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86回目 "The Wars Against Saddam" by John Simpsonを読む (Part 1) 。Journalist が意識すべきとする政治権力からの距離の置き方も興味ある所です。

イラクという国家、サダム・フセインの政権(バグダッド)が 2003 年 4 月に陥落しますが、それまでの二十年余りに渡りサダムの活動を追いかけて来た BBC の記者、John Simpson の取材活動をじっくりと読んでみることにします。

[原文] This book is a record of that extraordinary trajectory of his, and of my experiences in reporting it.
[和訳] この本はあの常軌を逸した生き様、この男の生き様の記録であると共に、それを観察し記録する過程で私が経験したことの記録です。

Lines between line 12 and line 14 on page 13,
"The Wars Against Saddam", Pan Books, a paperback

今回は本文の前に挿入された "Aftermath「跡に残された悲惨」" と題された節(7 Pages)を中心に本文の第4節 Daughter までを読みます。この本は全 412 ページ。それぞれが数ページでなる節に区切られています。最後の Home と題された節まで、全部で 70 節に及びます。

この節 Aftermath は、上記 70 の節には含まれず、本文の完成後に追加された一節です。戦闘の終了後何か月かが過ぎてサダム・フセインが洞穴から連れ出されることになったのですが、その後更に数か月の後に一連のできごとを振り返り(おそらく本文執筆の終了後に)書き綴られた John Simpson による Summary です。

この項 "Aftermath" の全文は Kindle のインターネット販売ページにおいて無償(試し読み)で公開されています。
  Google Book ならびに Rakuten Kobo のインターネットページだと "Aftermath" は省略されていて見ることは出来ないようです。その代わり Preface ならびに本文最初の4~5節が 試し読み として公開されています(2024 年 3 月 10 日現在)。



1. 第二次イラク戦争直後の状況・戦闘跡の世界を見て発する John Simpson の嘆き (Jitters)

この本は「様々な事実を調べ上げ、自身が眼にした現実を正確にレポートする」ことを基本として書かれているのですが、冒頭に置かれたこの節 AFTERMATH ではこの本全体に共通する John Simpson に特有の視線、物事を理解する時の視座が特に顕著に示されています。これはと思った部分二か所を引用します。

[原文 1-1] ‘It will run away with him, just as it ran away with me.’ So predicted ex-Kaiser Wilhelm II in 1939, when Adolf Hitler began the Second World War by invading Poland. Experience shows that wars rarely end in the way those who started expect, and it is one of the great mysteries of human existence why anyone should deliberately choose to provoke them.
[和訳 1-1] 帝位を失っていたウィルヘルム二世は、1939年にアドルフ・ヒトラーがポーランド侵攻に踏み切り、第二次大戦を開始させたことを目にして「あの戦争は私と共に終了を迎えたが、それと同じでこの戦争もあの男と共に終了することでしょう。」と予測しました。(世界の)経験が教えるところによれば、戦争というものはそれを開始させた権力者が当初思い描いていた形でその戦争を終結させることがほぼ不可能なことは明らかなのです。 ところがそのような戦争を始める輩が出てくるというのが歴史の教えるところです。なぜなのでしょうか、この世の人間にまつわる不可思議な性質であるとしか言えません。

Lines between line 1 and line 6 on page 3,
"The Wars Against Saddam", Pan Books, a paperback

[原文 1-2] There was evidence that civilians, some them elderly, had been shot by American soldiers. A British aid worker said she had seen an elderly woman, still clutching a white flag, who had been shot in the stomach. The woman's son insisted the Americans had shot her. Fewer people would have died if US soldiers had not blocked access to the main hospital in Falujah by occupying the bridge which led to it.
  Stories like these increased the feeling of alienation felt by British soldiers, right up to the most senior levels. Often the relationship between individual groups of British and American soldiers was good, but there was widespread contempt among the British contingent for the way the American behaved in Iraq. With occasional exceptions, the British-controlled sector of southern Iraq, centred on Basra, was peaceful, and there was strong emphasis on getting things working again so that they could be handed back to the Iraqi people. If you talked to ordinary Iraqis in Basra you would find that they usually felt the British soldiers were doing a good job, even though most people wanted them to leave as soon as it was done.
[和訳 1-2] 高齢の人々を含む何人かの民間人がアメリカ人兵士達によって撃ち殺されたことを示す証拠がでてきました。英国人救援部隊の女性職員が、白旗を掲げていた高齢の女性が腹部を撃たれるのを目撃したと証言したのです。撃たれた女性の息子はアメリカ人達が撃ったと主張しました。ファルージャの町の中心病院に通じる橋の通行をUS軍兵士が妨害していなかったら、何人ものけが人の命が救われたはずだとも主張しました。
  このような話が幾つも聞こえてくることになって、英国軍兵士達の間には、部隊の最上級層にも共有される形で無力感・違和感が高まりました。アメリカ兵士部隊とイギリス兵士部隊との連携が悪くなったというのではありません。しかしイギリス人部隊内部にアメリカ人兵士たちのやり方に対する軽蔑心が広がったのです。結構多くの例外事件があるものの、英軍部隊の管理下にあるイラク南部の、バスラの町を中心に持つ地域には平和がありました。英軍部隊は規律・治安の維持に特別の配慮をしていたのです。それができて初めて、治安維持の仕事をイラク人達の手に引き渡す可能性も生まれるとの考えでした。バスラの町で一般のイラク人達と言葉を交わすと彼らがイギリス人部隊の仕事に高い評価を下していることが解るのでした。そうは言っても、彼らのほとんどが治安の達成が完了すれば直ぐにでも、外国人部隊が退去するようにと希望していたことは確かです。

