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デザイナーに社長を動かすコツを覚えられたらコンサルは勝てません

●こんにちは!おおうらと申します。
ウコンとショウガの農家を夫婦で営むかたわら、SDGsの事業化とか補助金活用とかのさまざまな社内プロジェクトのサポートをする経営コンサルタントをしています。

コンサルタントはコンサルならではの「社長を動かすコツ」を駆使して仕事をしています。コンサルタントの手の内とも言えるこのコツはどんな業界でも職種でも役職でも使えます。営業分野でも製造分野でも教職でも管理職でもパートさんでもどこでも誰でも、使っている人はすでに使っています。

●この記事はデザイナーのために書きました。デザイナーとはユーザーに向き合ってその体験の価値を高める仕事だとぼくは考えています。だから世の中のすべてのデザイナーは、UXという言葉を使っていてもいなくても、UX向上を仕事にしている人だと思っています。

●社長を動かすコツはこの3ステップです。

1.事前に社長のことをよく調べる
2.質問で社長のふところに飛び込む
3.社長のゴールを自分のゴールとする

先にUXの話です

(UXに詳しい方は読み飛ばしてください)

UXは「User Experience ユーザー体験」です。製品やサービスから得られる顧客の体験のことです。製品やサービスを使う前の期待感、使っている間の実感、使った後の感想、くり返し使って作られていく印象イメージを含めた一連の体験のことです。

コト消費が当たり前になった今、ビジネスは「その場限りの体験」と共に「また使いたい/使い続けたい」「かかわり続けたい」と思ってもらえるかどうかの競争になっています。ビジネスの戦いの場はUXの優劣を競う場に移りつつあります。

●UXは外の、お金をはらってくださるお客さまの体験の向上だけでなく、社内のさまざまな問題の解決も目指します。たとえば社内の部署間の風通しの体験も、社員の勤務時間中の快不快の体験もUXの対象です。会社に関係するすべての人のあらゆる体験をよりよいものにしようとするのがUXです。

●社長も事業部長もプロダクトマネージャーもプロジェクトリーダーも、誰もが多くの仕事を抱えているのでどうしても数字やビジネスモデルにだけ目がいってしまい、ユーザーの視点がなおざりになってしまうことがあります。
四六時中、ユーザーの体験のことだけを考えているのは、インハウスであろうと社外にいようと、デザイナーだけです。この強みがあるからデザイナーは、これからお話しする「社長を動かすコツ」をうまく使いこなせる立場にいます。

1.事前に社長のことをよく調べる

コンサルタントが社長に会うときは、訪問前に相手のことをできる限り調べておきます。その会社のミッションやビジョン、ビジネスモデル、製品サービスの特徴、お客さまや社員の声などホームページやSNSを丹念に読み込んでおきます。公開企業は決算書もよく見ておきます。よく知る業界なら別ですが、なじみのない業界ならその業界の最近の状況や業界の大きなトレンド、共通の課題なども調べておきます。有名社長ならあちこちにその言葉が載っていますからよく読み込んでおきます。事前調査に半日以上かかるのはザラです。

デザイナーなら上の情報に加えて、この会社のユーザーはどのような人でどのようなライフスタイルでどのような体験を求めているんだろうという観点からも調べます。競合のサイトとSNSはしっかり見ておきます。取れる分析データがあればみておきます。そこの現状のコミュニケーションシナリオを推測しておきます。

2.質問で社長のふところに飛び込む

質問力は社長を動かす最大の武器です。さまざまな切り口や事前の仮説から質問をして返事を聞きます。それをもとに頭をフル回転させてまた新たな仮説を作って質問をして仮説の検証を続けます。そうやって社長本人も気づいていない問題をあぶりだしたり整理したりします。

質問したら傾聴力が試されます。相手にしゃべらせ、こちらはジーっと一言もはさまずに相手の言うことをひたすら聴きます。どんなにつらくても耐えます!
もしこの傾聴力を家庭でも発揮できていたら、ぼくは2度も離婚しなかったのではないかと思います(お恥ずかしい)。

