B37-2021-18 中二階 ニコルソン・ベイカー(著)、岸本佐知子(訳)

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 何度も云って申し訳ないが、僕は岸本佐知子という人をとても信用している、まずこの人の書くエッセーだ、あのようなエッセーを生み出せるセンスを持つ人が翻訳をしている本、それが退屈なわけがない、というわけで僕は本書を選んだ、正解だった、やっぱり岸本佐知子は信用できる、どん底のような裏切りがあったとしても、それ込みで信用の出来る翻訳家だ、こと翻訳本に関しては訳者が信用のおける人かどうかというのは読む側にとっては死活問題である、なぜならば、自分には原文のテキストを読む力量はない、訳されたものを原文を想像しながら読むのが楽しい。

 したがって翻訳家の頭の中を一度通過して出てきた作品はある意味では翻訳家のものでもある、鮮度を失わず、そして勿論原文の本意を歪めない高度なテクニックにこちらとしては身を任せるしかない、菊池光、越前敏弥、村上春樹、田中小実昌、そして柴田元幸といった、翻訳家の代表格にまぎれもなく岸本佐知子は名を連ねる、よくぞ本書を訳してくれました、と、彼女の手をつかんでガシガシと握手をしたいくらいだ、本作品は、どうでも良いことを延々と述べている小説作品である、どうでもいいことを読んでいるうちに何だか「実はこれって、とても重大なことを云っているのでわ?」と錯覚してくる。
 その「錯覚」というのがキモで、すなわち読者をいかに錯覚させるかが作者の力量ならば、ニコルソン・ベイカーという人は正真正銘のトリックスターである。

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