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仕事ができる人も悩んでる。ストレスへの「対処」が重要な理由。- こころを使いこなす技術③

前回の記事では自分がストレスを感じた瞬間をいかに「可視化」するかが重要かを説明しました。今回はそれを使って、ストレスに「どう対処するか」について理解を深めるのがゴールです。

まず最初に触れたいのは、そもそも「ストレスに強い」とはどういうことか、という点です。「あの人メンタル強いよね」といった会話は普段からよくされますが、それは何を指しているのでしょうか。

結論から言うと、「ストレスに強い人」というのは、どんなにタフな状況でも悩んだりしないということでは決してなく、その「対処の仕方を知っている人」です。

この図が示すように、ストレスに強い人でも、タフなストレス状況に置かれれば動揺します。それ自体は人間の「生理反応」なので避けようがない。でも、ストレスに強い人が違うのは「対処法」に長けていることです。

例えば売上規模の大きい重要な顧客からクレームを受けたとき。ストレスに弱い人は、そのクレームの迫力に押されて固まってしまい、適切な対処ができないまま状況を放置して、さらに顧客を怒らせてしまうというのはよく見る光景です。

一方で、ストレスに強い人は、顧客の強いクレームに動揺しつつも、顧客はいったい何に怒っているのかを改めて果敢に聞き出す勇気を持っています。そして、聞き取りを踏まえて課題を整理し、そこから適切な解決策を考えて実行することで、クレームをきっかけに逆に顧客の信頼を高めてしまうことすらあります。

ここで両者を分けているのは、ストレスを感じるか感じないか、ではなく、その状況に対して能動的に対処ができているか、という点になります。

ストレスを感じることからは誰もが逃れられない

さらに印象的なスポーツの例を挙げましょう。2015年のラグビーW杯で優勝候補の南アフリカに勝ったラグビー日本代表には、メンタルコーチが帯同していました。

そのメンタルコーチの荒木香織氏は自著(『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』)で、屈強なラグビー選手であっても、試合前に強い恐怖を感じていることに触れています。日本代表のキャプテンとしていつも強いリーダーシップを発揮していたリーチ マイケル選手も、試合を前にして、荒木氏に恐怖と不安をこう吐露していました。

「相手に当たるのが怖くてしかたがない」
そう言う選手もいました。それも、バックスでなく、果敢に身体を張らなければならないフォワードの選手のなかに。リーチ選手も「怖い」とよく口にしていました。
「どうして怖いんですか?」
私が尋ねると、「相手がでかい」「スピードが速い」「ボールを落としてしまったらどうしようと考えると怖くなる」という答えが返ってきます。

ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」

W杯でチームを鼓舞し続けたリーチ選手が、試合前にこれだけ不安を感じていたというのはとても印象的です。彼ほどの選手であっても「ストレスを感じること」それ自体から逃れることはできない。ここでも大切なのは、ストレスを不可避のものとしてきちんと受け止めて、それを前提に本番の試合で高いパフォーマンスにどう繋げていくか、という点だったわけです。

仕事がデキる人も日々思い悩んでいる

これはビジネスにおいても同じです。私は経営管理という仕事上、優れた実績を残している優秀な役員や管理職を近くで見る機会を多く持っています。

そこから分かるのは、いくら優秀な人でも、というか優秀な人「こそ」日々思い悩んでいるということです。これは当然で、優秀な人ほど周囲が寄せる期待は大きく、課される責任もどんどん大きくなっていきます。彼らはその重圧を日々感じながらもがいています。

前職で最大の金融事業を率いていた部門長のYさんに、人気のない夜のオフィスで自分の仕事の悩みを相談していたときのこと。その部門長は長身で迫力のある、いつも周囲を鼓舞し続ける「親分肌」のリーダーです。でも、私の悩みを聞いた彼は、自席の後ろにある窓を振り返って見つめながら静かにこう語ってくれました。

「あの炎上プロジェクトの責任者だったときにな、このままでは会社が潰れる、という重圧はものすごくてさ。夜遅くにこの窓から外を見ながら涙を流してたこともあるんだよ。大切な仲間たちをどうやったら守れるかって考えながらさ」

この「炎上プロジェクト」は深刻なもので、Yさんの「会社が潰れる」があながち冗談でなく、顧客との関係がこじれ続ければ、数千億円規模の事業が生み出す利益の大半を吹き飛ばす可能性もありました。

その強烈な「ストレス状況」に置かれて、Yさんも苦悩し、孤独な内面の闘いを続けていたのです。

でも、Yさんはこの内面の闘いに屈することなく、顧客と粘り強く交渉して予算を引き出し、現場のプロジェクトメンバーを強いリーダーシップで鼓舞し続け、ついにプロジェクトを正常化させることに成功しました。

ここでも、ストレスに強い人とは、ストレスを感じない人ではなく、そのストレスに対処できる人である、というのがよく分かると思います。

変えられるのはストレスに対する認知と行動だけ

そして、このことは前回紹介した心理学(認知行動療法)のモデルでも重要な原則になっています。それは「私たちが変えられるのは認知(考え・イメージ)と行動だけである」ということです。逆に言うと、我々はストレス状況、気分・感情、身体反応を変えることはできません。

私も昔はそうだったのですが、ストレスを感じたときに湧き上がってくる不安や悲しみ、怒りといった感情それ自体をなんとか消せないかと、人はつい格闘してしまいます。けれど、その努力は残念ながら報われません。

我々にできるのは、ストレス状況を踏まえてそれをどう捉えるか、そこからどう行動していくか、だけ。シンプルですが、このことをきちんと理解することが「心を使いこなす」上でもっとも重要になります。

次回は、認知行動療法のモデルを使いながら、「認知と行動」にフォーカスすることが、なぜストレスにうまく対処していく上で重要なのかを詳しく見ていきます。お楽しみに!


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