●質問力は傾聴力に加えて、業務の広範な専門知識と経験はもちろんのこと、理解力、コミュニケーション力、人間力などの総合力なのでレベルが上がるのに時間がかかります。質問力を上げようと意識して場数をこなしていくことです。
ただあなたの手元にはすでに相手のミッションから始まる詳細な事前調査メモがあります。それを見ながらリストをつぶすように質問していけば、初めからかなりいい質問ができるはずです。

大切なことは、かんたんに相手の言うことを分かった気にならないことです。どこまでもしつこく相手の奥にあるほんとうの欲求や悩みを探り続けることです。相手は経験豊かな社長です。あなたがほんとうに分かっているのか浅い理解しかできていないのか、かんたんに見破ります。ほんとうに分かるまで妥協しないで質問し続けること。それが社長があなたを認めるポイントです。相手のふところに飛び込むコツです。このことは特に若い方に知っておいてもらいたいです。

●ぼくはいつでも相手に「あんた、そこを聞くか!」とうならせる質問をたった一つでいいから投げかけることを目標にしています。
あなたの質問の一つでも社長の心に刺さったらその瞬間、あなたは社長から一目置かれる人になります。

3. 社長のゴールを自分のゴールとする

いよいよこちらの思いを伝える番です。

●発する言葉には、相手の役に立ちたい、ミッションを応援したい、UXを高めてあげたいという本気の思いを乗せます。
「本気の思いを乗せる」ためにどうしたらいいというアドバイスはありませんが、ぼくはそのために以前から気功や大東流合気柔術などを習ってきました。自己満足かもしれないけれど、とにかく言葉に「気」を乗せるようにしています。(触らないで人をふっとばすことはまだできていません)

自分の発する一言が相手にどんなふうに聞こえるのかを想像しながら言葉を発します。
ぼくはコンサルになりたての頃、口を開く前に必ず頭に言葉を思い浮かべ「今これを口にしたら相手はどう受け取るか」と考えながら会話をするという訓練を続けました。今ではかなり自然体でその場に適切な言葉が使えるようになりました。
でも家庭ではいまだに自分の一言のもたらす結果が予測できずに自爆して、今の奥さんからよく叱られています。仕事ではけっこうできてると思うんです。(どうして家ではできないんだろう?)

●社長のゴールをこちらも自分のゴールにしていることを伝えます。
社長がほしがっているのはホームページの改訂でもなければカタログの刷新でもありません。ミッションの実現とビジネスの成功です。ミッションは会社の存在理由です。ミッションのために会社はありますから、ミッションとは会社にとってもっとも優先順位の高いものです。
ミッションの実現やビジネスの成功という社長と同じゴールを、こちらも自分のゴールとしていることを分かってもらうことが大事です。

●たとえば「わが社のホームページはどうかね?」ときたら「森とつながる暮らしの応援というのが御社のミッションですよね。森とつながる相手は具体的にだれで、その相手にどのような暮らし方の体験を応援しようとしているのかが、今のホームページからは見えてきません。まず、森とつながる暮らしというのがどんな暮らしのことなのかお聞かせ願えますか?」みたいな感じで対話を転がしていきます。(上のミッションはぼくのクライアントさんの本当の例です)
大事なのは、ひたすらミッションに立ち戻って話をすることです。ミッションでなくても、経営理念やビジョン、ビジネスの最終的な成功などでもいいです。とにかく徹底して高いところに立ち戻って話をすることです。
ミッションや、経営理念、ビジョン、ビジネスの最終的な成功などから現状を見ることは多くの社長本人もなかなかできていないので「ははあ、このデザイナー、やるな」とニヤリとされたり感心されたりすること請け合いです。

