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頑張れ!日高屋!:極私的外食企業列伝(2)

コロナ、本当に恐るべし存在で、かつ外食の人からすれば恨めしいこと限りない、憎っくき存在です。

日経ビジネス2020/06/16付の記事(下記参照:有料記事)でも、居酒屋が量販向け商品や定食に活路を見出そうとする、といったことが書かれており、なんだかなァ、と思うのです。

細かいこと言うと色々ありますが、そもそも「会社近くの呑み屋」とか「オフィス街近くの繁華街」が難しくなり、オフィス街近くにある歯医者や美理容店、クリーニング店などが既に経営が厳しくなってきている、というお話が既にチラホラ出てきている始末。

つまりは、テレワークの浸透や、コロナ禍による人員削減などによってオフィスに出勤する従業員が減る。つまり「繁華街」の集客力が低下することになります。

そういう「繁華街立地」の店舗自体が”不良債権化”し始めているところで居酒屋はこれから一体どうするの?というところを、首都圏の駅前繁華街に文字通り「デーン」と店を構えているのが、今日のお題の「日高屋」さんである。

日高屋のいいところ①:駅前立地

日高屋さん、関東にお住まい/お勤めの方ならお分かり頂けるでしょうが、基本、皆さんお住まい/お勤めの街の駅前にお店があります。あとは、商店街の中とかですね。

これ、出店の基準が「マクドナルドのとなり」という、身も蓋もない基準で出店していたようで、「全てがそうではないけど、概ね当たっている」とのこと(中の人談)でした。

こうすることで、出店立地で悩んだり試算したりする手間が省ける、という現実的なメリットだけではなく、駅前なので遅い時間までお酒を売ることが出来るため、「昼はランチ(食事)、夜は食事&ちょい呑み」の”二毛作”的な需要取り込みが可能となっています。

日高屋のいいところ②:しょっちゅう行ける、お値段と味

日高屋のお料理、私がいつも不思議なのは「核商品が無い」のに、客単価がブレずに安定していることです。「核商品」とは「吉野家の牛丼」や「てんやの天丼」のようなもので、日高屋の餃子は旨いですが、その味を明確に記憶に残している人は少ないでしょう。

そう、季節商品は比較的味の濃いものが多いものの、定番品はどれも若干味付けが淡くなっています。恐らく、これは意図的にそうしており、濃いめが好きな人は、自分で卓上にある醤油や塩、胡椒、酢を使って調整するようになっています。

これは、飲食店でよく言われる「美味しすぎると、飽きられる」という話で、そこそこのお味を、お値打ちな価格設定で提供すると、比較的高い頻度で再来店をして頂けるようになるという、いわば”鉄則”です。

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2018年1月からの既存店客単価(前年同月比)を上げますが、せいぜい+5%(105.0%:2018年8月)であとは、季節商品によるブレの範疇で、客単価を高めに誘導しようともしていない事がお分かり頂けると思います。

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それで客数に目を向けると、2018年末あたりから既存店客数前年割れが慢性化してきていたので「飽き」が来ているようにな見受けられますが、大きく落としているわけではなく、客層が固まっていることが伺えます。(注記:コロナの影響で、2020年4月が48.0%、同5月が47.1%とグラフ外に落ちています)

ここでの課題は既存店客数の底上げ(既存店の改装、商品の見直し等)というところでしょうか。

日高屋のいいところ③:儲かっている

日高屋、財務は外食の中では最強クラスですが、その根拠は下に挙げている「安定した成長率」です。(出典:有価証券報告書より抜粋)

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直近期(2020年2月期)の営業利益は、人件費や賃借料の上昇、およびQRコード決済等による支払手数料増により悪化(△13.4%)しておりますが、2015年までの間は、安定して営業利益成長率8%、総資産成長率10%以上を維持してきていました。投資対象としても素晴らしい成績です。

利益もそうですが、総資産成長率を長期に渡って高い水準で維持し続けているということは、堅固な収益モデルを持っているということで、言い換えれば「出店すれば、儲かる」ということになります。

日高屋のいいところ④:離職率が低い

日高屋の主力業態は中華ですが、他にも「焼鳥日高」と「とんかつ日高」という別業態を持っています。

このうち「焼鳥日高」をなぜ作ったか?という理由が、「長年勤めてくれた従業員が、(中華)鍋を振れなくなった時に働ける店が必要だ」というのを、中の人に聞いた時に、「そりゃ離職率11%で収まるわな~」と感心したことがあります。外食は30~40%当たり前ですので、これは驚異的に低く、全産業セクター平均とほぼ同じになります。

離職率が低いということは、従業員への教育にかける経費に余裕が出る、言い換えれば「辞めないので、教育コストが回収出来る」という循環が成立します。

この低い離職率が店舗でのオペレーションを安定させて、その商品政策と相まって客数や客単価がブレない業態が確立する、という好循環を生んでいます。

まとめ

とはいえ、日高屋も高い人件費に苦しんており、また、前述の通りここ1年半ほど既存店客数100%割れが常態化しつつあります。

日高屋というブランドへの”飽き”や、従業員の質が世代交代によって変わり始めているのかもしれません。

これから外食企業で働く世代にとって、今まで良しとされてきた”ウェット”で”家族的”な社風が、果たして持続可能なのか?ということが気になります。

日高屋さんは長期雇用を前提とした制度設計で、上の④で挙げたような低離職率を実現し、店舗運営を安定させてきました。果たしてそれが、これからも維持出来るのか?という点が気になります。

個人的には、こういう派手さは全くないけど、多くの働く人にとって居心地のいい場所を提供して頂ける外食企業が伸びていくことは、ヘタに話題性が高い店よりも遥かに価値があると思っており、是非この苦境(といっても赤字では全く無いのだが)を乗り越えてほしいと思いますし、ポストコロナでこそ、この家族的な社風が響く人が増えるのではないか?と、思っています。

頑張れ!日高屋!


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