武富一門の皆様へ

師匠から弟子への手紙。本屋の立ち読みについて書かれた書簡をスーミーしたよ。

あれでふと思い出したのが模型屋に入り浸って模型屋の床に座り込んで液状化してた（！）弟のことだが、そこから幼少期の普通の日常を思い起こせば、おビール貸してなんかは今では見なくなった風景だよなあって。まあ、私などは立ち読みは常習ではたきもかけられました。それでも不足だと図書館へレッツラごん。私は図書館でピーターラビット、ミッフィー、エルマーのぼうけん、ももいろのきりん、根本進のくりちゃんに出会ったし、マンロー・リーフの描く挿絵でホニョ画のあのタッチを学んだし、ダンカンやロシア革命、マタ・ハリ、ロイ・フラーなどの古い図鑑の白黒写真を丹念に観察したり、図書館は本当によく利用した。そもそも、勉強しろドリルやれとうるさい親の目を盗んでテクテクどこまでも1人でほっつき歩くのが心地よくて、図書館で借りた本を秘密の場所で読むのが好きだった。漫画はベッドでしか読まないくせに。そんなことを思い出してバンクーバーを歩いていると、あの時からあまり変わってないじゃないかと、ぎゃふんとなっております。作業療法士にあまり長い時間歩くと浮腫みますよと注意されていたにも拘らず、今日は西、明日は東と、狭っこいバンクーバーのダウンタウンをほっつき歩く中、古書店で立ち読み三昧、中古レコード漁り、そして本棚のない自分の部屋にいや気がさすと、図書館へ。そんな中、平田弘史さんの漫画「血だるま剣法」の英語版を見つけたり、サムライについて書かれた英語の本に嬉々としたり。こっちの図書館も古書店も最高に良い本との出会いばかりで、さらにはやめときゃいいのについ買ってしまい、そろそろ本棚を物色してる自分がいて恐ろしいです。

今撮影中の『将軍』は時代劇、武富一門の弟子から勧められた海音寺潮五郎とか雑兵日記とかも参考に『将軍』の撮影に挑んでおります。本や過去のドラマや映画、そして博物館、さらには絵画など参考になるものは食いまくっておりますが、いざ撮影にはいると冷静さを失う時もあります。そのセットのスケールのデカさ。それは言葉にも出来ない程だと誰かに伝えたとこで、ああもういいよ、いいなあデカいんだろうなあ、羨ましいなあと矢作さんからは言われ、黒沢さんからはどんなふうになるのかとても楽しみにしていますと言われ、とにかく撮影してる私自身が台本読んだだけじゃ全く想像つかない部分も楽しみ。そしてまだまだ撮影中なのにも関わらず海外テレビドラマシリーズにありがちな、連続シーズンなんかも勝手になんちゃってえとか言いながらのらのら想像しちゃうわけです。こちらに来る前に横須賀にある三浦按針の墓参りをしたのですが、そのとき、墓から横須賀の港が見えたんですね。すでにそこで勝手に妄想は膨らんでしまったのですが、あまりにもお恥ずかしい内容なのでかけません。それにしても、安針の墓に行くにも、ここで暮らすにもとにかく歩く。昔の人はカゴや馬がない場合は、歩いたんですものね。毎日歩く中で思考回路が幼くなったようで、本屋だ、なんだと見つけちゃ寄り道ばかりして、さらには遠くウィスラーや離島、降りたら登らなきゃ戻れない数百段の階段の下にある海峡、先住民居留地と、あっちこっち1人でほっつき歩いて冒険三昧。

それにしても日本にいる時よりも浮腫が悪化しない。こればかりは不思議。歩いていて気持ちがいいから？北だから？しかし、疲れたり、ストレスが溜まったり、同じ姿勢でずっといれば自ずと、左足は固くパンパンに腫れ上がるんですけどね。特に撮影中は姿勢が同じだったりすると敵面。予防のために、泳いだり、潜ったり（緑内障に触らない程度の深度）、今日はリンパ浮腫セラピストを探して予約まで出来ました。奇しくもなんと明日は3月6日世界リンパ浮腫デイだったのです。私のVデイ。そして撮影は佳境に入ります。サミュエル・フラーは言いました。映画は戦場。しかし、本当の戦争はさっさと終われ！ですよね。

先日は美術館で開催中のシェイクスピアの戯曲初版本などを見て眼福。これも立ち読みっちゃ立ち読みですが、なかなか見応えはありました。疲れたらベンチで休みながら。そう、疲れたら気持ちのいいベンチで休めばいいのです。そんなベンチがここには結構ある。そして私にはセリフを覚えたり練習する時のためのお気に入りのベンチがあります。秋の日、冬のある日、そして春。あのベンチで頑張るのもあと少しなのか。毎日歩いて泳いで座って。本当にあきらめないで、ここまできた。あきらめそうになったけど、今はここにいる、私。いつも見る桜の樹にそんなこと話してる今日この頃です。ずっと待ち侘びてた花も咲きましたよ。そして、バンクーバーの春の内海はほのかに緑に、そんなはじめての春です。

ではまたね。元気でいてよ。