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なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想 (フィル・ローゼンツワイグ)

ビジネス書の妄想

 書店の経営関係のコーナーにいくと、経営者・コンサルタント・大学教授等が執筆した多くのビジネス書が平積みされています。そして、そのほとんどは、「どうすれば成功するか」をテーマにしその秘訣を説いています。

 本書もその中のひとつです。が、内容は、成功の秘訣をさぐるために企業や経営者の調査・研究をしたものではありません。
 多くのビジネス書で論じられている根拠・方法について、疑問の一石を投じています。

(p63より引用) それぞれの時代背景に照らして読めば、どの記事も不思議なところはない。すじの通った説明がなされている。だが、数年の経過をたどりながら読んでみると、はたして書き手はストーリーを正しく理解していたのかと疑問を抱かざるをえない。・・・こうした記事を並べてみると、・・・事実で過去を埋めて歴史を書き、記録を並べかえて単純なわかりやすいストーリーに仕上げているのである。現状とつじつまが合うように過去を解釈した典型的な例だ。

 著者が最も強く主張しているのは、「ハロー効果」による妄想です。

(p91より引用) ハロー効果とは、認知的不協和[訳注:個人にあたえられた情報に矛盾があるとき生じる不快感]を解消するために、一貫したイメージをつくり上げて維持しようとする心理的傾向なのである。・・・私たちは財務実績の数字を当然のように信じる。だからそれをもとに、もっと曖昧で客観的にとらえにくい事柄を評価してしまうのも不思議はない。

 成功している企業のマネジメントの秘訣を探っても、それは「ハロー効果」による歪んだ姿をすくい上げているにすぎないと言うのです。
 成功している企業の経営者は、業績が優れているという「結果」により実体以上に優れて見える、同じ経営者であっても業績が悪化すると、(たとえマネジメントスタイルが変わらなくても)評価は一変します。
 その場合経営者は、「企業をとりまく環境が変化しているにもかかわらずマネジメントスタイルを変えなかった」と結果論的に非難されるのです。

(p108より引用) ビジネスについて考えるとき、じつは数々の妄想が私たちの邪魔をしている。その一番目がハロー効果だ。経営者も記者も大学教授もコンサルタントも含めて、私たちが企業パフォーマンスを決定する要因だと思っている多くの事柄は、業績を知ってそこに理由を帰した特徴にすぎないのである。

 著者が妄想2としてあげているのが「相関関係と因果関係の混同」です。

(p123より引用) 相関関係は因果関係の仮説を立てるには使えるだろうが、科学的な証明はできない。

 たとえば、企業業績と従業員満足度
 相関関係は存在していても、どちらが原因でどちらが結果なのでしょうか。著者が紹介しているメリーランド大学の研究結果では、「企業業績が従業員満足度に与えた影響の方が大」とのことでした。

疑問の答え

 著者は、「エクセレント・カンパニー」「ビジョナリー・カンパニー」などの過去のベストセラーとなった有名なビジネス書の主張を具体的に示して、それらの論証に疑義を唱えています。論拠となったデータがハロー効果のために歪んでいたというのです。

 成功した経営者に対するインタビューは、ビジネス書には付き物です。が、こういったインタビューの答えはハロー効果だらけになると著者は指摘しています。

(p187より引用) この種の質問事項、つまり過去にあったことを説明させる質問から有効なデータが得られることはめったにない。自分のことをふり返るときには、業績が先入観になるのが普通だからである。

 著者は多くのビジネス書にみられる共通の陥穽を、次のように指摘しています。

(p214より引用) つぎつぎと出版されるビジネス書には、その核心に共通の虚構があるのが見えてくる。すなわち、企業は偉大になることを自由に選択できる、わずかなステップで意図したとおりに偉大になれる、成功は外的要因に影響されることなくもっぱら自分の意のままに引き寄せることができる、ということだ。

 世の中でもてはやされているビジネス書は、多くの経営者に対して成功への具体的要諦を示しています。
 それに対し、著者はこう断言しています。

(p244より引用) どうすれば成功するのかという疑問の答えは簡単だ。これさえすれば成功するというものなどない、少なくとも、どんなときにも効果があることなどない、というのが答えなのである。・・・企業の成功は相対的なものであること、競争で優位に立つには、慎重に計算したうえでリスクを負わなくてはならないことを理解するべきだ。

 著者が、優れた経営者として紹介しているロバート・ルービンのことばです。かれは、ゴールドマン・サックスに26年間勤務し、クリントン政権の財務長官でもありました。

(p246より引用) 「成功とは、手に入れられるあらゆる情報を勘案して何通りもの結果が生じる可能性とそれぞれの損得を割りだそうとすることで得られる。・・・」

 彼はこういう姿勢を「蓋然的意思決定」と呼んでいます。

(p249より引用) 単純にあとでふり返って判断がよかったとかまずかったと批評するのではなく、行動をその価値にもとづいては判断するのである。・・・こうした冷静な評価をすることで、ゴールドマン・サックスはこの一件から教訓を得、つぎの成果につなげられる。

 もうひとつ、著者が優れた企業だと紹介しているコンピュータ周辺機器メーカのロジテック(日本社名:ロジクール)の経営方針です。

(p262より引用) 「『壊れていないならいじるな』症候群にならないように気をつけています。つねに経営方針を変え、組織を変え、システムを変えている。成功した企業は変化に対する抵抗感が非常に強くなるものなので、あえて変化を促さなくてはならないのです」

 このあたりは、先に紹介したトヨタの経営スタイルにも通じるところがあります。


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