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BTS "DNA" 出会えたことに自信を持って 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.070

心配しないで
これは全て偶然じゃないからね
僕らは完全に違う
運命を探し当てたふたりだから

DNA


一目で君だとわかったよ
お互いに惹かれ合ったみたい
血と共に巡るDNAが教えてくれる
僕が探しあぐねいていたのは
君なのだという事を

僕らの出会いは数学の公式
宗教の律法 宇宙の摂理
僕に与えられた運命の証拠
君は僕の夢の源
僕の手を取って
君に差し出すこの手は
定められた宿命

心配しないで
これは全て偶然じゃないからね
僕らは完全に違う
運命を探し当てたふたりだから

宇宙が生じたその日から続く
無限の世紀を越えて続く
僕らは前世でも
たぶん来世でも
永遠に一緒だからね
これは全て偶然じゃないからね
運命を探し当てたふたりだから
DNA

僕はこの愛が欲しい 本当の愛が
僕は君だけに集中してる
より一層強く僕を導くよ
始まりのDNAが君を望んでいるんだ
これは必然なんだよ
僕らだけが真の恋人
彼女を見る度震え上がる
不思議としきりに息が切れて本当に変だ
まさか
こんなのが噂に聞いていた
愛という感情なのか?
最初から僕の心臓は
君に向かってときめいているから

心配しないで
これは全て偶然じゃないからね
僕らは完全に違う
運命を探し当てたふたりだから

宇宙が生じたその日から続く
無限の世紀を越えて続く
僕らは前世でも
たぶん来世でも
永遠に一緒だからね
これは全て偶然じゃないからね
運命を探し当てたふたりだから
DNA

振り向かないで
運命を探し当てたふたりだから
後悔しないで
永遠に 永遠に 永遠に 永遠に
一緒だからね

心配しないで
これは全て偶然じゃないからね
僕らは完全に違う
運命を探し当てたふたりだから
DNA

偶然じゃないからね
偶然じゃないからね



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/30785785

『DNA』
作曲・作詞: "Hitman" Bang , Pdogg , RM , SUGA , Supreme Boi , KASS


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今回は2017年9月に発表されたBTSの5枚目のミニアルバム「LOVE YOURSELF 承 'Her'」 に収録されているアルバムタイトル曲 "DNA" を意訳・考察してみます。
楽曲はその後2018年8月にリリースされたリパッケージアルバム「LOVE YOURSELF結 'Answer'」にも収められており、その際には "DNA(Pedal 2 LA Mix)" としてギターロック色の強い別バージョンも同時収録されています。


1.防弾少年団からBTSへ

■American Music Awards(AMAs) 2017出演

2017年11月19日。彼らはアメリカン・ミュージック・アワードの舞台に立ちました。その年の5月にビルボード・ミュージック・アワードで「トップ・ソーシャル・アーティスト賞」を、不動のチャンピオンであったジャスティン・ビーバーを抑えて受賞しており、海外での知名度が飛躍的に伸びた時期でもあります。

AMAs公式Twitterより、ステージリハーサルの様子↓

レカペインタビューなど、授賞式当日のまとめ記事↓

AMAsを放送している現地放送局ABCの報道番組「Good Morning America」公式Twitterより、本番の様子↓

この日の「今日のバンタン」↓

この "DNA" パフォーマンスは各方面で高い評価を得て、各紙がこぞって彼らのステージが2017年AMAsの「最高の瞬間」のひとつであったと讃える記事を残しています。


■海外進出を見据えた大規模リブランディング

そのAMAsのステージから遡ること約4か月。2017年7月5日に、防弾少年団はブランドロゴのリニューアルを発表しています。

これについて、リブランディングに携わった制作会社がプロジェクトコンセプトの詳細を公式サイトに掲載しています。↓

コンセプト概要文で「国内だけでなく国外でも活動する」と彼らを紹介しているため、この刷新が海外での本格的な活動を視野に入れたものであることがわかります。

防弾少年団の英語表記(BanTang Sonyeondan)の頭文字である「BTS」は、デビュー当初から各媒体で展開されていましたが、この大掛かりなリブランディングによってその意味付けにも変化がもたらされました。

BTS=「Beyond The Scene」の略

これについて前述のコンセプトシートにはこう綴られています。

(Beyond The Sceneとは)直面している現実を乗り越え、夢に向かって絶え間なく進み、成長する青春の防弾少年団を指しています。
――Plus X 公式サイト
BTS ブランドデザインリニューアル コンセプトシート 抜粋して和訳

原文:https://www.plus-ex.com/experience#bts

直訳すると「場面を超えて」となるこの「Beyond The Scene」には、後に "달려라 방탄(Run BTS)" へと結実する「走り続ける」ことへのこだわりが息づいているのではないでしょうか。

