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僕のストーリー

湖面に映った美しい街灯。

平和な山の平原で、夜うさぎを落ち着いて追いかけるみたいな静けさがある。

でも、実はもうひとつあった。

隣のベンチで座る君のこと。

実は輝いていたのは湖面の街灯だけじゃなかった。

………………………………

君が僕を見詰める視線もきれいだったんだ。

湧き水のような透き通るような輝きが瞳に宿っていた。

君は僕を求めていた。

唇も艶やかに輝いていた。

艶めかしく、艶やかに、ぬくもりに満ちた輝きだ。

君はその唇から、三度同じ事を言っていたんだよ。

「************ 」

僕は君のそれを聞いて、君のそれを見て、耐えられなかった。だから、何度も君の言葉を呑み込んだ。だから、何度も君の眼差しから視線を外したんだよ。

湖面に視線を映して、僕らの未来を投影しようとしたんだ。

それを観ながら、呑み込むべきじゃない。視線を逸らしちゃいけない。そう何度も思った。

でもさ、自信がなかったんだ。僕はもう何度も失敗してきた。その度に、もう失敗はしないと強く誓っても、失敗ばかりだった。

道を間違えたことも一度や二度あった。

もう少しだけ、今の僕が、今の僕を取り巻く状況が、もう少しだけ違ったら、僕は君を抱きしめていたかもしれない。

いや、抱きしめていたに違いない。

水面の街灯はつかめなくても、君の瞳を僕の中に閉じ込めたり、唇を包んだりできたはずだ。

君は望んでいた。そうなることを。君は願っていた。そうなることを。

だけど僕は、僕は、僕の片隅で願う君のそれとは違うものを少しだけ信じたんだ。

僕ではない人が君を幸せにするんじゃないかって。

僕では君を幸せになれないんじゃないかって。

僕は踏ん切りを無理矢理つけて、ベンチに放り出していた脚を振り上げて、大地を強く踏みつけて立ち上がった。

………………………………

駅に着いたときは、魔法が解けたみたいだった。深夜0時に、馬車が、かぼちゃになるみたいに。ドレスが、薄汚くなった清掃服に変わるように。

君は不安そうに僕を見つめていた。連絡してね。君はそう言ったけど、僕はきっぱり、しないって言った。

帰りのタクシーでは死んだように力が抜けてた。

でも、未だに、おかしなことだけど、僕は片方だけのガラスの靴を持ってる。

魔法は解けたはずなのに。

僕は家に着くとガラスの靴を物置に放り投げた。

魔法が解けたかどうかはもう意味がない。

意味があるのは、自分が何を信じて、何をしたかということ。

彼女もそうであって欲しい。

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