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ゼロコロナという病 (藤井 聡・木村 盛世)

(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)

 時節柄、この手の本をまずは何か1冊読んでみておこうと思っていたのですが、ちょうどいつも利用している図書館の新着書のリストに載っていたので手に取ってみました。

 コロナ禍対応については、様々な意見が飛び交う “百家争鳴” 状態にあります。現時点の政府の対応姿勢は、新型コロナウィルス感染症対策分科会の提言等も踏まえた「非常事態宣言発出」に代表される “人流抑制” を中心としたものです。

 本書の著者のお二人、藤井聡氏は公共政策やリスク心理学の専門家、木村盛世氏は米国CDC(疫病予防管理センタ)での勤務や厚生労働省医系技官を務めた経歴の持ち主で、今の政府の対応方法には反対の立場です。

 本書で開陳されているお二人の主な主張は以下のようなものです。

 まずは、「自粛による人流抑制と感染者数の減少との相関関係はない」という事実。

(p78より引用) 「自粛」と「感染抑制」との関係を統計的に検証するために、今手元にあるデータを全て使って、感染が広がり始めた昨年(2020年)の2月1日から、今年(2021年)の5月25日で、先程の相関係数をとってみたら、やっぱり相関が無いっていう水準の -0.01になった(無論これもまた、統計的に有意差はないという結果です)。念のために実効再生産数と自粛率の変化同士の相関係数をとっても、ほぼ ゼロという水準 (0.055)。
 だから、データを虚心坦懐、普通に眺めれば、「自粛したら、感染者が減る」なんて効果は全然存在しない、としか言いようがない。もちろん「ドンチャン騒ぎの頻度」とかのより精度の高い行動データがあれば、「ドンチャン騒ぎの自粛」が感染抑止に効果があるという結果が出ることもあるんでしょうが、行動の内容を問わずに「とにかく自粛する」「とにかくステイホームする」なんてことが感染を抑止する証拠なんて、全くもって、一切、ないんです!

 そして、お二人は、本来採るべき対応の第一は自粛ではなく、「コロナ対応病床の拡大」だと主張します。

(p108より引用) 藤井 そうですよね。確かに「自粛」によって医療崩壊を防ぐことができるかもしれない。しかしそれよりも政府がもっと直接的効率的にできることはコロナ病床を増やすことです。単純に需要と供給の問題で、「自粛」によって病床の需要を抑えるのではなく、コロナ対応病床の供給を増やせば「医療崩壊」は起きない。たった1.8%しかコロナ対応に使っていないのであれば、まだ病床を増やせるはずです。・・・ 特に僕は経済財政政策も専門にしているから、政府が徹底的に支出を拡大してコロナ対応病床を増やせ、と言い続けてきた。
 ところが、ですよ。一年経ってふたを開けてみたら、なんとコロナ対応病床が当初より減っていたんですよ!

 3点目は、マスコミ報道や政府対応に表れる「専門家信仰」への懐疑

(p119より引用) 藤井 だから今回のコロナ禍の問題点は「専門家の言ってることは正しい」が前提となっていることなのです。しかも、その「専門家」が、一体何の「専門家」なのかについて頓着せず、とりあえず医学系の人ならばまぁ専門家なんだろう、ましてや「感染症専門家」なら何だかよく分からないがとにかく完璧な専門家だろうという程度の曖昧な基準で素人の皆さんが専門家かどうかを選別してしまっている。で、そんないい加減な定義で専門家だと思い込んだ専門家を疑わない、信じちゃうっていう極めて愚かな現象が起こっている。で、そんなこんなで、「ある種の専門家支配」が起こってしまっている。

 今回のコロナは「新型」なのですから、ピンポイントで “今回のウイルスの専門家” はいるはずがありません。感染症の専門家は、感染症を抑え込む医学的見地からの対処法は絞り出せるかもしれませんが、それに伴い生じうる“より広汎なリスク”は眼中にありません。

 木村氏は最終章でこうコメントしています。

(p214より引用) 新たな感染症がやってきた場合に備えて、国内の医療体制を充実させる、また、ワクチンなどの開発に積極的に取り組む、という根本的、近代的な対策を強化すべきだと思います。日本は、いまだに感染症対策に対して、水際対策、感染症封じ込め、といった前時代的な、精神論的政策に重きをおく傾向があります。
 繰り返しますが、人の流れを強制的に止めることは永久には難しいし、それによって感染症をゼロにすることは極めて難しい、ということを為政者は正しく理解することが重要です。

 もちろん、お二人の主張への反論もあるでしょう。誰かの考えがすべて正しいというほど単純ではありませんし、今後も新たな状況の変化によって採るべき対策が変わってくることも当然のこととして想定されます。

 ただ、そういった状況下において、持ち続けるべき基本姿勢として言えるのは、「信頼できる事実を把握すること」そして「事実に基づき判断すること」。そういった「判断プロセスや根拠をしっかりオープンにして多面的な議論を経て理解を求めること」だと思います。

 こういった “基礎的な科学的思考スタイル” がないがしろにされる状況が続く限り、対策はぶれ続け、混乱の期間はズルズルと長引いてしまいます。
 そして、その間にも「直接的なコロナ感染」に拠らない “不幸な状況” が生まれ続けるのです。それは何としてでも防がなくてはなりません。



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