二等辺三角形の作り方
私の幼なじみはとても目立つ。
そして、いつも比べられる。
だけど、それは決して「幼なじみ」と「私」ではない。
比べられるのはいつだって、私以外の幼なじみ。
「エリー、聞いてー」
「あ、ズルイ!! 真人(まさと)! エリー、俺の話も聞いてくれよー」
「なっ!? 実人(まこと)こそ、割り込みする気か!?」
一見すると、私の取り合い。だけど、現実は……。
オモチャの取り合いと表現する方がニュアンス的には近い気がする。
「真人の話も実人の話もどっちも聞くから、喧嘩しないの!」
そう言って、幼なじみの双子に声を掛けながら帰宅する。
取り留めのないことから真面目なことまで、愚痴聞き含めて日常茶飯事。
確かに同じ姿形をしているだけで、同じ能力を求められる苦労を私は知らない。
けれど……。
喉から飛び出し掛けた言葉をググッと飲み込み、二人の会話に相槌を打つ。
瓜二つの見た目を誇る真人と実人。
それに加えて、賢さと、運動神経。
オマケに端正な顔立ちまで持ち合わせて、目立たないでいる方が難しいだろう。
確かに、周りの級友たちに比べて一歩も二歩も優れている面があることも事実だ。
だけど何歳になっても話の優先権を巡る口論に発展するようなお子ちゃまぶりもあるわけで……。
いい加減大人になって欲しいものでもある。
とは言え、双子として生まれたばかりに不本意な注目を集めている苦悩も、幼なじみとして知っているからこそ無碍にも出来ない。
そういう甘さこそ、二人に付け込まれる由縁なのだろうが……。
仕方がない。
そこは惚れた弱みということで……。
「生徒会長を真人に、副会長を実人に打診が?」
「そうなんだよー。エリーは、こういうの嫌いなの知ってるだろ?」
「てか、こういう時って、必ず真人が上の立場を勧められるよなあ」
「しょうがないだろ。俺が兄で、お前が弟なんだし」
「しょうがないという一言で済まされるのが、一番腹が立つというか」
「んじゃあ、お前が生徒会長なら引き受けたか?」
「いや、生徒会長でも引き受けないな」
身も蓋もない会話を繰り広げている二人だが、人を惹き付ける魅力は確かにある。
だけど、そんな上っ面だけで判断する相手のようでは、どう考えても交渉は泥沼になるに違いないだろう。
「真人も実人も、無駄にカリスマ性あるけどさ。壊滅的に他人に興味ないもんね」
「そうなんだよね。そういう面をエリーみたいにちゃんと把握してるとは到底思えないんだよね」
「まあ、私も先方が真人と実人の自分本位主義な生き様を把握してないからこそ打診したとしか思っていないけどさ」
「さすが、エリー。容赦ないなあ」
ケラケラと笑う二人自身、壊滅的に他人に興味ないことを自覚している。
双子として比較されて育つ中、興味本位に物申す相手に情を抱けない二人の気持ちが理解できないような鈍感でもない。
双子の過ごしてきた環境を知っている身として、迂闊に提案することも憚られる。
第一、必要以上に注目を浴び続ける中で、取捨選択をしなければ大事な存在(片割れ)に対する興味さえ失いかねない負荷が掛かっている事実も知っているわけで……。
そんな二人に言えることは一つしかないだろう。
「……私。新学期からボランティア部に入る予定なんだよね」
「え!?」
「そうなの!?」
「真人や実人と違って、内申点が心許ないからね!」
「え、え……。てことは」
「もしかして…?」
そう言って、二人顔を見合わせている。
どうやら二人揃って、問題点に気付いたらしい。
学内の生徒会室での作業を主とする生徒会メンバーに対し、ボランティア部は学外での作業比重が高い。
三人一緒に帰宅する頻度が激減する。
その事実をどれほど重く受け止めるかは未知数だ。
だけど、ありのままの姿を晒せるくらい心を許している存在が、他にいない事実も知っていたので強気に出た。
「「俺も生徒会じゃなくて、ボランティア部に入ろうかなあ…………って、え!?」」
示し合わせたような反応に笑みを浮かべつつ、二人の気が変わらないうちに念押しする。
「よかった。真人と実人がいたら心強いよ!」
ボランティア部は、団体行動のように見えて一件ずつ独立した案件も多い。
うまく仕事を選べば、生徒会より二人の特性を活かすことが出来るだろう。
さて、本来なら二人が自力でオファーを断る。
もしくは痛い目にあって学習するべきではないかという声もあるだろう。
だけど、人生なんて、そんなものでしょ?
誰だって、自分が可愛くて。
誰だって、美味しい蜜を吸いたくて。
相手の自尊心を適度に守りながら、こちらの希望もスルリと通す。
双子のパワーバランスをいつだって対等にすべく、私は如何様な物にでも変化してみせる。
毎回毎回、ドラマみたいに綺麗な落とし所があるわけじゃない。
だけど、日々ドラマみたいな伏線はり巡らせて駆け引きはしてる。
そんな日常こそが、私たち幼なじみの毎日であり、
双子の距離感萌えしている私目線の日常でもあるのだから。
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