見出し画像

花粉症対策としてスギ人工林の皆伐を推進する政策には科学的根拠がない(国民森林会議)

3月14日に日本が誇る世界の森林生態学者・藤森隆郎さんとオンラインで対談イベントを開催しました。私がコロナ禍以来開催しているオンラインセミナーではじめて100名を超える申し込みがあり、大盛況で、嬉しいフィードバックもたくさん届いています。

対談のテーマはここ10年あまり日本で推進されている人工林の「短伐期皆伐造林政策」に関して、森林生態学と社会科学の観点から問題点を明示し、構造豊かな多間伐恒続森というオルタナティブを提唱する、というものでした。

短伐期皆伐造林政策を大きくプッシュするものとして「花粉症対策」を盾にしたスギ人工林の大規模な皆伐計画が昨年打ち立てられ、推進されようとしています。10年間でスギ人工林を2割、皆伐によって減らす、というものです。

藤森さんが会長を務められている国民森林会議では、この政策に関して、科学的な視点と分析に基づいて先月、明確に誠実に批判の声明を発表されました。
https://peoples-forest.jp/wp-content/uploads/2024/02/teigen2023.pdf

様々な視点から詳細で明快な科学的分析がされていますが、核心となるのは、都道府県別にスギ人工林比率とスギ花粉症有症率を比べた図です。スギ花粉症有症率が高い都道府県(主に大都市圏)ではスギ人工林率が低く、スギ人工林が多い県(四国や九州、東北など)では、花粉症発症率が低い、という分析の結果がだされています。相関関係がまったくありません。よって、スギ人工林が多い地域でスギを減らしても、スギ花粉症有症率が多い大都市圏での花粉症削減にはつながらない、ということです。

花粉症対策の背景にある短伐期皆伐造林政策に関しても、国民森林会議はすでに2014年に明確に批判の声明を出されています。
https://peoples-forest.jp/wp-content/uploads/2022/06/teigen2014.pdf

その論旨の根幹は、森林生態系サービス機能です。
森林生態系サービス機能とは、
・生物多様性
・水源涵養機能
・表層土壌有機物量
・森林生態系の炭素貯蔵量
などです。
これは自動車や電気製品を製造する工業に例えると、樹木を木材として健全に育てるための生産工場設備にあたります。
人工林では、この森林生態系サービス機能(生産工場設備)は、林分初期段階(0〜15年)、若齢段階(15〜50年)で各種機能が低下し、その後、成熟段階(50〜150年)に移行しながら上昇し、老齢段階(150年〜)で安定していきます。
短伐期皆伐は、生産工場である森林生態系サービス機能が、これから性能を高め充実していこうとするときに、リセットボタンを押すことです。ボタンを押した後(皆伐後)は数十年、生物多様性も保水機能も表土有機物量も土壌の炭素貯蔵量も大きく減少します。短伐期だと、皆伐を行うたびに、生産工場の機能が劣化していきます。農業の連作障害と同じ構図です。

車や電気製品の工場が劣化すれば、メンテや改修、設備入れ替えすればいいですが、樹木の生産工場(森林生態系サービス機能)は違います。複合的な共生関係のなかで発展している生命複合体です。森林生態系サービス機能の根幹である土壌は、樹木と「持ちつ持たれつ」の関係で一緒に発展し、リジェネレーションしていきます。人間は、うまくやれば、費用をかけずに生産工場設備を維持発展させていくこともできます。うまくやっている事例は、日本も含め、世界中にあります。数百年前から、科学的なデータや根拠がなくても、自然や家族や地域社会への深い愛情をもった人たちによって感覚的・経験的に構築され、実践されてきた恒続的な森づくりの手法があります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?