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デニス・ダンカン『索引 ~の歴史/書物史を変えた大発明』

☆mediopos3297  2023.11.27

「索引」とは
「時間節約を目的として採り入れられた、
どこを探せばよいのかを教えてくれるシステム」である

書物の巻末に付けられていることの多い「索引」だが
その歴史は八百年ほど前の一三世紀パリ
ドミニコ会修道院でのラテン語聖書の用語索引が
はじめて作成されたときに溯る

索引には
上記の「用語索引(コンコーダンス)」と
「主題索引」という二種類がある

用語索引とは
インターネット検索ビューにも通ずるもので
「本にある単語を見出し語にして、
それが出現する箇所と、場合によっては用例を列挙したもの」

主題索引とは
書物の巻末に付されているような
「作品中の主題(人名、地名などの固有名詞や概念など)を
見出し語として抽出したもの

最古の主題索引は同じく一三世紀
イギリス人神学者グロテストが破した書物に
トピックと参照先を列挙した『目録』である

私たちはグーグルなどをつかって
「検索」を日常的に行うようになっているが
その際にはウェブを検索しているのではななく
ウェブの索引(インデックス)を検索している
さらにいえばX(旧ツイッター)で
ハッシュタグをつけてつぶやくとき
瞬時に索引項目が創出されてもいるのだという

さて当初作られた索引は
写本が行われる際に紙の大きさが違ったりすることで
本によって記載されているページが変わり
うまくいかなかったこともあるようだが
活版印刷の技術により本の判型が揃うことで
情報へのアクセスが効率的になされるようになる

しかし現在「検索エンジン」を使った「抽出読み」により
「わたしたちの脳が変化し、集中力の持続時間が短くなり、
記憶力が減退している」と懸念されてもいるように
かつての時代もそうした懸念はつきまとっていたという
要するに「索引バカ」「検索バカ」になるということだ

しかし読書の仕方は時代の変化にともなって
変化せざるをえないことも確かであり
さまざまな読書の仕方は
それなりの仕方で変化・共存していくのだろう

「索引」以前に本という形態も
それ以前の形態から変化して生まれ
さらにいえば文字そのものも文字のない状態から生まれ
文字によってスポイルされたものも多分にある

しかしロバート・コリソンが二〇世紀半ばに
「どこを探せば必要な物が見つかるかがわかるように
身のまわりの空間を整えるとき、じつは索引を作成している」
と示唆しているように
その働きのもととなっているのは
私たちがほんらいもっている心的能力のひとつであり
重要なのはその能力をいかに活用するか
という視点でとらえていく必要があるのだと思われる

さて本書は「索引」の歴史を扱っているだけあって
巻末には
コンピュータで作成した索引(の一部)
プロの索引家による主題索引
そして日本版索引の3種の索引が収録されている
実際に見なければイメージできないが参考までに

■デニス・ダンカン(小野木明恵訳)
 『索引 ~の歴史 書物史を変えた大発明』
 (光文社 2023/8)

(「序文」より)

「さまざまな技術と同様に、索引にも歴史がある。その歴史は八〇〇年近くにわたり、特定な形態の本、つまりはコーデックス、すなわちページの束を折り背をつけて閉じた冊子本と密接に結びついてきた。しかし現在では、索引もデジタル時代に突入し、オンラインでの読書を支えるうえで欠かせない技術となっている。なにしろ、初めて誕生したウェブページはまさしく主題索引だったくらいだ。インターネットという大海に乗り出すにあたりたいていの人が利用する検索エンジンについて、グーグル社のエンジニア、マット・カッツが次のように説明している。「最初に理解すべきは、グーグルで検索をするとき、実際にはウェブを検索しているのではないということです。グーグルが作成したウェブの索引(インデックス)を検索しているのです」。今日、わたしたちの生活は索引によって調えられている。本書では、一三世紀ヨーロッパの修道院や大学から、二一世紀のシリコンヴァレーにある現代的な社屋をもつ企業にいたるまで、索引がたどってきた興味をそそる行路を紹介していきたい。」

「索引の歴史は、じつは時間と知識についての物語であり、この両者の関係を語るものでもある。情報にすばやくアクセスする必要性が高まるにつれ、本の内容が分割可能で非連続、抽出可能な知識の単位で構成されることが望まれるようになってきた。これは情報科学という分野の問題であり、索引は、この分野の基礎をなす構成要素なのだ。しかし、索引の発展を追っていけば、読書という分野の歴史も見えてくる。作品の発展は、大学の誕生、印刷技術の登場、啓蒙主義的言語学、パンチカードを使った情報処理、ページ番号やハッシュタグの出現と密接に結びついている。つまり、これは単なるデータ構造にはとどまらない話なのだ。人工知能が侵入してくる今日でも、本の索引の作成はいまだに主として生身の人間である索引家(インデクサー)の手で行われている。索引家は、著者と読者を仲介する専門家なのだ。」