Lines between line 18 and line 34 on page 7,
"The Wars Against Saddam", Pan Books, a paperback


2. 政治家たちの世界における、仲間同士の結束、仲間を裏切る行為、この意味の一側面が Saddam 捕獲のシーンの文章から想像できます。

[原文 2]《from "1. CHECKMATE"》 Mohammed al-Musslit, in betraying him, had lost everything too: honour, self-respect, pride. For the rest of his life he would be vulnerable to anyone who might choose to take revenge on him. He could not even claim any share of the twenty-five million dollars offered by the Americans for information leading to Saddam Hussein's arrest, because he had not divulged it willingly. In one way or another, Saddam destroyed the lives of almost everyone who worked for him; but Mohammed al-Musslit's life was destroyed more completely, more savagely, than the rest. He was a dead man who had kept on living.
[和訳 2] 《第1節 チェックメイト》 モハンメド・アル‐ムスリトも、彼(サダーム)を裏切った結果、何もかもを、評判・名誉・誇りの類の全てを失くす結果になりました。今後の彼は、日常的に弱い立場に追いやられ生きて行かざるを得ません。いつ誰からこれまでの自身の行為への仕返しを実行するとも、それに対抗するための権力からの支えはありません。アメリカ軍側が提示したサダム・フセイン逮捕につながる情報提供者への報奨金(最大2500万ドル)の一部と言えども手にする権利はありません。なぜなら彼は自ら進んでサダームの居場所を漏らしたのではないからです。詳細は個々の場合で相違するとも、サダームは自分の下に仕えた殆ど全員の一生を破壊しつくしました。そんな被害者の中でもモハンメド・アル‐ムスリトが被った仕打ちは最も徹底していて手荒なものでした。彼は生きている死人にされてしまったのです。

Lines between line 30 and line 38 on page 12,
"The Wars Against Saddam", Pan Books, a paperback

《 私は改めて考えます。》
権力者が戦争を宣言するとその兵士達は実質的に日常の法の外に立てるということの意味を考えます。日常生活の為のお金を理由に多くの人はその行動を選択・思考・工夫します。その善悪は得られる金の高がある程度判定することになります。社会組織の法や慣行もその判定の一部を担います。 しかし戦争となるとその種の判定基準で生きている人々には、どういう罰を受けようが自分の正当性を申し立てる相手が無くなるのです。
  僅かながら残っているとしたら、それは自らが持っている哲学的世界の価値基準くらいのものでしょうか?


3. ヨルダンに逃避した長女 Raghad が語る家族の「睦ましい光景」と彼女が口を閉じる「別の実態」

父、サダームが逃亡を続ける中、ヨルダンに亡命中の Raghad ラガード (サダームの長女)のインタビュー番組がアル・アラビアのテレビで公開されました。それを見た著者 Simpson の報告が 4. The Daughter と題された節に登場します。その節の締め括りの部分は次の通りです。慎重にその意味(シンプソンの主張)を読み取りたいところです。

[原文 3] Her voice trailed away. It was quite affecting -- until you recalled that Raghad had had a gun on her lap, had known how to use it, and had been perfectly prepared to shoot the driver if he had done anything to arouse her suspicions. She was unquestionably her father's daughter.
[和訳 3] (感極まった)彼女の声は言葉を失い消えるように終了しました。非常に感情的で同情を誘うものでした。しかし同情も、一旦彼女が(逃走中の車の中にあって)銃を膝に乗せていたこと、その使用訓練も終えていたこと、完璧なまでにそれを使う、不審な点があれば運転手を射殺する心の準備もできたいたと彼女が述べていたことを思い起こすや、一機に霧散するのです。 彼女は父親、サダームの娘であること(父と同じ気質・哲学を持っていること)に疑いはないのです。

Lines between line 10 and line 14 on page 26,
"The Wars Against Saddam", Pan Books, a paperback

unquestionably 》が含意するのは、単に父の子であるに留まらずその気質を引き継ぎ生きていること、だと私は読み取ります。


4. Study Notes の無償公開

John Simpson: "The Wars Against Saddam, Taking the Hard Road to Baghdad"; a paperback from Pan Books 今回読書対象 Pages between page vii and page 26 に対応する Study Notes です。