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泉光『圕(図書館)の大魔術師(7)』

☆mediopos-3128  2023.6.11

ファンタジー漫画『圕(図書館)の大魔術師』第七巻に
「黒の書」についての
主人公のシオ=フミスと
中央圕(図書館)司書室イシュトア=セロス
との対話がある

『圕(図書館)の大魔術師』の物語については
特にとくに説明しないでおくが
ここで問われているのは

偽書「黒の書」がなぜ危険な偽書とされているのか

なぜひとは偽書を信じてこんでしまうのか

ひとは何を頼りにして物事を判断し
それが真実であるか偽りであるのかを
どのようにして判断しているのか

であり

その真偽について判断するときに
正しい判断基準があるのかといえば
じぶんが依拠する権威のためだったりする

そしてその真偽は
視点によって
偽も真となり
真もまた偽となりもする

それを明らかにしようとすれば
そのために
長い長い時間が必要とされたりもするのだが

ではどうすればいいのか

である

この対話で主人公のシオ=フミスは

「与えられた知識に対して
自分の知らない世界に対して」
「一つの柱に全てを委ね
 もたれかか」らないで
「謙虚でいようと思」うと言う

現代において我々が直面しているのも
「黒の書」を奉じているかにみえる力と
それに抵抗している力の争いのようにも見える

前者はたとえば
増えすぎた人類の削減と地球環境保全のためとして
人類全体の管理統制のための権力を集中させ
手段を選ばずそのためのあらゆる策を講じようとし
後者はもちろんそれに抗する力である

前者でフロントに立っているのは
力を表だって直接行使するマリオネットたちで
それらのマリオネットたちに対する抵抗は
どこか無力感させ感じさせもするのだが
それでもその力に対して抵抗しないわけにはいかない

けれど抵抗しながらも
忘れてはならないだろうことは
その拮抗する力と力の背後にあるかもしれない
見えないでいるなにものかだろう
それを見据えてみることを忘れてはならないのではないか

思い出したのは
mediopos-3036(2023.3.11)でもとりあげた
宮崎駿『風の谷のナウシカ 7』の
ナウシカの物語の最後の
ヒドラとナウシカの対話である

ナウシカは
「いのちは
 闇の中の
 またたく光だ!!」
と叫ぶのだ

正しさや善も
それそのものが絶対化されるとき
その闇の部分が見えなくなってしまうことを
常に意識しておく必要がある

私たちは闇にとらわれてはならないだろうが
同時に正しさや善の「手段」でも「奴隷」でもなく
まさに光と闇のなかで生きている

ナウシカはあの物語のなかで
みずからが選んだ道を歩んでいこうとしたが
私たちも与えられた「権威」とされるものなどには従わず
みずからの道を選んで歩いていかなければならない

■泉光『圕(図書館)の大魔術師(7)』
 (アフタヌーンコミックス 講談社 2023/6)

(「第三十一話 小説失格」より)

「・シオ=フミス/
 凄い本でした・・・

 この本に書かれてある
 あらゆることが
 嘘である
 僕はそう
 知っているはずなのに

 少し読んだだけで・・・
 「へぇ・・・そうなんだ」
 と思ってしまった・・・ッ

 ・中央図書館司書室イシュトア=セロス/
 うむ・・・
 それこそが
 黒の書の恐怖

 歴史学・宗教学・解剖学に
 精通した多種多様な
 角度からの証明

 十数年に及ぶ
 調査実験による
 数字の比較

 学会からの
 賛辞と推薦

 図説
 論文の引用
 医者の証言

 この本には
 人が情報を信じる
 ために必要なあらゆる
 モノが揃っている・・・!

 黒の書はホピ族が
 劣等民族であるという仮説を
 立証する過程を示した
 学術書としては非常に
 優れていると言えるだろう

 ただ一点
 その裏付けの全てが
 デタラメである
 という問題を
 除いては・・・・・・・・・

 ・シオ=フミス/
 この本を読めば
 自分が何を頼りに
 物事を判断しているかがわかります

 僕は「海」は〝ある〟と
 信じているけれど
 「吠える洞窟」は〝無い〟
 と思っています

 どちらもその目で
 見たことなど無いのに

 そう判断してしまうのは
 前者は図書や教科書に

 後者は架空とされる
 小説に権威が紐付け
 されているから

 ・中央図書館司書室イシュトア=セロス/
 そうだな・・・
 私達は
 取捨選択する際必ず
 権威を参照している

 友人や隣人
 本や新聞
 学者や医師の論文
 政府の発表や神の啓示

 ・・・でも
 それらが
 常に真実とは限らない————

 ・シオ=フミス/
 何かを学ぶために
 本を積み上げた時
 僕はそこに混じった
 偽りを見抜くことが
 できるとは思えません

 ・中央図書館司書室イシュトア=セロス/
 そうだ・・・
 これはどのような
 知識人や専門家でも
 変わらない

 全てをその身で
 経験する時間は
 誰にも無いのだから

 人が賢くなった
 フリをしてできることは
 寄りかかる権威を
 慎重に選ぶこと
 くらいなのだろう

 じゃあこの世は
 偽書の楽園なのかと
 いえばそうではない

 虚偽の情報は
 後に有志によって
 必ず訂正される

 だがそこには
 時間の〝間〟がある

 この間が
 何より怖く

 そこに起こった
 最悪の出来事が
 ホピ族虐殺だ

 私は偽書に
 立ち向かうには

 この時間の
 向き合い方に
 かかっているの
 ではないかと思う

 ただし
 この間は
 一年か十年か・・・
 それとも百年かは
 わからないのだが
 ————————・・・

 ・シオ=フミス/
 僕が黒の書を
 読んで恐ろしいと
 感じたのは・・・

 「黒の書は嘘である」
 という「真実」もまた
 権威を頼っているに
 過ぎないこと・・・

 結局僕は・・・
 ホピ族に対して
 何もわかって
 いないのと
 同じです

 ・中央図書館司書室イシュトア=セロス/
 ・・・そうだな
 黒の書こそが
 真実で世界はその
 不都合を隠そうと
 していると主張する
 精力も少なくない

 知識と経験・・・
 どちらか片方だけ
 では不十分なのは
 間違いないのだろう

 シオ・・・お前は
 不確かな時間と
 どう向き合う?

 ・シオ=フミス/
 謙虚で
 いようと
 思います

 与えられた
 知識に対して

 自分の知らない
 世界に対して

 一つの柱に
 全てを委ね
 もたれかかっては

 それが崩れた時に
 地に打ちひしがれる
 ことしかできない
 から————————」

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