「索引とはどういうものなのか。ごく一般的な意味では、時間節約を目的として採り入れられた、どこを探せばよいのかを教えてくれるシステムである。索引[index、「指し示すもの」の意]という名称からも、空間的な関係を示すもの、すなわちある種の地図であるとわかる。こちらにある何かから、あちらにある何かへと注意を向けさせる————すなわち指し示す[indicate、語源はindexと同じ]ものなのだ。その地図は現実の世界に存在する必要はなく、わたしたちの頭のなかにあるだけでよい。二〇世紀半ばにロバート・コリソンが次のような見解を記している。どこを探せば必要な物が見つかるかがわかるように身のまわりの空間を整えるとき、じつは索引を作成しているというのだ。」

「サミュエル・ジョンソンが著した『英語辞典』では、索引(index)につて、「本の目次」というあまり有用ではない定義が示されている。索引と目次には一見すると共通点がたくさんある。両者ともに所在(ロケーター)、すなわちページ番号を伴う標識を列挙したものである。
(・・・)
 たとえロケーターがなくとも、目次を見れば作品構造の概要がわかる。目次は、本文の順序をたどり、その構成を明らかにしているからだ。目次をざっと見れば、全体としてどのような議論がなされているかを、かなりの程度まで推測することができる。(・・・)目次の歴史は、冊子本(コーデックス)登場以前の古代にまでさかのぼる。少なくとも、古代ローマの作家四人と、古代ギリシアの作家ひとりが、作品に目次を付していることが知られている。」

「目次とはちがい、ロケーターのない索引は車輪のない自転車ぐらい役に立たない。そんな索引では、だいたいどのあたりを開けばよいかの判断がつかず、おおまかな議論の内容もわからない。」

「ときおり目次が思いがけなく話に入り込んできたりもするが、本書は索引について、つまりは一冊の本を構成要素、登場人物、主題、さらには個々の単語へと細分化したものをアルファベット順に並べた一覧表についての本である。その索引とは、(・・・)時間がなくれ最初から順を追って読む余裕がない人たちを対象に、ある特定の読書形態————学者からは「抽出読み」と称されるようになっている————をスピードアップさせるために作られたテクノロジー、つまりは拡張機能なのだ。」

「デジタル化によって、特定の語句の検索能力は、もはや個々人の努力とは関係がなくなった(・・・)。検索機能はすでに、電子書籍リーダーに内蔵されたソフトウェアプラットフォームに組み込まれるようになっていた。(・・・)
 それと同時に、検索エンジンがいつでもどこでも使えるために、ひとつの懸念が生まれつつある。検索することが、ひとつの心的状態となっているのではないか。以前の読書形態や学習形態に取って代わり、じつに恐ろしい数多くの害をもたらしているのではないかという懸念である。検索エンジンによって、わたしたちの脳が変化し、集中力の持続時間が短くなり、記憶力が減退していると言われている。
(・・・)
 しかし、長い目で見れば、昔からあった問題が最近になって再燃しただけにすぎない。索引の歴史には、こうした懸念がつねにつきまとっている。もはやだれもきちんと本を読まなくなるのではないか。抽出読みが、長時間をかけて本と向き合う姿勢に取って代わるのではないか。新しい問いを立て、新しい種類の学問をして、昔ながらの精読のしかたを忘れ、嘆かわしく救いがたい注意散漫な状態に陥ってしまうのではないか。これらすべての原因は、あのいまいましい道具、すなわち本の索引である。王政復古時代、不要な引用を挿入して作品を無駄に引き伸ばす作家を揶揄する索引蒐集家という蔑称が生まれた。
(・・・)
 それでいて四世紀が過ぎた今でも(・・・)索引は、いまだ生きながらえている。それとともに読者や学者、発明家も同じく生きながらえている。わたしたちの読みかたは、二〇年前とはちがうかもしれない。(・・・)だが、二〇年前の読みかたも、たとえばヴァージニア・ウルフの世代や、一八世紀の家庭や、印刷機が初めて登場した時代の読み方とはちがっていた。(・・・)ふつうとされてきた読書のしかたはどれも、歴史上のさまざまな状況に対応したものだった。社会環境や技術環境に変化が生じるたびに、「読書」の意味するところも進化していく。読者のほうも進化しないのは不合理だ。」

(「訳者あとがき」より)

「索引とは、一冊の本を構成要素、登場人物、主題、さらには個々の単語へと細分化したものをアルファベット順に並べた一覧表であると序文にある(日本語の本なら五十音順となる)。」

