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「かみかさ」第21話

家に帰った。

「悔しかった。
悔しかった。
髪のせいで。
この髪のせいで。」

自分の部屋の机にブラシと櫛と鏡を用意した。
裁縫箱の中から裁縫ハサミをを用意した。
正座をして
鏡を覗きながら
ブラシで丁寧に髪をといた。
髪を見ていた。
櫛で丁寧に念入りに髪をといた。
髪を見ていた。
左にといていき、左前に持っていき、ヘアゴムで束ねた。
裁縫ハサミを右手に持ち、髪を手前から斜め上にいくように、
ハサミを入れた時、
頭の中に映像が浮かんだ。

男の人に髪を丁寧に撫でられている
小6の私。
エレベーターの中だ。

ショッピングセンターで、上の階のペットショップに一人で行き。1階のスーパーにいるお母さんの元に行くために、一人でエレベーターに乗った。その後に、男の人が一人乗って来て、二人だけになった。
後ろから肩をトントンと叩かれ、振り向くと
丁寧に髪を撫でられた。いのりの目を見て、無言で微笑んでいた。

私は何も感じていなかった。
何も感じていなかった。

母に
「髪、撫でられた」
と言った。



感じない事で
自分を守る事を覚えた
覚えてしまった

大変な時
辛いも苦しいも
感じなくなった

心が涙する事を覚えた
それはコントロールできない
変に歪む心


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雨の日をたのしく

ごめんなさい。詩に夢も憧れもありません。できる事をしよう。書き出すしかない。書き出す努力してる。結構苦しい。でも、一生書き出す覚悟はできた。最期までお付き合いいただけますか?