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読書感想文 『蜘蛛の糸』が切れる時   

 カンダタは血の池地獄で絶望していた。そこへ、一条の希望の光が差し込んできた。極楽から1本の蜘蛛の糸が垂れてきたのである。なぜかは知らぬ。(助かるかもしれない)カンダタはその蜘蛛の糸に飛びついた。カンダタの頭の中には自分のことしかなかった。(助かるかもしれない、助かるかもしれない。いや、何としても助かるんだ。こんな地獄から抜け出してやる・・・)地獄にはもちろん、カンダタのほかにもたくさんの罪人が、絶望の淵をさまよっていた。そしてカンダタと同じように地獄から抜け出したいと考えていた。
 しかし、カンダタはそのことに思いを巡らすことはなかった。自分ひとりが助かりさえすればよい、と考えていた。生きている時からそうであった。一回だけを除いて・・・、そう、小さな蜘蛛を踏み殺さずに助けてやった、あの時を除いて。
 カンダタが「おいみんな、俺といっしょにこの蜘蛛の糸をたぐって昇っていこうぜ。極楽へいけるかもしれねえぜ。」と一言いえば蜘蛛の糸は切れなかったであろうに・・・。
『カンダタの奴、まだ気づかぬか・・・。』お釈迦様の嘆きは、私たち一人ひとりに向けられたものでもある。


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