしています。

出典::決算短信

事業利益は欧州こそ経済の低迷が影響して減益になったものの、北米は41%増益、アジア・オセアニアは35%増益、全体でも28%増益としっかり稼いでいます。ただし為替影響を除くと増益幅が9.7%まで減るのがやや気になります。

出典:決算短信

事業利益増減の主な要因を見ると、原材料コスト増で40億円、販管増で48億円の押し下げ効果があったものの、単価増で136億円の押し上げ効果があり、事業利益は114億円のプラス。値上げと数量増でしっかり利益を確保していることが分かります。価格転嫁が追いついていない国内とは対照的です。

さらに為替による押し上げ効果が75億円あり、円安が追い風に働いたことを示しています。

出典:決算短信

国内23%増益を見込む強気な会社計画

前期は原材料高の逆風を受けながらも二桁の増益を確保したキッコーマンですが、今期は売上・利益ともに小幅増に留まる見込みと全体で見ると保守的です。

しかし、国内は事業利益が収益力の向上で23%増益、売上も6%~11%増を見込む強気な計画を立てています。決算短信では「高付加価値化や生産性向上を図る」とし、カテゴリーNo.1ブランドとして存在感を示したいとのことです。キッコーマンは言わずと知れたしょうゆの市場シェア1位の企業です。高いブランド力によって前期は減収となった家庭用しょうゆや飲料の売上を回復させ、価格転嫁によって増益に繋げられるか注目です。

出典:決算短信

海外売上の伸びが鍵を握る

収益力の向上と価格転嫁でコスト増を打ち返したとしても、これから人口が減っていく国内市場だけでは成長にも限界があります。営業利益が10年で2倍超に増えているのは積極的に海外市場を開拓しているからこそ、海外売上の伸びが成長の鍵を握っています。

出典:IRBANK

食料品メーカーは内需というイメージがありますが、実はキッコーマンの海外売上高比率は75%あり、国内の売上は全体の25%に過ぎません。原材料高という逆風を受けながらも増益を確保できているのは、海外の売上が伸びているからこそ。欧米では日本食の人気が高まっていると聞くので、さらなる需要拡大と新規開拓を進めることができるなら、まだまだ成長が期待できそうです。

ただし会社計画では想定為替レート1ドル130円で1.5%増収、為替影響を除いても4.8%増収に留まる見通しです。欧州は二桁の伸びを見込んでいるものの、北米の1.1%減収は物足りないと言わざるを得ません。

世界的な金融引き締めによる景気後退を想定して、売上を保守的に見積もっているのかもしれませんが、トップラインが伸びないと成長は続きません。これまで以上にしょうゆの価値を訴えて需要拡大を図って欲しいころです。

出典:決算短信

さらなる成長には海外売上の伸長が欠かせない

キッコーマンが今後も持続的に成長するには、原材料高をできるだけ早く打ち返したうえで、海外売上をさらに伸ばしていく必要がありそうです。

国内は原材料価格の上昇が一服すれば、値上げが追いついて増益に転換しそうです。後は高いブランド力と付加価値の訴求で売上を維持できるかどうか、食料品を買わないわけにはいかないので値上げによる買い控えは一時的でしょう。

しかし、国内だけでは成長にも限界があります。キッコーマンは海外売上高比率が75%で、内需というより外需企業に近い収益構造です。さらなる成長には海外市場の開拓と需要拡大が欠かせません。また為替の影響も小さくななく、想定為替レート1ドル130円よりも大きく円高に振れるようなら要注意です。もちろん円高に振れても、増収でカバーできるなら問題はないのですが。



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