見出し画像

「栗ちゃん」

栗ちゃんは、中学の同級生の男子だ。当時福岡の田舎の中学生といえば、有無を言わさず丸刈り。

ひょろっと縦長の色白の顔。右か左どちらかの鼻の下に小さなほくろがあった。いかにも昭和の中学生。

クラスの男子の中では小柄な身長。淡々とした性格に見えるが、常に面白いことを見つけてふざけていた。

私は場面緘黙があって、誰とでも話せるタイプではなかったけれど、栗ちゃんとは楽しくお話しできた。人によって態度を変えることをしない、ちょっと不思議系男子だったから。

ある日栗ちゃんといつものように楽しくお話ししていると、栗ちゃんが「うっ…っっ!」と言ったきり椅子に座ったままお腹を抱えてうずくまってしまった。「うう〜〜〜」と痛そうにうずくまる栗ちゃんを心配して、「大丈夫⁉️お腹痛いの⁉️」と覗き込んだ途端、「ゔごああああ〜!!!!」と怪獣めいた叫びと共に黒の学ランの胸から どばあ と栗ちゃんの片手が生き物のようにとびたした!「わあ‼️」本気で心配したのに…なんじゃこれゃ?いつの間に片手をしまい込んでたんだ⁉️

ビックリしたのと、くだらないイタズラに爆笑してしまった。そして栗ちゃんは何事もなかったように、飄々と片手を学ランの袖にもどした。

栗ちゃんはこういう子だった。面白いことを思いついても、クラス中に披露するわけでもなく、教室の片隅で、たった1人のクラスメイトに披露して、あとはしれっと涼しい顔をしている。人によって態度を変えることなく、誰にでも同じ態度で接してくれた。

時々ふと栗ちゃんの色白のほっそりした顔を思い出す。栗ちゃん、今頃どうしているかなあ?あのまま素敵な不思議おじさんになっていて欲しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?