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0.シラバス/Mr.Childrenの詠う現代社会


☆最終更新 4/14

あいさつ

ご無沙汰しております。きたいぬです。
地方の大学で社会学を学んでいます。
Mr.ChildrenのFC「Father&Mother」の会員番号は680xxxです。

この度は文学部の身内で「人文学入門V」を開講する流れになりました。学校で開講されている「人文学入門Ⅰ〜Ⅳ」宜しくオムニバス形式で各々が好きなものと学問を語っていくという自主ゼミです。

自己紹介の通り、私はMr.Childrenと社会学をこよなく愛しているので全6回に分けて「Mr.Childrenの詠う現代社会」というお話をしようと思います。身内にだけ見せるのは勿体無いので(というより頓挫しないために)全世界に公開しています。稚拙な文章ですが、少しでもミスチルや社会学を愛する人たちに届くように。


(1)概論

1.現代社会を詠うバンドへ -Mr.Children

日本を代表するモンスターバンドである彼ら、そのボーカル桜井和寿は「日常に溢れる愛を歌うアーティスト」と形容できる。代表曲として挙げられがちな「HANABI」「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」「名もなき詩」をはじめとして、30年以上にわたって数多くのラブソングを歌い続けてきたバンドこそMr.Childrenである。

そんな彼らだが、最初期(1992-1994)は今よりももっと青臭いラブソングを歌っていた。令和だとマカロニえんぴつが彼らの立ち位置に近い。

大切な人との出会いをキリンぐらい首を長くして待っている桜井少年。辛さを抱える大切な人をそっと抱きしめたいと願う桜井少年。

1st single 「君がいた夏」も2nd single「抱きしめたい」も、どちらも胸が痛くなるほど、そして暖かくなる程に若く純粋な恋心が歌われている。

そのような彼らの方向性が転換するようになったきっかけが、プロデューサー「小林武史」との出会いである。

この頃のMr.Childrenのワークは「初期三部作」と呼ばれている。1992年から1993年にかけて出されたアルバム「everything」「kind of love」「versus」の総称のことだ。この頃の”青臭い名曲”としては「車の中で隠れてキスをしよう」「Replay」などが挙げられる。しかし、彼らはそれほど快活な性格ではなく、小林武史は初対面時のMr.Childrenについて「全く喋らないので、ほとほと困った」と回顧している。(道標の歌 p25)

純愛歌ばかりを歌うMr.Childrenは、若い女性にチヤホヤこそされはするものの、日本を代表するようなバンドにはなれない。そう考えた小林武史はMr.Childrenに、アースティック・ポピュラリティ・そして「時代を見つめていくこと」が足りていないと主張し、今の桜井にじゃなきゃ書けない曲を書くべきだと桜井に語った。

今の桜井和寿にしか書けない曲。桜井少年から桜井青年になっていく中で、自らの不安で物憂げな内面を描写した曲が「innocent world」となる。

物憂げな6月の雨に打たれて
愛に満ちた季節を想って歌うよ

innocent world/Mr.Children 「Atomic Heart」

この曲を転機に、Mr.Childrenの世界には桜井自身の内面、そして桜井が見つめた現代社会が少しずつ展開されるようになる。



2. Mr.Childrenの生きる時代 -現代社会

「入門」ということで、現代社会に入る前のグランドセオリーも述べる。事前に断るが、この講義で述べる現代社会は1990年代から2010年代に限定させてもらう。

社会学者見田宗介は戦後の日本社会を三つの区分によって分けた。

1965年以前のプレ高度経済成長期:
「理想」の時代
1973年にかけての高度経済成長期:
「夢」の時代
1973年以後のポスト高度経済成長期:
「虚構」の時代

これら三つのキーワードはどれも「現実」の対義語として存在する。「団地に住む」「良い大学に行く」そうした確立した理想に現実を近づけようとする営みをしていた人々、その結果理想を獲得し、夢のような世界を生きる人々、そして理想=現実が崩れ、映像技術の発展や伝統的な家族・地域的紐帯の崩壊を背景とした、現実離れの虚構を生きる人々。見田は現代化を脱近代化=虚構化だと述べる。(見田宗介「社会学入門」より要約)

そして、時代に多感な若者は虚構の中に居場所を探し求めていた。80年代、若者は弾圧と孤独に刃向かい、暴走族に加盟した。90年代、若者は社会の限界に気づき、カルト宗教を結成した。00年代、若者は永遠と続く虚構を悟り、ネット空間に生きた。


