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BTS "작은 것들을 위한 시 (Boy With Luv)" 愛と「共に」 ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.56

正しい何かを探しあぐねて、
今はもう少しは理解した
僕は束の間のLoveよりも
より強いものが欲しいのだと
僕が Luvと共に生きる姿を
ずっと待ちわびてきたのだと

작은 것들을 위한  (Boy With Luv)


すべてが気になるよ
今日はどんな日? ああ 教えて
何が君を幸せにするのか
メッセージで送ってよ
君のあらゆる写真を
僕の枕元に置きたいな
愛しい人 僕の先生になりに来て
君のすべてを残らず教えてくれよ
一から順に 君のことを

ねえ、聞いて
僕はあの空を高く飛んでいる
(あの時君が僕にくれた翼で)
もうここは高すぎるよ
僕は君の視線に合わせたい
そう 君は僕を
Luvと共に生きる少年にしてくれる

僕は 生涯をかけて
ずっと待ち続けてた
君の全部と共に在りたい
正しい何かを探しあぐねて、
今はもう少しは理解した
僕は束の間のLoveよりも
より強いものが欲しいのだと
僕が Luvと共に生きる姿を
ずっと待ちわびてきたのだと

君を知るようになってから
僕の人生はすっかり君色に
些細なことが些細ではなく
こしらえてしまった君という星
一から十まで
全てのことが特別なんだよ
君の関心事 足取り 話し方と
他愛のない、ささやかな習慣まで

全部話すよ
余りに小さかった僕が
英雄になったのだ、と
僕は言うよ
運命なんかは初めから
僕のものではなかったのだ、と
世界の平和(まさか!)
巨大な秩序(ありえない!)
ただ 君を守るんだ僕は
(少年よ、Luvと共にあれ)

ねえ、聞いて
僕はあの空を高く飛んでいる
(あの時君が僕にくれた翼で)
もうここは高すぎるよ
僕は君の視線に合わせたい
そう 君は僕を
Luvと共に生きる少年にしてくれる

君は僕を瞬く間にハイにさせた
君の全部と 共に在りたい
君は僕を一瞬で飛ばせてくれた
今はもう 少し僕もわかったよ
Luvと共に生きる僕には
敵うLoveなど 無いのだと

ぶっちゃけて言うよ
僕も知らずに力んだりもした
高くなってしまった空
大きくなってしまった会場ホール
時には逃亡させてくれと言い、
祈ったよ でも
君の傷は僕の傷だと悟った時
僕は 誓ったんだ
君がくれた イカロスの翼で
太陽ではなく 君のところへ
羽ばたかせて

僕は 生涯をかけて
ずっと待ち続けてた
君の全部と共に在りたい
正しい何かを探し倦ねて、
今はもう少しは理解した
僕は束の間のLoveよりも
より強いものが欲しいのだと
Luvと共に生きる僕には
敵うLoveなど ないのだと


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/31548668

『작은 것들을 위한 시 (Boy With Luv)』
作曲・作詞: Pdogg , RM , Melanie Joy Fontana , Michel Lindgren Schulz , "Hitman" Bang , SUGA , Emily Weisband , j-hope , Halsey


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今回は2019年4月にリリースされたミニ・アルバム第6集「MAP OF THE SOUL : PERSONA」のタイトル曲 "작은 것들을 위한 시 (Boy With Luv)(Feat. Halsey)" を意訳・考察していきます。

この楽曲は、公式アンケートに答えたのべ約34万9千人のARMYが選んだ「好きな楽曲」として上位に挙げられています(出典)。YouTubeで公開されているMVの再生回数においても自身の楽曲たちが持つ記録をけん引する1曲となっており、数ある持ち歌の中でも群を抜くその人気の高さを物語っています。



1.小さなものたち

楽曲の韓国語タイトル "작은 것들을 위한 시" は直訳すると「小さなもののための詩」となります。非韓国語圏では副題である英語タイトル "Boy With Luv" が先行している上に、ビジュアルのかわいらしさ、ポップソングの王道を行く曲調・ダンスも相まって、ときめきラブソングだと思って聴いている方がもしかしたらいらっしゃるかもしれませんが…本質はちょっと違います。

アルバム発表後にナムさんがV LIVEで語ったビハインドエピソードでは、この韓英二段階タイトルについての言及と、「小さい」というキーワードについても大事なエピソードを話してくれています。


