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クソメガネ的芥川賞レビュー『おいしいごはんが食べられますように』

はい。シーズンになりましたので、クソメガネ的芥川賞レビュー~(可能な限り低いテンションで)をします。

2022年上半期の受賞は高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』だったそうです。素直に読んで面白い作品でした。ありがとうございます。

文芸誌の批評などはチェックしていないのですが、ちらちらと目に入ってくるネット上の感想を読むと、ちょっと惜しいな~(偉そう)という感じのコメントが多い気がしたので、以下、私個人の感想を書いときます。

これ、フェミニズムがないとどうなるか、を書いた小説です。仕事もそこそこにせっせと料理やらお菓子やらを作る芦川さんは男性稼ぎ手(女性はケアの担い手)モデルの日本型福祉に過剰適応した女性。それに対して、仕事は大して好きというわけじゃないけどちゃんとしたい、芦川さんのようなノリは許せない押尾さんはネオリベラル的なメリトクラシー・反福祉の空気に染まったポストフェミニスト*です。芦川さんと押尾さんにシスターフッドは芽生えない。

二谷は、2人の女性登場人物が女性ジェンダーを取り巻く新旧2つのイデオロギーが生み出す軋轢に傷つくさまを傍観しながら何もしない。むしろ後半になると、具体的にどうするのかはネタバレになるので書きませんが、むしろ対立を煽るような裏工作をしながら、彼女たちの敵対につけいるような形で2人との関係をぎりぎりまで保留し続ける。

過去10年ほど、日本では思想としてのフェミニズムはさして深められないまま(ここ2~3年は違ってきた気もしますが)、イデオロギー的には右派寄りな政権と経済界が主導する形で「女性活躍」が推進されてきた。そうした背景が作り出した歪な職場風景を、この小説は描き出している。

文学作品の政治的な読みが、常に他の読み方に優越するなどと主張するつもりはない。でも、このくらいのことは前提として、あとは各自で好きなように作品の読みを深めていってもらえばいいんじゃー!!と思います(何様)。少なくとも「芦川さんこえー」で終わってしまう感想はちょっと勘弁してよねと思った次第。

*ポストフェミニスト:フェミニズムの課題はすでに解決済みと考える立場のこと。

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