こうして振り返ってみると、「防弾少年団」が海外の人々に向けて「BTS」としての一面を一層強く打ち出し始めた時期に、名刺代わりとして満を持して差し出した楽曲がこの "DNA" であった、ということになるのではないかと思います。

実際に「承 'Her'」は2017年10月7日付のBillboard 200において当時の自己最高記録7位でチャート入りを果たし、同時に "DNA" 単独でもTOP100で67位に入るなど、海外でのその存在感が強くなりつつあった頃でした。
後に "Dynamite" で前代未聞の記録を打ち立てることになる彼らにとって、"DNA" が重要なターニングポイントであったことがうかがわれます。


2.「DNA」を形成しているもの

V LIVE(現Weverse Live)に残るナムさんのアルバム「承」レビュー動画には、"봄날(Spring Day)" を書いた後、その勢いでアルバムタイトル曲でも作業することになったが難産となり、パンPDとSupureme Boi氏が大きく関わることとなったと、苦労を語る姿が収められています。↓

※9:23からが "DNA" の話題(途中ジミンちゃんの登場あり)

2022年6月発表のアンソロジー・アルバム「Proof」のDisc3には、当時ホビが作った "DNA" デモバージョンが収められました。完成形に近いトラックに全く異なるメロディが乗っており、一聴に値する貴重な音源となっています。

また、実際に楽曲に組み込まれることとなった要素のうち、ナムさんのパート(「I want it this love…」の部分)はユンギ作のものがベースであったことが上記動画内で明かされているなど、世界に打って出るアルバムのタイトル曲をより良いものにするために多くの人々が試行錯誤した渾身の作品であった事がうかがえます。

そして楽曲 "DNA" と言えばあの、七人が複雑に連なる特徴的なダンスを思い浮かべる方が多いかと思います。公式MVの概要欄には、「Choreography by: ​Christopher Martin, Keone & Mari」と紹介されています。

Keone & Mari夫妻は "쩔어(DOPE)" の記事でも紹介させていただきましたが、これまでに何度もバンタンの楽曲で魅力的な振り付けを担当されています


3.心配しなくていいよ

"DNA" の歌詞世界を紐解くにあたっては、アルバム「承 'Her'」「結 'Answer'」共にそのひとつ前に収録されているJiminのソロ曲 "Serendipity" の歌詞をぜひ合わせて読んでいただきたいと思います。「偶然」「運命」「宇宙の摂理」「宇宙が生まれた時」などといった二曲に共通するキーワードが散りばめられているからです。

リパッケージ後もこの二曲の曲順が変わっていないことを鑑みると、"Serendipity" → "DNA" の順で聴くことを意図的に前提としているかのように思えます。
歌詞を考慮せずに続けて流しても計算された緩急がとても心地よい二曲なのですが、歌詞を読んでからだとその関係性にもまた新しい魅力を感じることができます。

ちなみに「承 'Her'」において "DNA" の次の曲は "Best Of Me" であり、運命の人に出会った主人公がその喜びを爆発させて「僕には君しかいない」「君が世界の全て」と、どストレートに愛を伝えるものになっています。

ここで「DNA」ってそもそも何なの?なぜ「DNA」なの?という疑問を敢えて持ってみました。

DNADeoxyriboNucleic Acid(デオキシリボ核酸)のこと。
遺伝子の実体・本体である「物質」。(→参考
DNAに記載されている「情報」が遺伝子。(→参考

親から情報(遺伝子)を受け継ぐための物質がDNAということで、あらゆる生物の個々の性質を左右するものであり、DNAを説明するにあたっては「生まれた時から決まっている」ものである、ということが重要な要素だと言えるでしょう。

人が社会にあって生きて行く上で繰り返されるのは「出会い」です。その機会を自分の都合で自在に操ることはできません。
なのである意味、全ては偶然の産物セレンディピティであり、それがどんなに素晴らしい出会いであっても、自分だけに用意された特別なものであるとは限りません。

それでも、これぞ自分だけのために書かれた物語だと錯覚を起こしてしまうくらいの衝撃的な出会いをすることが、本当に、本当に不思議なことに生きていれば誰にでも起こります。

例えそうだとしても、余りにも現実味がない出会いだからといって「夢で終わってしまうかもしれない」と不安になったり「騙されているかもしれない」と心配する必要はないよ、と、"DNA" の歌詞は言っているのではないかと思います。

全ては始めから決まっていたことで、出会うことができたという事実に、出会うことができた自分に、自信をもって前に進んでみればいいんだよ、と。

恋愛を謳う楽曲として聴いても十分にロマンチックな歌詞なのですが、あらゆる「偶然の出会い」に対して素直に前向きに強くなれる作品でもあるのではないかと思いました。



最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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