■小さなもの

前述のV LIVEは、冒頭の15分間程を使って、アルバム全体に関するエピソードが明かされています。

一つ前のテーマ「LOVE YOURSELF」が、結果的に自分たちの想定を超えた大きなものになってしまったこと。そしてその次のテーマを選ぶにあたって、正直これ以上大きい話は自分達にはできない、ここで一旦自分たちの内側の話に立ち返ってみることになったこと。…など、新しい作品を生み出すための取捨選択の経緯が率直に語られています。

楽曲を発表するからには、人々の心を動かすという絶対目標を掲げそこに何かしらのメッセージを込めなければなりません。「LOVE YOURSELF」は世界中の人たちに見落としがちな「自分を愛す」という気付きをもたらした点でその目標を達成し、歌手以外の活動でも彼らが注目されるきっかけにもなりました。

しかし、その「次」の段階となったこのタイミングで、彼らは「僕たちの器はすごく小さい」から「小さなことを話さないといけない」と、内面の小さな世界に目を向けることを選択したのです。

このことを踏まえて私は、楽曲タイトルになった「小さなもの」とは彼ら自身のことではないか。この楽曲は彼らが彼ら自身の為に歌う歌なのではないか。と、そう考えてみることにしました。

■副題の存在

副題である "Boy With Luv" は元々仮題であったと前述のV LIVEでナムさんが明かしています。そして、韓国語のタイトルは彼のたっての希望でつけられたとのこと。というのも、"Boy With Luv" だけでは楽曲の意図を伝えるための説得力が足りないと判断したからだ、とのことでした。

「Boy With Luv(Love)」を直訳すると「愛のある少年」のようになります。これに説得力を持たせるために付けられた「小さなもののための詩」というタイトルの存在を抜きにして、この歌詞を読み込むことは不可能だとも言えるでしょう。

そして更にこの副題を掘り下げていくと、この楽曲が単なるラブソングではないことがはっきりわかってきます。


2.「in」から「with」へ

この"Boy With Luv" という副題は、2014年2月リリースのミニ・アルバム第2集「SKOOL LUV AFFAIR」に収録されている "상남자 (Boy In Luv)" の副題を意識していることが「MAP OF THE SOUL : 7」のビハインドエピソード(01:32:30~)で触れられています。

ここでは、in から with へと変化した Luv との関係性について探ってみます。

■恋に落ちて悩む

"Boy in Luv" の主人公は「君」に対する恋心を全開にしてひたすら「なぜ?」「どうして?」と悩んでいます。大人になりきれていない少年が、自分でもどうすることもできない心の揺らぎを何とかやり込めようと必死にもがく様子は初々しくもあります。

気持ちの流れに注目すると、圧倒的に「俺」→「君」への一方通行であることがわかります。書いてある気持ちは全て自分のものであり、相手の気持ちは問うばかりで真意はわからず、あげく自分自身の行動でさえも「君」の言いなりで良いと言って退けてしまっています。

ここで in が表現しているニュアンスは「恋心の真っただ中にすっかり飲みこまれ、支配されてしまっている状態」であると言えるかと思います。

■愛と共に生きる

一方 "Boy with Luv" では「(君の)全てが気になる」とやはり「君」に対する執着は存在しているものの、"Boy in Luv" で見受けられた「君」の行動に対するいら立ちのような気持ちは一切感じられません。

代わりに「僕の先生になりに来て」「君の全てを順番に教えて」と、自分が知らない「君」について「君」自らが話をし始められるような関係を作り出そうとしています。
この部分は「それぞれの物語を聞かせて」とARMYに語りかける "We Are Bulletproof : the Eternal" の歌詞にも共通意識を見出すことができます。

そう、この "Boy with Luv" の「君」は、まさしくARMYのことだと言えるのです。このことは、カムバックに向けて企画された音楽番組のSNSイベントによっても裏付けされています。

"Boy with Luv" でのカムバックに合わせて歌詞を引用したハッシュタグ
#아미의모든게궁금해(ARMYの全てのことが気になる)
#curiousaboutARMY(ARMYについて興味がある)
を用いて行われたこの企画は、ARMYひとりひとりが自身のバンタンとの関わり方を振り返り、それぞれのストーリーを送り届ける、というもの。
(カムバックステージの公式動画ではこの企画で作成されたVCRはカットされていますが、検索するといくつかヒットします)

これらのハッシュタグは公式アカウント@bts_twtでも使用され、メンバーからARMYへの質問が直接投げかけられました。

2017年にビルボード・ミュージック・アワードでトップ・ソーシャル・アーティスト賞を獲得した辺りから本格的に地球規模での活動が活発になっていった彼らは、その持ち前のポテンシャルで瞬く間に頂上へと続く階段を駆け上がっていったわけですが、その反面、自分たちに本当にその大きな賞賛を得る価値があるのかと思い詰めた場面もありました。

