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日本を揺るがせた怪物たち (田原 総一朗)

(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)

 いつも行っている図書館の新刊書の棚で目についたので手に取ってみました。
 田原総一朗さんの本は久しぶりです。

 “怪物” の名を被って登場する人物は12人。
 “政界の怪物たち”として、田中角栄・中曽根康弘・竹下登・小泉純一郎・岸信介、“財界の怪物たち”として、松下幸之助・本田宗一郎・盛田昭夫・稲盛和夫、最後に “文化人の怪物たち” として、大島渚・野坂昭如・石原慎太郎。確かにどなたも何れ劣らぬ「怪物たち」ですね。

 どの人物を取り上げた章でも、興味深いエピソードが紹介されていますが、その中から私の目を惹いたものをいくつか書き留めておきます。

 まずは、「政界のおしん」こと竹下登氏
 中曽根氏のあとを受け、長年の懸案であった「消費税導入」を実現した時の総理です。

(p87より引用) 竹下は、「一般消費税は導入しない=名前を変えれば導入できる」といった手品のような珍発想を出し、またそれを実現できる能力の持ち主だった。その自信があったからこそ、自分を「理念なき、哲学なき政治家」だと平気で言ったのだろう。

 次は、ホンダの本田宗一郎氏
 こちらは山ほど評伝や語録が出ているので改めてという感じがですが、このエピソードは知りませんでした。
 ホンダの工場がある鈴鹿市、その新しい商工会議所ビルにホンダの看板が掲げられているのを見たとき本田氏が頭を下げながら会頭に言った言葉として紹介されたものです。

(p194より引用) 「お気持ちは言葉に尽くせないほど嬉しいですよ。しかし、あれを見て、いろいろと感じる人もいます。また、うちの若い連中が天狗になったり、何も感じなくなったらとんでもないことです。地域社会に企業が威張っているような印象だけは避けたい。お互いに遠慮しあうところが人間の付き合いのはじめであり、終わりだろう」

 理不尽な権力には反発し、自らが権威になるのも徹底して嫌う、本田氏が終生貫いた姿勢の表れだと著者は指摘しています。

 続いて、井深大氏と共にSONYを作った盛田昭夫氏
 初めてテープレコーダを開発しそれが国内では全く売れなかったときのまさに盛田氏らしい姿。

(p203より引用) そこで盛田は「買い手がいないのなら、買い手を探そう」と考えた。日本にないものを作るということは、マーケットも販売ルートも作るということだ。市場は技術と同じように、開発するものと考えたのだ。

 さて、本書を読み通しての感想ですが、正直なところ期待が大きすぎたようです。「怪物」といわれるような人物をひとり20ページほどのボリュームで語るのですから圧倒的に物足りなく感じるのは当然ですね。

 それでもまだ “政界の怪物たち” の章では、田原氏ならではの付き合いから得られた面白いエピソードも記されているのですが、首をかしげるのは財界人の方を取り上げた章です。
 特に稲盛和夫氏の「アメーバ経営」に触れているくだりとかは「???」満載です。周知のことですが、アメーバ経営の基本は「時間当たりの採算最大化」です。その指標を部門別管理の基本におき、「全員参加経営」を目指したものという点では稲盛イズムのひとつのシンボルであることはそのとおりなのですが、実態は氏が総括しているほど単純ではありません。
 その成果として、

(p235より引用) だから、京セラでは使途不明金はなく、粉飾決済は絶対起きないということになる。

と語られるとちょっとがっかりしてしまいます。

 このあたり、本書の軸は、著者が得意とする「素顔の人物像」にまつわる記述に特化すべきでしたね。



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