オレのウダツが上がるまで(最終話)


ーーーコウキは届いた封書の
   その軽さとは真逆に
   何か重みのあるモノを感じた。

   「国際デザイン連盟」・・・。

   ヒロヨシの職業はデザイナーだ。
   
   客の要望に応えるよりも
   自分の思いをぶつけ過ぎる
   傾向があったタメか
   変わりモノ扱いされ
   お世辞にも順調な受注とは言えない
   売れないデザイナーだった。

   ヒロヨシが倒れる前の
   まだなんの予兆もなく
   元気に過ごしていた頃
   コウキに話していたコトがある。

   「コウキ、オマエは
    オレのソノコロより早く
    進むべき道が見つかって
    ホント良かったなぁ!」

ーーーヒロヨシは嬉しそうに話を続ける。

   「オマエが子供のコロ、
    オレ、よく言ったよな?
    あ、コレオモシロいって
    少しでも思えるコトがあったなら
    徹底的にソレをやってみろって。

    どんなコトにも
    ツラくなってイヤになる・・・
    そんなトキがあるんだ。

    でも
    コレオモシロい、
    コレ好きかもって
    思えたモノはさ
    気付いたらまた
    ソレを始めてるんだ。

    だからソレがオマエにとって
    かけがえのないモノになるんだ。

    たとえソレが中々開花せず
    いつまでもウダツが上がらないなぁ
    なんて落ち込んだりしても
    きっとソレはオマエ自身を
    どんなコトからも
    救ってくれる。

    だからその好きかも・・・ってモノ、
    大事に大事にするんだぞ。」

ーーーコウキはその時、話を聞きながら
   「なんだよ、ソレ」とチャカした。

   今思えばあの話は
   ヒロヨシ自身が
   ソレに救われてきたからこそ
   自分に伝えたかったコト
   だったのかもしれないと感じた。

   コウキは封書のスミを
   急いで指でちぎり
   中から手紙を取り出した。

  この程、貴殿の作品が
  最優秀賞に選ばれた事を
  お知らせ致します。


   ヒロヨシが生前応募した
   デザインコンテストで
   最優秀賞を獲得したのだ。

   「オレはいつまでもウダツが
    上がらないよなぁ!」

   ヒロヨシは妻や子供達によく
   そう話しては大笑いしていた。

   家族はなんとなく天を仰ぎ
   あの時話していたヒロヨシの
   笑い顔を思い浮かべた。

   目に涙を溜めて
   トキオリ流れるソレを拭いながら
   妻が子供たちに言った。

   「ホンットにあの人ったら、
    最後までウダツが上がらなかったよね!」

   そしてコウキが押し殺したように
   フッと吹き出すとマイもクスクスと続き
   やがて三人は大笑いした。

   もしかしたらどこかで
   自分たちを見守っているかもしれない
   ヒロヨシに聞こえるように。

ーーーのちにヒロヨシの作品は
   世の中に公表され
   賞賛されるコトとなった。

   自分の作品が
   大きな評価を得る・・・。
  
   ヒロヨシが生きているウチに
   ソレを知ったとすれば
   どう感じたのだろう。

   大喜びしてハシャいだだろうか。
 
   それとも
   「オレには似合わないよなぁ。」
   とでも言ってハニカんだだろうか。

   どちらにしてもヒロヨシは
   この世にもういない。

   家族はただただこのコトを
   ヒロヨシに伝えたかったと

   いつまでも
   
   いつまでも
   
   それだけに思いを馳せた。

   

   
ーーー生きているモノはいつか必ず死ぬ。

   だからこそ出来るだけ
   悔いのない生き方をしたい、と
   誰もが思うハズだ。

   しかしヒロヨシはズイブンと
   ソレに気付くまで遠回りした。

   そしてマサにウダツが上がる前に
   この世からいなくなった。

   ソレでも彼はシアワせだった。

   ツネに生きづらさを
   持ち合わせていたのに
   どうしてそう思えたのか

   ヒトツだけ言えるコトは、
   ヒロヨシは知っていた。

   ソレはモノゴコロついたコロから
   意識がなくなるまでの人生の中で
   自然と感覚的に身に付いたモノ。

   辛さだったり悲しみだったり
   そういったコトガラは
   
   どれだけ小さな幸せだとしても
   
   どんな些細な喜びだとしても
   
   その大きさを絶対に
   超えられはしないというコトを。


〈おわり〉

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