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雀のなみだ

篠笛と一中節 夏の会

誘ってくれたすずさんがくれた
「すずめの涙」

「Sちゃん、これあげる」 
彼女だけがわたしのことSちゃんと呼ぶ
「何で」と聞くと
「ええ~、Sちゃんかわいいじゃない
。あなたは今日からSちゃんね」

はい、はい、どうぞご自由に

そのすずさんがわたしだけにこっそりくれたのが
「雀のなみだ」
なんとなく手拭いなのかと思ったが
人前では開けたくない
家に帰るまでは手を触れない

すずさんは発表途中でのどがカラカラで息ができなくなり
篠笛が吹けない

「すみません、お水を飲ましてください」と裏に引っ込む
あらあら
すずさんらしい
人柄が出る

お水をのみ
もう一度最初からやり直す

今度は無事に最後まで「城ケ島の雨」を吹き終えました

もう一人、最後のお名取さんの時はお師匠さんが三味線の演奏音を流し忘れ
こちらも最初からやり直し

いやぁ、お師匠さんもやりますねぇ

すずさんは演奏のあと
わたしのもとに来て
「恥ずかしかった、でものどがカラカラで…」と抱きつきました
わたしは
「大丈夫、良かったよ」

パタパタとしている間に終わりとなり
出口に急ぐと
飾ってあった生花を小さな花束にして
どうぞご自由にお持ち帰り下さいと机の上に並べられている
残りあとひとつ、ふたつ
どれでもいいともらう

最後には一中節のお名取になった方から手拭いを頂く
手拭いには「喝」の文字
ユルユルのわたしには厳しいなぁ

ホテルの宴会場でお土産つきの発表会
お値段は二千円
えっ、破格でしょう

帰りは途中で一人ラーメン
あぁ、満足満足

家に戻り「雀のなみだ」を開けると
丁寧に刺繍の施されたお手拭き

まさかまさか、すずさんが縫ったの
あんなにマグロのように動き回る人が
寝る間を惜しんで
縫っているの

居眠りをしながら縫ったの
ちょっと心配

あとから聞いたら
お友達に縫ってもらったって…

あぁ、良かった

「お母さんのご用に使ってね」
はい、大切に使わせて頂きます


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