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大山顕「撮るあなたを撮るわたしを 5.手のひらと移動する写真」 (『群像 2022年 09 月号』)

☆mediopos2831  2022.8.18

この大山顕「撮るあなたを撮るわたしを」の連載は
以前自撮りについてとりあげたことがあったが
今回は写真や動画のサイズについて

写真のサイズ
動画のサイズは
どのようにして決まったのか
どのように変わってきたのか
それはどうしてなのか

かつて広く普及していたフィルムカメラの規格は
36×24mm、3:2の長方形で
現在のデジタルカメラでも
「フルサイズ・フォーマット」として残っているが
この大きさは「ライカ」が採用したことに由来している

縦横比が3:2だったのは
ほんらい映画用だった縦横比3:2の35mmフィルムを
拡大して印画紙の引き伸ばす機械を
スチルカメラと同時発売したことから
その比率が決まったと言われているようだ

しかし現在のカメラの初期設定は4:3
それは一九九〇年代後半にコンパクトデジカメが採用した
当初のアスペクト比を受け継いでいるということだが
これはビデオカメラのアスペクト比が
4:3であったことが影響している
映像の縦横比フォーマットが
デジタル化とともに写真の世界に入ってきたのだ

ではかつてのテレビ画面の縦横比4:3は
どこから来ているのかといえば
トーマス・エジソンの研究所が35mmフィルムに
18mm×24mmのコマを記録させるようにした
そのことからきているのだという

興味深いことに
映画用ではフィルムを縦に走らせていたのを
カメラでは横向きにフィルムを巻いていたことから
映画より細長い3:2の横位置の画面になった

写真及び画面のサイズの決定には
いろんな要因とプロセスがあるのだ

その後現在の映像フォーマットの主流といえば
縦横比16:9となっていて4:3よりも長細い
映画の歴史を見ても早い時期から
エジソンの4:3からはどんどん横長になっているが
その理由は水平方向の「動き」を表現しようするときに
適したサイズへと変化してきたということがいえそうだ

ちなみになぜ写真は長方形なのか
著者によればその起源は
壁画にあるのではないかという
長らく絵画は建物の壁に描かれていたが
柱と梁に囲まれた建築の壁面は長方形になりがちなので
それに合わせて描くと長方形になる

その長方形が絵画と写真フィルムを経由して
その後はスマホを効率よく使う
「手のひら」の構造に合わせ縦位置の長方形になっている

さてスマホで撮られる写真は現在
多くSNSでシェアされることが多いが
意外なことにかつて明治から太平洋戦争中にかけて
「シェア」する写真メディアは「絵葉書」であった

「当時の絵葉書はニュースメディア」であり
「社会的な事件や出来事が起これば、
すぐさまその写真絵葉書が発売され、人びとはそれを買って
遠方の家族・親戚・知人友人に送った」のだという

絵葉書のサイズは現在のスマホと近い
「手のひら」のサイズである
「誰かから送られてきた写真を小さなスマホで見ることは、
絵葉書を見ることと歴史的につながっている」のだ

メディアや技術は大きく変わっても
人が好んですることはあまり変わらないようだ

■大山顕「撮るあなたを撮るわたしを 5.手のひらと移動する写真」
 (『群像 2022年 09 月号』所収)

「先日、大量の古い絵葉書を見る機会があった。明治から太平洋戦争中にかけて発行されたものだ。ほとんどが絵ではなく写真を印刷したもの。(・・・)
 新聞やテレビなどのメディアが発達した現在では想像するのが少し難しいが、当時の絵葉書はニュースメディアであった。社会的な事件や出来事が起これば、すぐさまその写真絵葉書が発売され、人びとはそれを買って遠方の家族・親戚・知人友人に送った。個人から個人に宛てられるコミュニケーション手段である葉書が、同時に社会的な出来事や事件を「シェア」するメディアでもあったのだ。」

「今回考えるのは、写真の「小ささ」についてだ。」

「まずスマホ写真の「小ささ」について。写真がデジタル化し、もっぱらスマホで撮影・閲覧されるようになり、さらにSNSでシェアされるようになって盛んに議論されたのはその拡散性についてだった。(・・・)
 だがぼくは、いまはそれよりもスマホによって写真が物理的に小さくなったことに特に注目したい。これはかなり重要な出来事だと考えている。iPhone13の画面サイズはおよそ135×662mm。かつてフィルムカメラで撮影したネガを街のDPE屋に出し、「サービス判」と呼ばれるサイズのプリントを受け取った経験のある人もいるだろう。「Lサイズ」とも言われたあの写真の大きさは127mm×89mm。つまり、現在のぼくらはアナログ時代とにたりよったりの小さい写真を見ているのだ。これは驚くべきことではないだろうか。
(・・・)
 写真の歴史上、このスマホの画面のサイズに近い写真があった。十九世紀に大流行したカルト・ド・ヴィジットである。これは、当時勃興してきたブルジョワジーがこぞって写真館に行き、カメラマンに自らの肖像を撮らせたもの。仕上がりサイズは約102×64mm「名刺判写真」とも呼ばれた。ぼくの考えでは、このような小さい写真は、ポートレイトに向いている。InstagramやTikTokなどのSNSでたくさんのフォロワーを擁するアカウントの多くが、もっぱら人物を撮っているのは偶然ではない。メディアの大きさがそうさせている。」

