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自分が、本当に好きなこと。

週末は雨だったから、暇をもてあました息子と
テレビを見てゴロゴロして、一緒にクッキーを焼き、トンカツを作り、食べてしょうもない言い合いなんかをしていたら終わった。

家にいると退屈するのか飛びついてきたりタックルしたりじゃれついて、エネルギーがありあまってる感じ。
夫が雨がやんだ隙をねらって、近所をとにかく走らせにいった。子犬のようなものだ。

こんなときはゆっくり本でも読んだらと思うのだけど、まだ息子はそんなに本にハマっていない。
ときどき読むけど、読書が楽しい!というほどじゃないんだと思う。

こないだ久しぶりに、銀座の蔦屋書店に立ち寄ったら、入口の展示に知人の編集者さんが作った本が目立って置かれていた。
しばらくぶりだったので、思わず元気ですか、と連絡してみたら、元気です元気です、と。
すぐに、会いましょう、ということになった。

その人行きつけのお店で落ちあうことが決まり、久方ぶりに、夜の街を歩く。
自分らしく40代を楽しんでる女性と話すと、ちょっとわたしの背筋も伸びる。自分を喜ばせ、いたわるすべをよく知っている人なのだ。

「ここのお店のごはんが大好きだから、今月はあと◯日と◯日にくる予定なんです。この日のデザートには季節のスコーンを食べて、この日はガレットデロワ。」

季節でうつりかわるメニューをひとつも食べ逃したくないから、もう食べるものも決まってるといって、その人は笑った。

ああ、彼女らしいと思う。
仕事が大変でどんなに忙しいときだって、日常のなかの先々に、小さな楽しみをたくさん散りばめているところ。
じょうずに、自分の機嫌をとる人。

何ごとも計画的なその人と、いつも行きあたりばったり、そのときどきの感情で動くわたしとはまったく違うのだけど、会えば刺激をもらうし、真似したいなぁなんて思うことがたくさんある。

本の仕事をするようになってから、本屋を歩くと、「ああ、これはあの人が作った本だ」と
人の顔が浮かぶことが増えた。それは知り合いだけじゃなく、勝手に憧れてる人なんかもいる。

ときには、そのデザインやタイトルを見るだけで、「たぶんあの人だろう」と分かることもある。

自分が担当した本を本屋で発見するのもうれしいけれど、こうして、色んな編集やデザイナーさんの名前を見つけるのも楽しい。
棚をながめたり、ぱらりとめくったり、物語に吸い込まれたりしているうちにわたしの
心はじわりと満たされていく。

ふと目を奪われる装丁。紙の手ざわり。

昔から、「趣味は読書と本屋に行くこと」と言ってきたけれど、その楽しみかたに、新たな一面が加わった感じだ。

もしかしたら、本の仕事についたことも、ただこの楽しみのためにあったように思える。

まだ10代のころ、その時期にはどうもならないあれやこれやに苦しんで、もし生きるのがどうしても辛くなったなら
家を出て毎日図書館で過ごしてみようと決めていた。
お金が尽きるその日まで、どこかの街の図書館をめぐって、本を読み続ける。
死ぬのはいつでもできるけど、そうしてからでも遅くない気がした。

生きる理由は、ひとつでもあればいいのだと、そのとき思った。

なんか気の利いた趣味でもあればとときどき思うけど、やはりわたしには昔から本しかない。
でも、本があってよかった。

大人になって、自分を満たす方法を知っているのは、幸せなことだ。
息子にもなにか、そんなものが長い人生を通して見つかるといいなと思う。

得意げな手


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