桜井和寿は1970年3月8日出身である。彼はアーティストに憧れ、小さな部屋で浜田省吾の歌を熱唱している少年だった。そして中学生の頃にバンドを結成し、高校ではバンド活動に精を出していた。

桜井少年もまた、
虚構の世界で音楽を奏でていた。



1990年代前半、日本は少しずつバブル経済という酔夢から目を覚まし、自分たちが生きている時代の過酷さを再び直面しはじめた。1995年の流行語「安全神話」はこれまで絶対的な存在とされていた日本の経済・雇用・技術・治安が一挙に崩壊した時代をアイロニックに表現している。そして、2001年9月11日にはアメリカ同時多発テロが起き、その10年後には東日本大震災も起こった。どちらも言葉には起こせないあらゆるものを崩壊させた出来事である。

現代。
それは虚構だけでなく崩壊の時代でもあった。

1990年代から2010年代にかけて、Mr.Childrenは周知の通り偉大なキャリアを積み上げた。累計CDセールスは日本第3位。最大のヒット作「Tomorrow never knows」は日本第8位の売り上げである。ドームツアーも数多くこなし、今や名を知らぬ人はいない。

桜井青年もまた、
崩壊の時代で音楽を奏でていたのである。


現代社会は
どのようにMr.Childrenに侵入したのか。

Mr.Childrenは
現代社会をどのように考えているのか。



この講義では、桜井和寿の詩、そして現代社会の課題を切り出しながら、Mr.Childrenと現代社会を相互作用的に検討していく。


(2)講義カリキュラム


このカリキュラムは若干の変更をする可能性がある。

1. 「現代化=閉塞:マシンガンをぶっ放せ」

1990年代、理想や夢から離れ、現実からも離れた虚構を生きる人々は、更なる局面に立たされる。バブル経済や「安全神話」の崩壊である。こうした現代に押し寄せるあらゆる崩壊や、その崩壊の裏で生じる数多の社会問題にたいして人々は閉塞感を抱くようになる一方で、こうした閉塞的を打ち破ろうとする野心を持つ。現代化=崩壊からの閉塞と野心、そして虚構という土壌はMr.Childrenの曲「マシンガンをぶっ放せ」にも詠われていた。

この回では1996年発売のアルバム「深海」収録の「マシンガンをぶっ放せ」を軸にしながらも、「深海」全体、そして1997年発売のアルバム「BOLERO」収録の楽曲たちを取り上げ、1990年代の現代社会とMr.Childrenについて論じる。

(youtube上に公式の音源はなく全て無断転載なので、なるべく買うかサブスクで聞いてほしい。)


2. 「展開=混沌そして終末:ニシエヒガシエ」

1990年代後半になっても不景気や就職氷河期といった社会不安は相変わらず続き、閉塞感は変わらない。それに加えて、黒船の如く海外からやってきたのが「windows95」。最先端のオペレーティングシステムは会社だけでなく家庭にもインターネットの時代をもたらし、人々の感覚はさらに虚構へと向かう。崩壊と虚構の展開。そして、1999年7月に世界が滅びる「ノストラダムスの大予言」が近づき、人々は東奔西走する。まさにMr.Children「ニシエヒガシエ」の世界観。

この回では1998年に発売された「ニシエヒガシエ」を軸に、翌年発売のアルバム「DISCOVERY」、2000年発売の「Q」収録の楽曲をもとに、1990年代から2000年代前半の現代社会とMr.Childrenについて論じる。


3. 「新世紀=正義と隣人愛:タガタメ」

21世紀の始まり、2001年は「9.11テロ」という最悪の悲劇からスタートする。アメリカ大統領父ブッシュは報復としてアフガン侵攻を決定し、その勇士に憧れた子ブッシュは2003年にイラク戦争を決断。言いがかりとしか思えないその開戦理由は「世界の警察」と呼ばれるほどに絶対的な正義であったアメリカのヒロイズムを脅かした。そして無情にも響く銃声。一方日本でも、インターネットのいじめを原因とした小学生による殺人事件が起きた。子どもらが被害者にも加害者にもなる時代に、Mr.Childrenは「タガタメ」という一曲を世に放った。

この回では2004年に発売されたアルバム「シフクノオト」収録の「タガタメ」を軸に、「シフクノオト」や2002年発売のアルバム「It's a wonderful world」2005年発売のアルバム「I❤️U」収録の数々の曲を取り上げて、2000年代前半の現代社会とMr.Childrenについて論じる。


