オレのウダツが上がるまで(第二十八話)

〜さよなら現世〜

ーーーヒロヨシの脈拍が下がり始めた。
   
   ベッド横のモニターからは
   危険を意味するアラームが
   病室内に鳴り響いた。

   医師達が駆け付ける。

   でも動揺しているのは
   家族だけだった。

   医師達にはもう分かっている事だ。

   脈拍は下がり続ける。

   苦しそうなヒロヨシを見て
   家族はただしっかりと
   彼の手を握り、
   不安な時間を
   やり過ごすしかなかった。
 

   その時、突然ヒロヨシの
   ココロの視界が開けた。

   丁度、自分の周りの情景を
   俯瞰(フカン)するように。

   空から病院の屋上が見える。

   そして次に病室の天井から
   自分を取り囲むようにして
   皆が手を
   握ってくれているのが見えた。

妻よ! コウキ! マイ!
オマエたちが見える!

オレは死ぬんだな。
今まで色々ありがとう。
皆元気で暮らすんだぞ!

また・・・いつか会おう!

ーーーヒロヨシはココロの中で叫んだ。

   そして感覚のない自分の手に
   グッと力を入れるように
   皆の手を握り締めるよう念じた。

「あぁ!」

ーーー家族はソレをしっかりと感じた。
   いや、感じるどころか
   手が痛くなるホドの握力だった。

「あんた!」

「オヤジ!」

「お父さん!」

ーーー皆、次々に声を上げる。

「オヤジ!もうラクになっていいんだぞ!
 充分頑張った!もう大丈夫だから!」

ーーーコウキがそう叫んだアト、
   ヒロヨシの手のチカラが抜けた。

   六月から七月に
   日付が変わったコロ
   ヒロヨシは息を引き取った。

   波口宏至(ナミグチヒロヨシ) 48歳。

   あるのかないのか分からない
   自分の才能に
   何かをミイダそうと
   モガき苦しんだ
   たぶんちょっとヒトより
   多く悩んだ
   そんな人生だった。

〈つづく〉

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