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挑戦とサステナビリティ:西郷と共に歩むシルクとガストロノミー

だいぶ前になりますが、11月23日、鶴岡市の松ヶ岡開墾場を会場に行われたモニターツアーに参加してきました。

松ヶ岡とは敗戦からの復興のシンボルであり、殖産興業に貢献した証

庄内に住むまで、私も全く知らなかったのですが、庄内藩は戊辰戦争で、旧幕府軍として戦い、連戦連勝、なんなら領土も拡大していったぐらいだったのですが、ほかの藩が続々と陥落した情勢を知り、降伏しました。

庄内藩は、戊辰戦争に敗れ、賊軍といわれ国辱を受けました。 当時「賊名」は武士にとって最大の恥ずべきこと、松ヶ岡を開墾し当時先端産業だった蚕糸業を興し、社会の模範となって地域(国)の活性化と発展に貢献して国辱を濯ごうと考えました。

松ヶ岡開墾記念館 HP

こうして、月山山麓の東京ドーム67個分にも及ぶ広大な原生林を開墾し桑畑にかえていくことになります。
総勢3000人の侍たちが、刀を鍬に持ち替えての大事業でした。

鶴岡のシルクと西郷隆盛

戊辰戦争で降伏した藩士たちは、厳しい武士道の規範に従い、切腹を覚悟していました。特に、荘内藩は、戦争の発端となった薩摩藩邸の焼き討ち事件に関わっていたため、藩主に対しても厳しい処分が予想されました。

しかし、彼らには切腹の命は下されず、賠償金も荘内藩の年貢と同程度に抑えられました。再起不能まで打ちのめされた会津藩とは大きな違いです。

のちに、これは西郷隆盛の寛大な判断によるものだと知り、そこから荘内藩士と西郷との交流が始まり、「徳の交わり」と称される深い絆を築くに至りました。

荘内藩士がシルク産業への一大事業を行うことを知った西郷は次のような励ましの言葉を贈りました。

「気節凌霜天地知」
(きせつりょうそうてんちしる)
ー困難に直面しても、それを凌しぼぐ強い心をもって当たれば、天地は知り応えてくれるー

松ヶ岡本陣に飾られた書

この言葉は松ヶ岡の精神とされ、厳しい事業にあたっていた藩士たちの支えとなりました。藩士たちは、我先にと厳しい現場に身を置き、まさに粉骨砕身の努力でやりとげたと伝えられています。

シルク産業はほどなくして、外貨獲得のための主要産業に成長を遂げていきました。

サステナビリティが求められる時代にこそシルクを

がらんとした場所に昔は蚕がたくさん暮らしていました。

ツアーの中では、ガイドから西郷隆盛と荘内藩の関係に触れながら説明があり、上野にある西郷隆盛の像も、庄内の人たちが資金集めに奔走し、「肩までは俺達の寄付で作られた」なんて冗談も言われていたことを紹介していました。

意外と小さい桑の木。昔は、一面の桑畑も、今では、この一角のみ。

次に、シルクみらい館というミュージアムでは、鶴岡シルクの大和社長の説明のもと見学しました。

ダブルのスーツに身を包む大和社長、熱いお方です。

隆盛を極めたシルク産業も、安い中国産に押されて壊滅的な打撃を受け、鶴岡だけが日本で唯一、養蚕から製品づくりまでの一貫工程が残っている場所になりました。

それは、歴代の社長たちが、「自分の代では、何としても潰さない」と知恵を絞り、犠牲を払ってきたからだという言葉には、侍たちの挑戦から始まった事業の重みを感じました。

また、シルクは、自然素材で自然に還り、肌にも優しいことから、サステナビリティが求められる世の中になった今こそ改めて求められる素材になってきているそうです。

印象に残ったのは、庄内藩の歴史と西郷隆盛との関連に触れ、「世の中が自分さえよければいいという時代にあっても、庄内はただ利益を追求するのではなく、社会のためになることを大切にしてきた。そして、現在も、その理念を忘れずに挑戦している」とお話になっていたことです。

