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ちょっとそこまで #1

30歳の誕生日を迎え、ふと、10年間吸い続けたタバコをやめようと思った。
これから先、年齢的に体力が落ちてくるだろうし、健康の為だと腹を括りすっぱりやめた。

習慣が変わると、今度は環境を変えようと思った。
8年住んだ中野から思い切って世田谷に引っ越した。最寄り駅の周辺には居酒屋が少なく静かで、商店街やスーパーなど商業施設が多い。数分歩くと住宅街が広がっている。とても大人しい街だった。

引っ越してからすぐに必要な物に気づいた。
それは自転車だった。
中野に住んでいた頃は最寄り駅にコスパの良いスーパーがあったが、やはり世田谷の街はブルジョアな品揃えで、当然お値段もなかなかのもの。
これでは生活も苦しくなってしまうから、家から離れたコスパの良いスーパーへ行かなくてはならない。
自転車は最優先で手に入れるべきアイテムだった。

どうせ買うなら都会の雰囲気に馴染むクールでイケテール奴が良い。普段の買い物だけじゃなく、休日にサイクリングを楽しんだり、出かけた先で見つけたカフェなんかに立ち寄ってコーヒー飲んだらお洒落やんかッ!などとスマホに噛り付く勢いでイケテール相棒を探した。

と、

ろーどばいくぅ?
ハンドルとかぐるんと曲がってるけど何これ?
どこ持つの?、、、

は? てか何でこんな高いの?

5万なら分かる。10万?20万、、、50万ッ⁉️
やはり世田谷に住めるような器ではなかったということか。などといささか錯乱気味になる程の衝撃。調べてみるとフレームの素材やらコンポーネントのランクによってまるで変わるらしく。そのいずれもがレースを想定した作りだった。

自転車のレースと言えば、真っ先に浮かんだのが競輪だった。トラックを周回するレースなのかなと想像。試しにYouTubeで検索視聴すると。
スマホ画面には今までに見た事もない光景が広がっていた。あのお高い自転車に乗った全身ピッタリジャージの選手が何十人と固まって走っていた。
沿道には向日葵が咲いており、それを背景に自転車集団が駆け抜けて行く。ルールはよく分からないけれど、何だか目が離せない。遥か遠く先のゴールを真っ直ぐに目指す彼らを見ていると、ワクワクした。

私が見たレースは、ツールドフランスという世界的に有名な大会だった。偶然にも開催時期であったため、スカパーのJ sportsを即契約。時差の関係で夜中の放送だったが、眠い目を擦りながら観戦。

そこからは早かった。
当初の目的を忘れ、ロードバイク専門店に通い、欲しいバイクを見つけ、契約まで済ませた。
早く乗りたい、彼らのように遠くへ真っ直ぐに走ってみたい。そして大会やイベントに参加出来たらどんなに楽しいだろう。

しかし、30歳を迎えワクワクを手にした私にとって大きな問題が立ち塞がる。
そう、10年間タバコ漬けだったうえ、ポケモンのようにチャーミングなポッコリお腹。
不摂生! 運動不足!
大変だ! こんな体でどうして何十kmと走り続ける事ができようかッ!
体力がない=走れない。
ひどく簡単な公式に何故この段階まで気付かぬか。
己のアホさ加減に呆れ、ワクワクが現実に負けそうになる。

そんな時、ふと、思う。

ランニングでもするか。

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