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日本の民藝館めぐり(2)出雲民藝館

*2015年10月に訪問。一年以上前の記憶を思い起こしながら…。

出雲市駅から電車でおよそ15分。西出雲駅のやけに広い空はすき間なく雲でおおわれている。雨に濡れた長傘を持て余しながら10分ほど歩くと、住宅街の切れ目にちいさな瓦屋根の立て看板が見えた。駐車場の奥には赤茶色の壁が続いている。出雲民藝館だ。なんだか忍者にでも狙われているような気分で建物をめざす。

入館料500円を払うと、受付の女性が鍵を片手に最初の展示室へ案内してくれた。蔵を改装したらしい。電気をつけ、目ぼしい品を簡潔に説明し、どうぞごゆっくりと去っていった。

入ってすぐの壁。どこの民藝館にも、こういった民芸を説明したり表現したるする挨拶のようなもの、イントロダクションがあるが、それぞれ個性があり全く異なるのがおもしろい。ここは実直、真面目、そんな言葉がぴったりで、揃えもまさに「民芸の性質」に忠実だった。

中央の手ぬぐい生地で出来た藍染の一品は、今でいう赤ちゃん用バスタオル。赤い部分で頭を拭いたらしい。

圧巻。ここで、藍染のかっこよさを知る。

いちばん好きな柄。後日調べたところ、熨斗(のし)というらしい。(参考文献「湯浅八郎記念館所蔵品にみる日本の文様 幾何・器物」)

蔵を出て、もうひとつの展示室へと向かう。

農作業にまつわる品々。使われる場面は決して楽なものではないはずだが、こうして並べられるととてもかわいらしく感じる。

名前も知らぬ誰かが当たり前に作った、当時は珍しくも特別でもない日常の道具。いまの日本にこれを作ることができる人間はどれくらいいるのかと思う。

漆や和紙もいい。

でも最も惹かれたのは、この墨黒の数々。

残念ながら、この世に生み出されることは、もうないらしい。

人の住まいではない部分を。

出雲の豪農の屋敷、今も人の住まう建物に隣接した蔵や倉庫には、作り手のひたむきさやたくましさがひしひしと伝わってくる品々が、静かに力強くたたずんでいた。

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