30.離為火(りいか)~志の承継①

六十四卦の三十番目、離為火の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n971bfa0a3f4d

30離為火

1.序卦伝

陥れば必ず麗く所あり。故に之を受くるに離をもってす。離とは麗(つ)くなり。

坎為水は、次から次へと押し寄せる険難であり、穴に陥る卦でありました。

穴に陥ると、必ずどこかに付きます。穴の底であったり、あるいは壁の部分であったり、どこかにくっ付いて、そこから這い上がることができます。

離とは、くっ付くことです。通常私たちは「離れる」意味で使用する字ですが、実は「くっ付く」という意味もあり、易では通常この意味でこの字を使用します。

2.雑卦伝

離は上るなり。

坎卦は「下る」ですが、離は「上る」です。火から生じる熱や煙は高いところへと昇りますし、太陽は私たちの頭上に燦燦と輝いております。

3.卦辞

離は、貞しきに利し。亨る。牝牛(ひんぎゅう)を畜へば吉。

離為火は、離の卦が二つ重なった形です。前の坎為水の卦に続く八純卦です。

坎為水の裏卦、すなわち陰陽を真逆にした形です。裏卦の関係性にある二つの卦は、大抵その意味するところも表裏一体です。

離の卦が意味するところは、主に「火」であり、「明」であり、「付く」です。また、中の部分が空虚であるという意味もあります。

まず「火」ですが、蠟燭の火の構造は、その内部から順番に「炎心」「内炎」「外炎」の三層に分かれます。炎心は蝋燭の芯とくっ付いている部分であり、温度は約300℃です。内炎は炎心の外側かつ外炎の内側であり、最も明るく輝く部分であり、温度は約600℃です。外炎は火の最も外側であり、空気中の酸素と触れるので最も温度は高く、約1400℃です。

火は、何かにくっ付いているものです。それが単独で空中を漂うということは、自然現象としてまず有り得ません。人魂の正体は空中でリンが発火して漂っているものである、という説がありますので、例外は全くないわけではないでしょうが、例外はあくまでも例外です。基本的に火とは明るいものであり、何かにくっ付いて離れないものです。

離、なのに、なぜくっ付くのか。

離という字には、くっ付くという意味もあるのです。現代の私たちが、くっ付くという意味で「離」を使用することは極めてレア、というか全くないと思いますが、確かにそういう真逆の意味もあるのです。そして易の世界では、離といえば「くっ付く」という意味で使用されるのです。

離の卦は、内部が空虚です。坎の卦と真逆です。坎の卦は、陽爻が二つの陰爻に挟まれた形であり、すなわち内部が充実していることを意味しておりました。しかし離の卦は、陰爻が二つの陽爻に挟まれた形をしております。これは火の形に似ております。蝋燭の火は、確かに外側と内側とで色が異なります。外側はメラメラと明るい色を発しておりますが、内側、特に炎心の部分は青白い色を発しております。これが陰の部分です。

外側が充実したる陽で、内側が空虚なる陰、これはどういうことを意味するのでしょうか。悪い意味で解釈すれば、例えば外面が華々しくて内側が空っぽである、ということが言えましょう。良い意味で解釈すれば、心の内側が落ち着いており、柔順かつ冷静沈着である、と言えましょう。本当に明晰な人の心というものは、このような構造になっているのかもしれません。

卦辞は、元亨利貞の元が欠けており、かつ亨が後ろにあります。利貞亨です。珍しい並び方です。火の如く明晰であって、何らかの物事にくっ付いて離れないものは皆、正しい道を堅く守り続けるのがよろしい、さすれば願い事は叶うであろう、という意味になります。利貞を必須条件として、その結果として亨を得られるのです。

離の卦は、真ん中の陰爻が主人公、主爻です。陰の卦です。山火事の如く燃えまくる、というのは火の本来あるべき姿ではありません。陰の如く慎ましくあるべきなのです。牝牛は、慎ましさの象徴、柔順なる陰の象徴です。

離の卦の火は一見すると陽の最たる象徴であるかのように思えますが、実はそうではないのです。実は陰なのであり、陰徳を発揮することで利を得られるのです。

離の卦と坎の卦、これらの表裏一体の関係性をよくよく理解することによって、色々な突破口が見えてくるのです。

4.彖伝

彖に曰く、離は麗(つ)くなり。日月(じつげつ)は天に麗く。百穀草木は土に麗く。重明(ちょうめい)にして以て正(まさ)に麗く。乃ち天下を化成す。柔、中正に麗く、故に亨る。是を以て牝牛を畜へば吉なり。

離の卦は、上記の通り「くっ付く」ものです。これを彖伝では「麗く」という字で表しております。同じ意味ではありますが、華やかさを感じます。火がメラメラと燃え盛る有様は、華やかなものです。一方で、火は常に何か、例えば木材や紙の類、ガソリンなどにくっ付いているからこそ発火して燃えるのです。

天と地は、この「麗く(付く)」という徳が遺憾なく発揮されているものです。日月星辰の類は、天にぴったりと正しい位置に張り付いています。百穀草木もまた、地にぴったりと張り付いています。これらは全て、麗くべきものがあり、そしてそれに麗いているからこそ正しく運行し、正しく生長し得られるのです。

重明、すなわち明らかなるものが重なる姿は、例えば先代の王と今代の王であり、あるいは上下に在って明晰なる王と臣下であり、これらの明晰なる徳が単独ではなく重ね合わさっているからこそ、天下を良く感化し良く変化せしめるのです。

坎為水は陽爻が中の位置を占めており、陽剛の徳をもって艱難の時をくぐり抜けるものでありました。離為火の中位は、どちらも陰爻です。柔順なる陰の徳をもって天下を化成するのです。猛火の如く辺り一面を焼き尽くすのではないのです。牝牛の如く柔順であるべきなのです。さすれば亨るのです。

5.象伝

象に曰く、明(めい)兩(ふた)たび作(おこ)るは離なり。大人以て明を継ぎて四方を照らす。

離の卦が二つ重なっている形、すなわち明るいものが再び起こってくる形が、離為火です。

君子はこの卦をみて、先代の明らかなる徳を継承して、天下の四方を照らすが如く、良く治めるのです。

これは事業承継やM&Aなどを連想させます。先代の意志を次世代が引き継ぐことで、より一層栄えるのです。爻辞もそのような構造になっております。

6.繋辞下伝

繋辞下伝の第二章からの抜粋です。

縄を結ぶを作(な)して罔罟(もうこ)を為(つく)り、以て佃(でん)し以て漁す。蓋(けだ)し諸(これ)を離に取る。

伝説の王、伏犠氏は、縄を結ぶことによって網を作り、それをもって野原においては禽獣を獲り、海川においては魚を獲ることを民に教えられました。

これは恐らく、離為火の卦の象と意によって考案されたのでしょう。離の卦の形は網の目の形をしているからであり、かつ獲物に付くことによって狩猟や漁の利を得られるからです。

自己の内的探求を通じて、その成果を少しずつ発信することにより世界の調和に貢献したいと思っております。応援よろしくお願いいたします。