「絵葉書もまた、スマホのサイズに似ている。ヨーロッパで流行していて絵葉書が、日本でも出回るようになったのは、一九〇〇年。同年に私製葉書の発行が認可されたことによって民間の事業者が参入し、たちまち大人気商品となった。おもしろいのは、コロタイプと呼ばれる写真の印刷技術が日本に導入されたのはこの少し前。絵葉書の出現と、写真印刷技術の普及がほぼ同時期に起こったことだ。その結果、日本においては絵葉書はその誕生時から、このコロタイプを使った写真メディアとして広まった。
(・・・)
 結局のところ、どんなにメディアが変わっても、ぼくらが楽しむ写真のジャンルは同じなのだ。人間が欲望する図像は決まっていて、それをより効率よく楽しむために画像メディアは進化してきたのかもしれない。そしてそこで重要になるのが画像の「小ささ」なのではないか、というのがぼくが今回言いたかったことのひとつである。」

「興味深いのは、このスマホの小ささが、ぼくらの手のひらに由来していることだ。ディスプレイが部屋に置かれるものであったテレビ中心の時代、その画面サイズは大きくなる一方だった。ブラウン管から液晶への移行といった技術的な進化と、それらの低廉化が画面サイズを大きくしていったわけだが、スマホになってからは、人間の手で握ることができる幅、というものに規定されるようになった。登場初期から比べれば大きくなったが、おそらく横幅に関してはこれ以上大きくならないだろう。iPhoneは登場してから縦方向に大きくなる傾向にある。横幅が大きなタブレットも存在するが、スマホに比べれば日常的にあれを持ち運ぶ人は少ない。胸元で手に握っているものを見るときに自然な手首の状態を考えると、横長のデバイスは持ち続けるのがしんどい。文庫本や新書などと同じだ。」

「そもそも、なぜ写真は長方形なのだろう。「6×6」と呼ばれる正方形のフォーマットもあったが、「シノゴ(4×5)」にしろ「8×10」にしろ、そして最も普及しデジタルカメラにも引き継がれた35mmフィルムの3:2にしろ、おおかたの写真フォーマットは長方形だ。なぜかくも長方形なのか。
 まずぱっと思いつく起源は絵画だ。現代の日本のキャンパスのフォーマットはフランスのものを元にしている。人物を描くのにふさわしい「F(Figure)」、風景用の「P(Paysage)」、海景の「M(Marine)」と名付けられ、この順番でより細長くなっている。人物用がもっとも正方形に近く、(…)海景用が最も細長い(・・・)。黄金比を元にして決められたというが、ほんとうにこの比率に意味があるのかどうかはさておき、ぼくが興味をひかれるのは、ここでもやはりポートレイトとランドスケープで比率を変えるべきだとしている点だ。あるいは写真の縦位置・横位置の呼び方はここから来ているのかもしれない。(・・・)
 人間の視野角は水平約二〇〇度・垂直約一二五度で、だから横長の絵のほうが自然だ、という説もあるが、なにも絵画は視野をすべて覆うようにして見るものではない。たとえば日本の伝統的な平面芸術で言えば、絵巻物や掛け軸などが全く別のコンセプトを持っている。なので、ぼくはこのような西洋絵画の長方形の起源は、生理的な理由とは別のところにあると考える。それは壁画にあるのではないか。キャンパスなどの画材が発明されるまで、長らく絵画は建物の壁に描かれていた。だから長方形なのではないか。つまり、建物の立面が正方形であることはまれだから、そこに描かれるものも長方形になった、と。これは素人の思いつきで、なんの証拠もあるわけではないが、仮にこの考えが正しいとすると、建物の壁から発生した長方形が絵画と写真フィルムを経由して、手のひらの構造によって縦位置が主流となり、その起源たる、ほかならぬ建築を撮った写真の閲覧を困難にしていることになり、たいへんおもしろい。建築写真家としてはおもしろがっている場合ではないのだが。」

