オレのウダツが上がるまで(第十九話)

〜その言葉の重み〜

ーーー大学病院への搬送も出来なくなり、
   目の前のヒロヨシを呆然と見守るだけ・・・。

   “脳死” という言葉を耳にして
   妻や子供達は “もしかして”
   という一つの単語に
   二つの意味を持たなければ
   ならなくなってしまった。

   そしてその二つの意味すらまた
   一つの現実にさらされる事になる。

   夜明け前、三度目の破裂が起きてしまったのだ。

   そして立て続けに四度目の破裂が起きる。

   病院内は慌ただしく
   医師や看護師が小走りに動く。

   そして医師が家族を集め口を開いた。

   「脳死という診断を告知させて頂きます。」

   家族の中で時が止まった。

   何が起きたのか分からない妻
   泣き叫ぶ長女・マイ
   ただ下を向いたままの長男・コウキ。

   脳死という言葉はあまりにも重かった。

   それまでも色んな思いを家族は持っていた。

   ヒロヨシが目を覚ましても
   何らかの障害は残るかもしれない・・・
   皆それぞれに覚悟はしていた。

   でもまた感情があるヒロヨシ
   接したいという思いもあった。

   会話をしたり、一緒に食事をしたり
   どこかにみんなで出かけたり・・・。

   またいつか気持ちを極極普通に
   共有できる日が来ると、そう信じていた。

   しかし、この言葉から
   少なくとも今は
   希望を見出せないでいる。

   その日家族はヒロヨシをずっと
   病室でただただ見つめていた。

   そんな中、コウキは夜の道路をひとり
   車を走らせ実家に向かった・・・。

〈つづく〉

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