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この世で一番おもしろいミクロ経済学 ― 誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講 (ヨラム・バウマン)

(注:本稿は、2012年初投稿したものの再録です)

 ユニークな体裁で、ちょっと話題になっている本のようですね。
 「ミクロ経済学」の主要なキーワードを豊富なイラストと身近な具体例で概説した超入門編です。基本概念の復習であったり初心者に対する説明方法のヒントであったりと、入門編は入門編としてそれなりの気づきは得られます。

 たとえば「限界分析」に関する説明ではこんな具合です。

(p21より引用) 〔日常会話〕 釣りに120分かけるつもりだけれど。もう数分余計に釣ろうかしら?
〔経済業界用語〕 釣りに数分余計にかける限界便益は、限界費用を上回るでしょうか?
〔日常会話〕 コックを5人雇うつもりだが、6人の方がいいかな?
〔経済業界用語〕 限界労働生産の価値は賃金率よりも高いかしら?

 そのほかにも「ゲーム理論」や「需要と供給」といった基礎概念についても、ユーモアを交えた同じようなトーンで概説されています。

 そういった中でも、個人的には「比較優位」の説明がわかりやすかったですね。巻末の「用語集」では、

(p210より引用) 2人の個人または2つの国は、片方がすべての面で他よりすぐれている場合でも、取引すれば利益が得られるという発想

という淡白な解説でしたが、本文中の2人の原始人の設定とやりとりは直観的な理解しやすさに配意されたものでした。

 とはいえ、本書を読んで気になったところが2点。

 そのひとつは、本当に「初心者」にとって分かりやすいのかどうかという疑問です。
 私の場合も、はるか昔に経済学の超基礎的な知識は学んだことがあったので、本書で解説されている内容程度であればある程度の素地はありました。しかしながら、本当に「経済学の概念に初めて触れる人」の場合、それぞれの説明が言葉足らずになっていないか少々心配です。

 そして、もうひとつは「用語集」。これは酷いです。通常イメージする「用語集」とは全く別物と考えるべきでしょう。
 たとえば、「インフレーション」を「時間がたつにつれて物価が全般的に上がること」と説明されても、正直なところ全く意味をなさないのではないでしょうか。
 その点でも、本書は、「本物の初心者」向きではないかもしれません。



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