美しいシルクを見ながら、表面的な美しさを求めるファストファッションとは一線を画する敬天愛人の精神が織り込まれたシルクには、より深い価値があると感じました。

最近は、makinuという日本の伝統的な図柄をモチーフにしたスカーフを発表しています。

打倒エルメスともいえるこのシリーズは、手に取ってみると、男でも思わず買いたくなるぐらい素晴らしく完成度の高いプロダクトでした。
ただ、数が揃わないそうで、売り切れになってしまっていたので、ここから躍進していってほしいと感じました。

makinu 公式ページから引用


食を通じて地域を再認識

その後、夕食会では、松ヶ岡本陣という茅葺屋根が特徴的な文化施設を特別にセッティングして、一夜限りのレストランに仕立てられていました。

松ヶ岡本陣に移動

今回の趣向は、生産者や料理人たちが料理について、 そしてその丹精込めて育てた素材やその歴史についてもしっかりと話をしていただいて学ぶことができる「食楽形式」で行われたのが特徴です。

眼の前に座ったのは、じゃがいも農家の叶さん 休日にはバイクに乗るワイルド農家です

料理は、地元でも知られたイタリアンシェフの古門さんが地域の歴史と文化をかけ合わせたこの日限りのコースを提供してくれました。

最初の一品は、開墾の際に、侍たちが貴重だったお米に里芋を混ぜて食べた「いもごぼたもち」をレモングラスと庄内鴨の出汁で現代風にアレンジ。柔らかい芋の触感とおコメのプチプチした食感が面白く、体がうちから温まるようでした。
ごま豆腐は、バターナッツカボチャが入った濃厚なコクがくせになる味で、ドハマリしました。 オリーブオイルと豆腐で作られた白和えは、甘みが引き立ち、全くの新感覚な味わいで、こんな食べ方があるんだと目からウロコ。

調理法は古くからのものでありながら、それに何を掛け合わせるのかによって、新たな価値を生み出す、まさにこれがイノベーションだと、食べながら一人興奮してしまいました。

一品一品が出るたびに、松ヶ岡の歴史や食材、ワインの説明が挟まれ、そのストーリーも含めて味わうことができ、テロワールを感じるひとときでした。

偶然ですが、私もこのワインで使われたぶどうの苗木を植えるのを手伝いました。それを味わうことができて、感無量です。
人参やジャガイモを生産している叶(かのう)さんからは、土作りに対しての並々ならぬ思いや、今年の日照りで野菜を作るために夜中にホースで大量の水をかけ続けたエピソードなども聞くことができました。また、この地で新たな小麦作りを始め、それによって地域内での食の循環が生まれ始めていることを知ることができました。
ピノコッリーナの醸造責任者の川島さん 本人は、アルコールが飲めないものの、鋭敏な舌とセンスで絶大な信頼を誇る。ワインも、松ヶ岡にある、ワイナリー、ピノコッリーナで作られたもの。醸造責任者の川島さんが、1本1本紹介して出してくださいました。欧州でワインづくりが盛んになったのは、シルク産業に蚕の病気が広がり、イタリアやフランスで桑畑だったところに、ワイン用のぶどうを植えたのが始まりだったとか。それから、200年ほど遅れ、この地でも、桑畑をワインにしたというわけだ。世界の歴史の流れを俯瞰して見れたのも面白かったです。
料理に使用された野菜も、直接見たり触ったりすることができました。

話を聞いた上で、庄内鴨のロースト、小麦で作られたパスタ、それに人参のソテーなど、その土地の食材を表すひと品が提供されていきます。

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今回のコースの中で、特に印象に残ったのが、庄内鴨のローストです。
この鴨は、三井農場の三井朗(あきら)さんが育てている、日本では珍しいフランス原産のバルバリー種。

採卵から精肉まで一貫して行っていて、三井さんいわく「焼いたときの油の香りがとてもいい」とのこと。

実際に味わってみると、火入れの加減がちょうどいいこともあり、肉肉しさと上品な香りで幸せいっぱいになりました。

この土地の中での循環が一皿ひとさらからも感じられるようで、振り返ってみても、美味しく幸せな時間だったなと思います。

庄内は挑戦とサステナビリティの土地

改めて、このツアー全体を振り返ると、この庄内という土地は、不屈の意志で荒野を開墾するごとく挑戦の連続であったこと、更にサステナビリティを象徴するエピソードがたくさんあることに気が付きました。

今、私の会社でも、挑戦をしていますが、この地は本当に挑戦をしてきた歴史だったと知ることで、先人たちからも応援されているような、力が湧いてくる感覚がありました。

挑戦、そしてサステナビリティ。
これが、自分の中でも、次のテーマになる気がします。

このような機会を提供してくださった相馬さん、勝彦さんお疲れ様でした。
素晴らしかったです。


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