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インドで絶対にインド人を信用するなってインド人が言ってた~インド旅行記5 :バスでスペシャル

2010年11月6日11:00頃 (インド到着より約11時間経過)

ゴア行きのバスを手配する為タクシーは街へ。
街中では車がやたらごちゃごちゃしており、ただ数が多いだけでなく車が縦横斜め好き勝手な方向を向いて好き勝手にクラクションを鳴らしている。子供に片付けさせた積み木みたいに無秩序だ。
お祭りの屋台、そのサイドのみに壁を付けた様なオープン式の店がずらっと並んでいる。
食べ物、服、そしてツアー会社。小太りのおっさんによるとバスは「650ルピー」なんとなく高いと感じる。
私「400ルピーにしてくれ(なんとなく)」
鼻で笑われた。だが 
「マダム、600ルピー」
なんか50ルピー下がる。
いいけど、値段設定どうなってるんだ。
600ルピーを支払う。なんでもいいから決めたかった。
初日で既に旅のプランが狂っているのだ。とにかく 明確な
「私は今○○に行くのだ。行けるのだ」という事実が欲しかった。
「マダムはスペシャルな席だよ。よかったね。二人並びの席じゃなく一番前の窓際の一人席だから。」
ニコニコかニヤニヤか、とにかくその類の顔で奴は言った。
やった、バスでは寝まくれる。
決まったバスの出発予定時刻は15:30。現在11:30。あと4時間もある。
観光する気力も体力も無かった。ここで特に見たいものも無い。
店でじっと待つことにした。
なぜか店の中に入れられて完全に店番のポジションで本を読んだり通りを眺めることになった。この光景はおかしいんじゃないだろうか。しかしこの店、関係者らしい色んな男が
入れ替わり立ち替わり現れては去っていき、よくわからない。

15:20ごろ現れた男がバス乗り場まで案内するので付いてこいと言う。
道すがら果物の屋台を見かける。たぶんマンゴー。インドに入って初めて「おいしそう」が浮かんだ。
思えばずっと水しか飲んでいない。気が張っているのだろう、空腹も感じ無い。
確かにバスは現れ、やっとだとバスのステップを踏んだ時 案内の男が叫んだ
「バスは650ルピーだからあと50ルピー払え!」
んもおーええ加減にせえー!
私「600って言った!もう払った!」
一切ゆずらないまま数回問答するもさっさと席に座る。バスがゆるゆる動き出すと 男は諦めていった。
バスの運転手が「ネクスト、ネクスト」とそいつに言うのが聞こえた。こいつは諦めて次のカモに行けってこと?みんなグル?
バスの乗客をざっと見たら私以外のアジア人はいないようだった。
白人男女が二人、あとはおそらくインド人。
ああでももういい、どうでも、疲れた、眠い。

このバスにあと16時間、ただただ座って乗ってゴアに行くのだ。こんなにも眠りが有効な時はない。
寝て起きたらゴアだった、こんなに素晴らしい事はない。
今こそ眠るのだ、気兼ねなく、このスペシャルなお一人様席で。
ストンと落ちるように眠った。

数時間後に寒さで目を覚ました。
外は夜で土砂降りになっていてここはまだたぶんゴアではない、けど今はそんな事どうでもいい。問題じゃない。
濡れている。
私の左上半身がびしょびしょに濡れているのだ。今これ以上の問題は無い。依然濡れ続けている、なぜだ。
窓が壊れているからだ。窓が壊れていて上のほうに隙間があるから土砂降りの雨が激しく雨漏りし私の左上半身に降り注いでいるからだ。
自らの置かれている状況に混乱する中、小太りの声がエコーする「マダムはスペシャルな席だよ」
皮肉か?やつの皮肉を体現する為に私はお金を払ったのか?いやわかっている、豚カレー野郎にこんな計画的な罠をはれる筈はないのだ、しかし今やもう脳に浮かぶあの笑顔は憎たらしいだけだった。
土砂降りの中壊れ雨漏りする窓際の席。
この場合一人席も二人席も逃げ場の無さは同じだろう。
二人席なら隣のインド人に身を摺り寄せる事になる分には一人席でよかった。
しかし共感者がいない事がやるせない。
二人席であればあなたもわたしも壊れた窓の席に座って濡れてついてないねという共感がある。あるじゃないか。あるはずだ。可能性として今の私よりは確実にある。

「あの一人席に座ってるアジア人の女を見ろよ窓が壊れてて雨漏りで左上半身がびしょびしょだぜあはははまだ濡れてるははは」
乗客の内一人ぐらいそう思っていても仕方がない。私ならそう思う。思うどころか笑いを堪えられるかどうかもわからない。今のところ声に出して笑われてはいないのでそこはみんな優しいのかもしれない。
なぜ壊れるなら二人席の窓ではなかったのか、なぜ私の窓だけが壊れているのかなぜそんな席に私は座っているのかなんでインドにいるのかもうよくわからないがとりあえずここまでろくな事が起きていない事は確かだ。
雨は止んだが身も心もなんだか寒い。私は衰弱していた。
特になにもしていないのに風前の灯火だった。
途中の貴重なサービスエリアでも食事を摂ることができないまま水ぐらいしか買って口にする気にならないまま
早朝7:00、ゴア着。

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