4.  「脱虚構=リアルに生きる: 彩り」

2000年代も中盤になると大きな社会情勢の変化もなく、「ゆとり教育」や「LOHAS(ロハス)」といった自然的でゆとりのある生き方が注目されるようになる。また、人生の中で家族を大切にすると考える人が増えたことは、まるで「理想」の時代を彷彿とさせる。若者論の分野では事例研究が主流になり、個人のリアルな生き方が注目された。虚構の時代でのリアルなものの奪還。Mr.Children「彩り」はリアルなものに対する惜しみない愛を注いでいる。

この回では2007年に発売されたアルバム「HOME」収録の「彩り」中心に、2008年発売のアルバム「supermarket fantasy」の曲たちとも絡めて、2000年代後半の現代社会とMr.Childrenについて論じる。


5.  「現代=希望の時代: end of the day」

1998年のインタビューで桜井は一番希望に満ちた言葉として「きっとなんとかなるだろう」と挙げた。きっとなんとかなる───こうした「希望」を研究する分野として2005年東京大学が「希望の社会科学」プロジェクトを始動させた。そして研究を行う中で2011年東日本大震災が起こる。人々は一瞬のうちに全てを奪われて立ち尽くす。崩壊からの再生に必要なもの、それは希望。一方で、希望はまた、虚構の現代を生きるための鍵でもあった。Mr.Children「end of the day」は崩壊・そして虚構を生き抜いてきた人々の希望を高らかに歌い上げる。

この回では2012年に発売されたアルバム「(an imitation) blood orange」収録の「end of the day」中心に、「(an imitation) blood orange」の他の曲たち、2010年発売のアルバム「SENSE」、そして数々のMr.Childrenの曲とともに、2010年前半の現代社会、そして、最終講として「希望」を視座としたMr.Childrenと現代社会の振り返りを行う。

(youtube上に公式の音源はなく全て無断転載なので、なるべく買うかサブスクで聞いてほしい。)


(3)おすすめの曲・本

Mr.Childrenのおすすめアルバム

Mr.Children初学者は「Mr.Children 1992-1995」「Mr.Children 1996-2000」「Mr.Children 2001-2005 <micro>」「Mr.Children 2006-2010 <macro>」という4つのベストアルバムから聴くのを強くお勧めする。本講義で取り上げる曲も多くあるので、Mr.Childrenについて知るためにも必携である。これらを聴き終わったら、またアルバムの世界観を知りたかったら手始めに「シフクノオト」「supermarket fantasy」を聴くと良い。ポップロックみが強く、ヒット曲も多いので聴きやすい。ライブDVDを買うのもおすすめである。個人的におすすめのアルバムは「Q」絶対に「Q」。誰がなんと言おうと「Q」。あと「miss you」「重力と呼吸」「Discovery」もおすすめである。

社会学のおすすめ参考書・新書

見田宗介の「社会学入門」は感覚的なものの分析と言語化が上手であり唸るが、社会学(や日本社会史)に対する理解が全くない状態だと難解である(というか普通に言葉が難しい)。有斐閣アルマから初学者向けのものが出ているので、そこから読むと良い。とはいうが、社会学は難易度順(?)というよりも分野でかなり分断されているところがあるので、興味のある分野のものを読めば社会学の視座というものを身につけるきっかけになると自身も初学者の身としてそう感じる。しっかり理論的に社会学を学びたいなら、ナカニシヤ出版から出ている「歴史と理論からの社会学入門」が本当におすすめ。初学者でもわかりやすく、社会学の先人たちの教えが盛り込まれている。けど実践的な話が少ないから飽きるかも。

その他おすすめのもの

Mr.Childrenの歌詞集「Your Song」があれば、歌詞を見ながら聴くことができるので便利。歌詞だけを見ることで新たな発見もある。ミスチル研究者必携の書である。

・Mr.Childrenは今年7月から全国でアリーナツアー「arena tour 2024 miss you」を行う。最新アルバム「miss you」のツアーである。社会学の領域でもフィールドワークは肝要。実際にライブに出向いて、彼らの音楽を肌で感じるべきである。福井と名古屋は著者が応募済みなので、それ以外のところで申し込んで欲しい。ガチで行かせてください(ホールツアーに4回落ちた)。


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