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あの夏を忘れない

スコーン!
ラケットが気持ち良くボールを弾く

30面近いコートは汗と歓声を楽しんでいた
僕らは真ん中あたりのコートでダブルス戦

傾いた日射しは徐々に低く
湧きだした雲が途切れ途切れにした頃のこと

「うああ」
突然端の方のコートから叫び声がした
逃げ惑う人たちを追いかける激しい雨

雨のカーテンが音を立てて激走する
僕らも駆けたが忽ち追い抜かれた

あっという間にびしょ濡れだ
無数の雨粒たちが僕らにさよならした

お互いおかしな顔を見合せ吹き出した
雨を拭き取り一休み
もう雲が切れ夕陽が元気に顔を出す

「あれっ晴れちゃった」
と髪を撫でながら彼女

そう昨日の君みたいだよ
コートに戻った君の影はとても長く
影さえ輝き眩しかったね


年月は過ぎ去り僕たちの皺も増えた
今は遠くに行ってしまった仲間もいる
空からコートを見ているだろうか

僕らが雨粒たちの命懸けの疾走を知った夏
泣き笑いと甘酸っぱさを切なさで包んだあの夏

戻れない
しかし忘れない
心にそっと仕舞っていたい

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