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丘の上の綺羅星 (嘉門 達夫)

(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)

 通勤の行き帰りで聞いているPodcastの番組で取り上げられていたので興味を持った本です。
 著者は、シンガーソングライターの嘉門達夫さん。ラジオ番組「ヤングタウン(ヤンタン))」が舞台だと聞くと読まないわけにはいきません。

 MBS毎日放送の「ヤングタウン」は、TBSの「パックインミュージック」、文化放送の「セイ!ヤング」と並んで、私の学生時代の愛聴番組でした。今から30年(注:今(2023年)からえ言えば40年)以上前になります。アリスで大ブレイクする前の谷村新司さんと佐藤良子さんの木曜日、笑福亭鶴光さん・角淳一さん・佐々木美絵さんの金曜日は、深夜放送番組の中でも特に絶品でしたね。

 嘉門さんは、この「ヤングタウン」に19歳でレギュラー出演し始めました。当時の芸名は「笑福亭笑光」、鶴光師匠の弟子、ヤンタンのプロデューサー渡邊一雄さんの目に止まったのが大抜擢のきっかけでした。

 しかし、その後、ほどなく師匠との間の軋轢で破門され、今で言う“自分探しの旅”に出たのでした。まずは、北へ。

(p140より引用) 列車とヒッチハイクで江差に着く。・・・
 熊石という町に辿り着き、線路伝いに歩いていると、食堂の看板が目に飛び込んできた。
「なべさん食堂」
 バックからカメラを取り出しシャッターを切った。
 旅の途中で現像に出し、迷惑をかけたヤンタンのプロデューサー渡邊さんに手紙を書く。
・・・
 渡邊さんこそが、今後の人生のキーマンになる。打算的だが、そう確信していた。認めてもらえるような答えを持って帰らなければならない。

 嘉門さんと私は、ほぼ同年代。彼が北海道を放浪していたちょうどそのころ、私も学生の旅で北海度を巡ったことがあります。
 本書でも、礼文島や斜里のユースホステルが登場します。礼文はやはり「桃岩荘」でしょうか。私も一度泊ったのですが、あのユースは当時からそのパフォーマンスの濃さで超有名でした。懐かしいですね。

 さて、本書は、嘉門達夫さんの自伝的小文ですが、その主人公は渡邊一雄さんでした。
 嘉門さんの人生を常に応援してくれていた渡邊さんが末期がんで入院しているとき、嘉門さんは渡邊さんからの依頼で、入院先の病院でミニコンサートを開きました。

(p225より引用) 歌っている最中に、笑顔の渡邊さんが目に入った。笑わせる歌を歌っているにもかかわらず、泣きそうになったので、窓の外に広がる青空を見つめながら歌った。

 嘉門さんに限らず、桂文枝(当時は三枝)さん、谷村新司さん、笑福亭鶴瓶さん・・・等々、渡邊さんに見出され、ヤングタウンという番組を舞台に大きく育っていったタレント・歌手の方々は数多くいます。

(p251より引用) 「本当の意味で『人を育てる』ことの出来る人は、決してそれを自慢したり恩に着せたりしない。」

 渡邊さんに才能を認められながらも、広く世に知られることなく歌手を続けている金森幸介さんが、渡邊さんに30数年ぶりに再会したときのことを自らのブログに記したこの言葉が強く印象に残ります。



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