「一般家庭に広く普及したフィルムカメラに使われていた最も一般的な規格は、36×24mm、3:2の長方形である。このサイズは、現在のデジタルカメラにおいても「フルサイズ_フォーマット」として残っている。
 この大きさの由来は「ライカ」というカメラが採用したことにある。それまで写真に使われていたフィルムは、高価で使い勝手の悪い大判のものが主流だった。ライカは、映画用の35mmフォルムフィルムを流用することで、機動性にすぐれた小型カメラを作った。このときに生まれた規格だ。
 とはいえ、現在のスマホの写真縦長比は3:2のフォーマットではない。iPhoneをはじめ、今日のカメラの初期設定はおおむね4:3だ。これは一九九〇年代後半にコンパクトデジカメが出始めた当初のアスペクト比を受け継いでいる。なぜコンパクトデジカメは35mmフィルムで主流だった3:2の縦横比を採用しなかったのか。これはビデオカメラのアスペクト比が4:3であったことが影響している。映像分野のほうが写真業界より先に電子機器が普及していたため、映像の縦横比フォーマットが、デジタル化とともに写真の世界に入ってきたわけだ。
 ではなぜ映像は4:3なのか。これはアナログ時代のテレビの縦横比だ。つまり、現在の写真の縦横比は、写真機ではなくかつてのテレビのフォーマットを元にしている。
 さらに、ではこのテレビの4:3はどこから来ているのか。これはトーマス・エジソンの研究所が35mmフィルムに18mm×24mmのコマを記録させるようにしたことからきている。これが史上最初の映像アスペクト比の決定だった。残念ながらなぜこの比率になったかの理由ははっきりとはわかっていない。前述したように、にちにライカがこの映画用のフィルムを写真用に利用するわけだが、ここで興味深いのは、映画用ではフィルムを縦に走らせていたものを、写真機では横にしたことだ。ライカ以降、一般的な35mmフィルムを使うカメラは、横向きにフィルムを巻いていた。これによって、映画より細長い3:2の横位置の画面になった。
 ここでぼくがおもしろいと重うのは、写真の縦横比を決めた要素のひとつが、フィルムが走る方向の縦横にあったという点だ。なぜなら、SNSのタイムラインは縦に走るから。〝タイム〟ラインの名が暗示するように、次々と流れ去っていくSNSの写真は動画に近いのかもしれない。」

「しかし、現在の映像フォーマットの主流は16:9だ。これは4:3よりも長細い。このよく考えてみれうば妙な縦横比はどうして生まれたのか。映画の歴史を見ると「シネラマ」「シネマスコープ」「ビスタビジョン」など、早い時期からエジソンの4:3を脱し、どんどん横長になっている。最も横長である規格「MGM65」の縦横比はなんと1:2.76だった。(・・・)
 映画がこのような極端な横幅なワイド画面競争をしたもうひとつの理由は、「動き」が重視される場合は横長が適しているからだろう。徒歩でも乗りものに乗っていても、人間の移動のほとんどは水平方向だ。人は空を飛べないから。その横方向を中心とした移動のスピードと迫力を画面に収めるとしたら、やはり横位置のほうがよいに決まっている。
 (・・・)
 要するに、人間が重力から逃れられないことが、その動きを記録する映像の画角を横長にしたということだろうか。これは先に述べた柱と梁に囲まれた建築の壁面が長方形になりがちという話題に通じている。」

「絵画にキャンパスという布が使われるようになったのは、大航海時代という「移動」の世紀を迎えたヨーロッパで帆布が出回ったからだった。それまで絵画はもっぱら木の板に描かれていた。キャンパスがイタリア・ルネッサンス期に急速に普及したのは。ヴェネツィアが海運国家だったことと切り離せない。絵画とは風を受けて移動する帆なのだ。
 もうひとつ。ライカが採用した縦横比は3:2だったが、この比率はどこから来ているのか。それまで使われていた大判のフィルムではなく、ほんらい映画用だった小さな35mmフィルムが市場に受け入れられるためには、引き伸ばし機の普及が必要だった。それまでは、いわゆるベタ焼きと呼ばれる、引き伸ばさないプリントが一般的だった。ほんらいスチルカメラ用ではなく、映写機によって拡大投影されることが前提の小さな35mmフィルムを使うということは、拡大して印画紙に焼く手段とセットでなくてはならない。
 そこでライカはカメラと同時に引き伸ばし機を発売した。このとき、その引き伸ばして焼き付けるサイズを、葉書の縦横比にしたことが3:2の比率を決定したと言われる。
 これはとても示唆的だ。なぜなら葉書は「移動」するメディアだから。誰かから送られてきた写真を小さなスマホで見ることは、絵葉書を見ることと歴史的につながっている。」

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