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イラストレーターとして採用されるには? -採用担当はココを見る!-

紆余曲折あって、イラストの仕事をする人を採用する立場になっています。
厳密には、採用する人を採用する形ですが、どちらにしても絵の仕事の人らと関わることがあります。

では、採用側はイラストレーターを選ぶ際に、どういったところを見るのでしょうか。

イイネ数より技量、技量より実績、実績より人

突然ですが、あなたがもし「ドン・キホーテの値札やドンペンを描く担当者」の採用担当だった場合、以下の誰を採るでしょうか。

  1. Xのフォロワー10万人でイイネも常に三桁以上だが、二次創作のみで絵柄が1種類のみでバストアップしか描かない人

  2. どんな絵柄でも真似できる天才だが、絵の経験は落書き帳のみ

  3. 技量はそこまで高くないが過去5年間、中堅ゲーム会社のグラフィッカーをやっていた人

  4. 現場経験は1個だけだが直前まで「ドン・キホーテ」の値札を実際に描いていた知り合い

人によって基準は異なるかもしれません。
なのであくまで一般論ですが、優先順位は4、3、2、1
場合によっては1、2は書類選考時点で落とされるかもしれません。

採用を担当する人は、社長であれ採用担当であれ、誰しも人質を取られています。
家族や恋人、あるいは自分自身が人質となっています。具体的には、採用に失敗すれば自分なり会社にダメージ、引いては失職することになります。

人の判断には「想起ヒューリスティック」というバイアスが働きます。
権威や実績などを重視しがちな傾向です。

それと同時にリスク回避を利益よりも優先する思考も働きます。
プロスペクト理論などとも言われます。

採用担当は多くの場合、自分は人質に取られているような状態なので危険を冒すことはありません。
そうなると技術的に実際には優れていたとしても、実績や安全を取ります。

上記の例の場合、一番安全確実に仕事を熟せそうなのは「4」です。
イラストの採用担当者は「不確実だがチャレンジな採用」は基本的にしないのです。

漫画のような才能発掘の賭けを常に行っている内容か、チャレンジ採用ができる余裕のある大企業なら別ですが、少なくともイラスト業界はどこもカツカツなので、余裕のあるところはそう多くないです。

なので、絵が上手ければイラストレーターになれる。というのは半分くらい間違いと言えます。

もちろん、技術水準が仕事内容に満たないのであれば、そもそも採用検討対象にすらならないので技術は重要です。

採用側の思考

採用担当者の仕事とはなんでしょうか。
それは「絵の上手い人を見つける」ことではなく「仕事が熟せる方法を見つける」ことです。

仮にその仕事が生成AIでできるなら、生成AIでいいのです。
「生成AIは絵師のパクリだ。本物の絵師が採用されるべきだ」というのは絵師側の勝手な思い込みで、採用側は絵ではなく仕事の達成できる方法を探しています。

つまり最も安く必要な仕事を熟せる”方法”を探しており、それがたまたま絵師の分野であるだけ。となります。

採用側は絵師の繁栄だとか、成長といったものはあまり考えていません。
成長してくれればより効率的に(つまり安い絵の単価を)仕事が実現できるから成長を促しているだけです。

となるとその対象の仕事が熟せるだけの技量があればよく、それ以上の技量は求められません。

例えば、あなたがコンビニを経営しているとします。

そこでレジや品出しを担当するアルバイトが必要になったので募集をかけました。
そして以下の人たちが応募してきました。必ず1人はここから採らないとならない場合、誰を採りますか。

  1. スーパーマーケット5年間のパート経験しかないフリーター

  2. 「システム替えてやるから時給2万円にしてくれ」という東大卒のエンジニア

  3. 親が国会議員で早稲田に通う大手企業が内定している大学生

この場合、採用可能性が一番高いのは「1」ですね。

技量が高いから給料は良くなるべき。というのはあるとしても「ここじゃない」ですね。オーバースペックです。
もちろん時給が同じなら、東大卒を採る可能性はあります。

親が優秀で自身も優秀でも、内定していて将来的にすぐバイトを辞めてしまう可能性が高いです。
結果的に、長く続けてくれそうな人を採用することになりそうです。

どんなに技量が高くても、その仕事に必要な技量の上限があります。
それ以上の技量は、応募者側からすれば「無駄」なのです。
もっと別の会社なり就職先を狙うべきでしょう。

採用側は、求めている仕事以上の力量は求めず、また力量があっても基本的には給料・報酬に加味しません
したとしても微々たるものです。

応募側としては、自分の力量や保有する技術が、相手とできるだけマッチしているところを狙うべきでしょう。

持たざる者の戦い方

イラストを扱う仕事の多くが口利きやら紹介、転職によって賄われています。
新卒で採る会社は少数で、よほど余裕があるところに限られています。
あるいは必要技量を比較的満たすことが容易で、大きな人数が必要なところ、離脱の多い職場であれば新卒を多く採ることもあります。

どちらにしても、他の職業一般と比べると、応募者の割にものすごく枠が少数なのは間違いありません。

そして新卒として参戦する場合、ほとんどはもちろん前職経験など無いわけで、すでに人脈や営業を繰り広げた人とは戦えません。

では、そういった持たざる者はどういった戦い方をすべきなのか。

大前提としてポートフォリオは最低限作ろう

ポートフォリオはお店のメニューのようなもの。自分の仕様書です。
自分は何ができるのか、どのくらいで、どのようにできるのか示すもので、持たざる者の唯一の武器です。

大抵は実績を載せますが、載せられる実績が無い場合、実績を作ります。
それも難しいなら、見本として技量を示し、豊富で大きな技量があることを示します。

技量は、絵の見た目だけでなく、どのくらい、なにで、どうやって作れるか。できる限り実戦に近い環境、内容、想定で見本を作ります。

実績の作り方としては賞の受賞、学校であれば学校での発表、学生時代に個人的に受けた案件、インターン等があります。
ポートフォリオはできれば応募対象の仕事と同じ想定で作った見本を用意します。

あくまでポートフォリオは絵の見た目を示すものではなく、仕事としてやっていけるかを見る道具です。

その上で、対人スキルも重要です。

イラストの仕事のほぼすべてが、チーム戦です。フリーランスでも変わりません。
なぜなら画家と異なり、主人公は自分ではなく、絵はあくまでパーツに過ぎないからです。

絵の質なんかよりも、納期に間に合わせる、ちゃんと受け答えができる、ホウレンソウができている、言葉遣いがちゃんとしているなど、対人スキルの方が重要です。

絵の質が技術要件に見合っていれば、それ以上の質を持つ対人スキル微妙な人より、社会的責任を持って動ける人のほうが需要があります。

かなり特例ですが、絵も何もかも問題ないものの、人前で描けないということでスタジオに入れず、不採用という例もあります。

グラフィッカーやイラストレーターは芸術家ではなく技術者です。
技術者に求められるのは世界一の画力ではなく、仕事が熟せる安全性です。

安全性を相手に見せるためのポートフォリオ作りと対人スキルを心がけましょう。

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