周囲の期待と自己評価とのギャップに疲弊しながらも何とか足を止めずに走り続けてきた彼らが、「自分たちの器はすごく小さい」と正直に口にし、それを公に主張することができるようになるまでの過程は非常に複雑であったのではないかと思います。一歩間違えれば、期待し、応援してくれているARMYを裏切ることになってしまうからです。

そこで彼らが選択したのは、一方的に良いものを提供しようと気張るのではなく、愛してくれる人たちと「共に」良い方向へと進んでいこうとする姿勢を見せることでした。

「니가 내게 줬던 두 날개로(君(ARMY)が僕にくれた翼で)」正直「너무 높아(高すぎる)」ところまで飛んできてしまったけれど、「난 내 눈에 널 맞추고 싶어(僕は君と目を合わせたい)」「네 전부를 함께하고 싶어(君の全部と共に在りたい)」のだ、と。

そのために、ARMYに「네 모든 걸 다 가르쳐줘(君の全てを残らず教えて欲しい)」と語りかけているのです。

そしてその関係を相互に保つために、彼らは自分たちのことについても全てを正直に話し始めます。

다 말하지(全部話すよ)
너무 작던 내가 영웅이 된 거라고
(小さすぎる僕が英雄になったのだと)
난 말하지(僕は言うよ)
운명 따윈 처음부터 내 게 아니었다고
(運命なんて始めから僕のものではなかったのだと)
세계의 평화 (No way) 거대한 질서 (No way)
(世界の平和(まさか) 巨大な秩序(ありえない))
그저 널 지킬 거야 난 
(ただ君を守るんだ 僕は)

※引用文に付けた和訳は直訳 https://music.bugs.co.kr/track/31548668

―――自分たちは英雄という器ではない。今ある結果は運命なんて大それたものではない。
自分たちが世界を平和にするなんて思えないし、巨大なファンダムを「動かしている」とは思えない。
ただ、自分たちの音楽でARMYの心を守りたいことだけは確かなんだ。―――

ARMYと共に進んでいくために、自分のことを誤解なくわかってもらうために、一方的な主張でも懇願でもなく、あるいは虚勢を張る事でもなく、ただ静かにありのままを告白する。

これが "Boy with Luv" という副題が担っている意図であり、「小さなものたちのための詩」は「彼ら自身が自分たちの心を守るために選んだ言葉たち」なのだと、私が感じた理由でもあるのでした。


3."Luvアイ"に敵う"Love"は無し

前述のV LIVEの終盤(01:06:30あたり)でナムさんは、ARMYからの質問に答える形で以下の部分についての解説をしてくれています。

Love is nothing stronger Than a boy with luv

https://music.bugs.co.kr/track/31548668

本人曰く「"Boy with Luv" より強いものはこの世界にない」という意図であるとのこと。ガイドの時点ですでにあったというこの少々複雑なつくりの歌詞を彼は「言葉遊び」だとしています。

「Luv」は「Love」のネットスラングですが、この二つを歌詞の中で使い分けている点にARMYとの「関係」に対する彼の想いを感じます。

その「関係」とは、前述のV LIVEでも言っていたARMYはバンタンであり、バンタンはARMYであるという「相互関係」のことです。この関係性は "Boy with Luv" の歌詞にも反映されています。

너의 상처는 나의 상처 깨달았을 때 나 다짐했던 걸
(君の傷は僕の傷だと悟った時 僕は誓ったんだ)
니가 준 이카루스의 날개로 태양이 아닌 너에게로
(君がくれたイカロスの翼で 太陽ではなく君へ)

※引用文に付けた和訳は直訳 https://music.bugs.co.kr/track/31548668

ARMYというそれこそ「巨大な」ファンダムに対して、彼らが何故そのひとりひとりのエピソードに目を向け耳を傾けようとしたのか。それは自分たちの本音を聞いてもらうためなのではないか、と、一つ前の見出しで書きましたが、つまりは、痛み・弱みを共有し合い、お互いを思いやる関係を築くためであるということではないかと思います。

されて嫌なことは人にしない。してもらって嬉しいことをしてあげる。
単純だけど、目一杯想像力を働かせないと叶わないこの関係を、彼らは「Luv」という特別な形の「Love」で表しているのではないでしょうか。

他のどんなLoveだろうとARMYとのLuvには敵わない。
そんな風に思ってくれている彼らの気持ちに、ちゃんと正面から応えられる小さな存在のひとつでありたい。そう思います。


最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。

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