「第1章では。そもそもアルファベットの配列がどのように考案され、定着していったのかを振り返る。ウガリト文字がアルファベット順に記された粘土板(紀元前二〇〇〇年紀中葉)が発見されているが、この配列が、ヘブライ語、ギリシア語、ラテン語のアルファベットに継承されていったという。また、古代ギリシアの詩人カリマコスがアレクサンドリア図書館で作成した長大な図書目録では、著者名がアルファベット順に並んでいる。」

「第2章では、いよいよ作品が誕生する。索引には、用語索引(コンコーダンスとも呼ばれる)と主題索引という二種類があり、この二つが中世の同時期に生まれた。一三世紀、パリのドミニコ会修道院で、ラテン語聖書の用語索引が史上初めて作成された、用語索引とは、本にある単語を見出し語にして、それが出現する箇所と、場合によっては用例を列挙したものである。こちらの索引は、現代のインターネットの検索ビューにも通ずるものだ。たいして主題索引とは、作品中の主題(人名、地名などの固有名詞や概念など)を見出し語として抽出する。こちらは今もなお、一般的な図書の巻末に付されている。最古の主題索引は、同じく一三世紀、イギリス人神学者グロテストが、みずからが読破した書物を対象として、四四〇個のトピックと、その参照先を列挙した『目録』である。」

「第3章では、本の索引が機能するために欠かせないページ番号について語られる。印刷されたページ番号は、一五世紀に出版された説教集の余白に初めて登場した。」

「第4章では。一五世紀グーテンベルクの印刷術発明以降、印刷本が普及して、人々が索引に頼るようになっていったことへの懸念にふれられている。こうした索引への過度な依存は後年、「索引学」と揶揄されるようになる。」

「第8章では紙の本を離れて、コンピュータを使った読書と索引作成に話が転じる。イタリアの小説『冬の夜ひとりの旅人が』(カルヴィーノ著)では、「コンピュータ読書」なるものを研究する女性ロターリアが登場する。小説を装置に読み込ませると、テキストに出現する単語を頻度の高い順に記録した表が出力され、それを見れば、どういった小説であるかが一目瞭然となるというのだ。カルヴィーノのこの作品が発表されたのは一九七九年だが、その二〇年ほど前から文学の領域にコンピュータのテクノロジーが進出していていた。初めてコンピュータを使用して用語索引(ドライデン詩集のコンコーダンス)が作成されたり、家庭用コンピュータで操作できる索引作成アプリが登場したりした。さらに本章では、電子書籍の索引機能や、ハッシュタグの起原についても説明している。それでいて主題索引は今もなお本の巻末に鎮座している。コンピュータの助けを借りて単純作業がスピードアップされることはあっても、優れた索引は、優れた生身の人間にしか作り出せない。」

「結びの章(・・・)。
 終盤までたどりついた読者は、索引に歴史が今日の歴史がインターネットの時代に直結していることにも気づかされる。検索の時代、頭にうかんだ疑問を手早くググる時代では、わたしたちはそうとは意識せずに、グーグルの作成したウェブのインデックスを検索しているのだ。ツイッターでハッシュタグをつけてつぶやくとき、わたしたちは瞬時に索引項目を創出しているのだ。」

◎目次
序文
第1章 順序について/アルファベット順の配列v
第2章 索引の誕生/説教と教育
第3章 もしそれがなければどうなるのだろうか?/ページ番号の奇跡
第4章 地図もしくは領土/試される索引
第5章 いまいましいトーリー党員にわたしの『歴史』の索引を作らせるな!/巻末での小競り合い
第6章 フィクションに索引をつじぇる/ネーミングはいつだって難しかった
第7章 「すべての知識に通ずる鍵」/普遍的な索引
第8章 ルドミッラとロターリア/検索時代における本の索引
結び 読書のアーカイヴ
原注
謝辞
訳者あとがき

巻末より
図版一覧
索引家による索引
コンピュータによる自動聖性索引
日本語版索引

□デニス・ダンカン(Dennis Duncan)
マンチェスター大学で英文学を学ぶ。ロンドン大学バーベック校で博士号を取得。2019年より同校の講師。専門は書物史、翻訳、とくにフランス系のアヴァンギャルド作家の研究。著書に、本文ページとは異なる索引やタイトルページなどのパラテクストを論じたBook Parts (2019, Adam Smythとの共著)、フランスのウリポを扱ったThe Oulipo and Modern Thought(2019)があるほか、フーコー、ボリス・ヴィアン、アルフレッド・ジャリの翻訳もある。『ガーディアン』『タイムズ文芸付録』『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』にもたびたび寄稿している。

□訳者略歴
小野木明恵(おのき あきえ)
大阪外国語大学英語学科卒業。訳書に、ライザ・マンディ『コード・ガールズ』、モフェット『人はなぜ憎しみあうのか』、ギロビッチほか『その部屋のなかで最も賢い人』ほかがある。

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