●役職が下になると、「ミッション」は社長のようには効きません。相手がプロジェクトマネージャーならその関心はプロジェクトで設定したゴールと期限とコストです。だから「プロジェクトの成功のためには顧客体験の視点から見ると〇〇のように思われますが、いかがでしょうか?」ですし、相手が事業部長なら「今期の事業部目標達成のためには顧客体験を考えると〇〇のように思われますが、いかがでしょうか?」です。相手にこちらが自分と同じゴールを見ている人間だと認めてもらうことです。

●多くの社長は、ホームページや個別のプロダクトの話ではなく、全体のコミュニケーションのありかたからプロダクト、そして売り場までトータルで相談する相手がほしいと考えています。
「お客さま向けUX施策のことを言われているけれど、この会社には社内をまき込んで社風を一新するようなUX施策が必要じゃないだろうか」「Webサイト改訂の要望だが、その前に顧客対応サービスのコミュニケーションプロセスの見直しが先じゃないだろうか」
このように、相手のゴールを何がじゃましているのかに注意を払いながら対話をすることで、あなたはUX全般の相談相手になっていきます。

●UX戦略や施策はクライアントのミッションや経営理念に合ったものでなくてはなりません。UX戦略はミッションや経営理念の体現になるものです。
ぼくは以前、「正義のハッカーが悪のクラッカーを倒してネット社会の安全を守る」というミッションの会社を経営した時代があります。ベンチャーキャピタルが色々助けてくれましたがぼくの未熟さのせいで倒産したのでまたコンサルタントに戻りました。で、そのとき、マーケティングの方策としてこんな案があがりました。
「さまざまの組織のサーバに片っぱしから侵入してその痕跡を残し、各社に現状のセキュリティリスクの存在と当社のブランドを認知させる」
相手に体験を提供するという意味でこれもUX施策ですが、一時的にでも自社が悪のクラッカーになるわけですからこれはわが社のミッションに逆行します。だから採用しませんでした。
その会社にふさわしい、その会社ならではの理想のUXを追求してください。

●ミッションという高いところから下りていき、最後に目先のホームページやカタログの解決策などの話に行きつきます。顧客体験を追いかけるデザイナーはデータを扱い慣れていますからすでに武器を持っています。データや論理を聞くと実務家の社長は安心します。

終わりに

●これだけ世の中の動きが速く人の多様性が進み続ける中では、昔ながらにじっくり分析して戦略を組み立てていくタイプのコンサルタントは置いていかれるでしょう。ロジックで導き出した決め打ちの戦略が1年で、早い時は半年で、見直さねばならなくなっているんです。

●デザイナーは誰にどんな体験価値を届けるかを考え続け、反復と改善を柔軟に繰り返します。ユーザーの体験を吸収しながら疾走する感じです。これからはデザイナーが経営の中心にくる時代だと感じます。短期的なプロジェクト運営を仕事にしているぼくの実感です。ぼくは足手まといにならないように気をつけながら、これからもデザイナーさんといっしょに歩かせてもらいたいと思っています。

デザイナーが社長を動かせたら会社は変わります。ただ知り合いのデザイナーを横で見ていると、相手に言葉で伝えるところが弱いようです。そのために、デザイナーがUXをかかげて会社の中心になるところまでなかなか行きません。それがあまりにもったいないのでぼくの手の内を記事にしました。使えるところから使ってみてもらえるとうれしいです。

お読みいただきありがとうございました!


●追記です(2021.9.26)

この記事で言う戦略は事業戦略のことです。

一方、長期的な戦略が必要な場面があります。それは「SDGsサステナブル経営戦略」です。

新しいアイデアや取り組みについてトライ&エラーを繰り返しながら徐々に正解に近づいていく方式(フォアキャスティングと言います)では、この記事に書いたようにデザイナーの力が大いに発揮されます。

一方、サステナブルを考える際は30年後50年後の未来の理想の姿を想定して今日今月今年の行動を決めるバックキャスティングという方式による、じっくり練った戦略策定が必要です。
ロジックを積みか重ねて作る戦略にもまだまだ役割はありそうです。

全体の目次はこちらです

「事業再構築補助金が採択される5つの瞬間(実例付き)」はこちらです

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