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BTS "Ma City" 俺の街においで ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.067

俺の街においで よく見て欲しい
勝手知ったる 俺を育ててくれた街
そう ここが俺の街
ようこそ 我が街へ

Ma City


お前が何処で生きようと
俺が 何処で生きようと

ひとしきり走ったね
俺は更にまた随分走ったね
俺は生きて、死ぬのだろう
俺の街で


何て言えばいいんだ?
死んでも言えない
億万の金を払って
他所よそに住めと俺に言うのか?
御免だね
一山イルサン
俺が死んだら骨をうずめたい場所
花の都、俺の街
家同然だった La Festa
それと Western Dome
幼少時代 俺を育て上げた
フゴク学院村
世界で最も調和の取れた場所
自然と都市、ビルと花
俺は漢江ハンガンよりも湖水公園が好きだ
小さくても 存分に懐深く
受け入れてあげると言う'君'の事を
俺が俺を見失うような時は
そこで星あかりに願って
あの日の記憶を探すね

忘れないよ
'君'の匂い 更に全てを
'君'は俺の
夏であり 秋であり
冬であり また
全ての春である


あの釜山の海よ
Say la la la la la
青い空の下 この水平線
Say la la la la la
おじさん達は手を挙げ
おばさんも手を振るよ
俺の街に来いよ

俺の街においで
よく見て欲しい
勝手知ったる
俺を育ててくれた街

そう ここが俺の街
ようこそ 我が街へ

ひとしきり走ったね
俺は更にまた随分走ったね
俺は生きて、死ぬのだろう
俺の街で
俺の街、俺の街で yeah


俺は全羅南道チョルラナムド 光州クァンジュの子
俺の歩みは山に向けども
無等山ムドゥンサンの頂上に 毎日 毎日
俺の人生は熱いよ
南方の熱気
熱をって熱を治める
諦めないよ
ギアを入れてエンジン始動
狂ったように 飛び跳ねる
ひたすらにダンスひとつで
歌手という大きな夢を育て
今では現実に
音楽と共に舞台の上で跳ぶ
全部見たでしょ?
熱情を込めたよ
俺は光州のホシギだ
全国八道は平伏ひれふすよ
俺を観ようとするならば
時間は七時に集合
全員残らず押せ 062-518


あの釜山の海よ
Say la la la la la
青い空の下 この水平線
Say la la la la la
おじさん達は手を挙げ
おばさんも手を振るよ
俺の街に来いよ

俺の街においで
よく見て欲しい
勝手知ったる
俺を育ててくれた街

そう ここが俺の街
ようこそ 我が街へ


大邱テグで生まれ 大邱で育ったよ
輸血を受けるにはちょっと難儀だ
身体の中には青い血
コイツ毎度アルバム出す度に
大邱の話をしても飽きないんだな、と
思いもするかもしれないが
俺は'd boy' そうさ 俺は'd boy'
率直に言って
大邱は誇れるものが大してないのさ
俺が生まれたこと自体が大邱の誇り
そう ああ そうか
自慢できることがないから
誇らしく思うしかないんじゃない?
「大邱出身の最も成功した奴だって」
こんな声を聞くよ
良く見ろ 今では
俺が大邱の誇り 新時代 新しい風
大邱の過去であり 現在
そして 未来


俺の街においで
よく見て欲しい
勝手知ったる
俺を育ててくれた街

そう ここが俺の街
ようこそ 我が街へ

ひとしきり走ったね
俺は更にまた随分走ったね
俺は生きて、死ぬのだろう
俺の街で
俺の街、俺の街で

La la la la la
何処で生きようが
何処に居ようが
俺の街
俺の街、俺の街さ yeah yeah



韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/4714589

『Ma City』
作曲・作詞:j-hope, SUGA, RM, “hitman” Bang, Pdogg


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今回は2015年11月にリリースされた「화양연화(花様年華) pt.2」に収録されている "Ma City" を意訳・考察していきます。
楽曲はその後2016年5月発表のリパッケージアルバム「화양연화 Young Forever」にも収録されています。



1.Ride and Die

バンタン楽曲の中には他にもご当地色が強い個性的な楽曲("八道江山"、"어디에서 왔는지")がありますが、それらが方言を前面に押し出した愛嬌のある楽曲であるのに対し、この "Ma City" はレトロなロードムービーを彷彿させる疾走感と心地よい気怠さで、よりシャープで硬派な印象です。

楽曲はリリース前の段階で既に2015年10月公開の動画〈花様年華 on stage : prologue〉の中盤、七人がFord F-150に乗ってガソリンスタンドに立ち寄る場面で流れており、ロードムービー的な側面も持つこの動画の雰囲気にぴったりでした。

"Ma City" は数あるバンタン楽曲の中でも類を見ないエッジの効いた埃っぽいカッコ良さが光る名曲だと私は思っているのですが、"Ma City" の音楽性が好き!という方にきっと刺さる(かもしれない)プレイリストを組んでみました。窓を全開にしてドライブしたくなる感じがお分かりいただけたら嬉しいです^^↓

♪ Steppenwolf "Born To Be Wild"
♪ Curtis Mayfield "Move on Up" 
♪ Doobie Brothers "Long Train Runnin'"
♪ Bon Jovi "Keep The Faith"

楽曲リリース当時の記事では、ファンク色が加味された「オルタナティブ・ヒップホップ」であると紹介されています。↓

私が "Ma City" をロードムービーとリンクさせたくなる理由は、歌詞の中にもありました。

曲の冒頭、英語詞の部分にいきなり「走る」「乗る」という表現が登場します。

나 다시 또 한참을 달렸네
(俺はまた更に随分走ったね)
Yeah i'll be ridin and i'll be dyin'
(俺は乗って、そして死ぬだろう)
In ma city
(俺の街で)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/4714589

「Ride」は自転車やバイク、そして馬など車体の中に乗り込まない乗り物に乗る時に使われる動詞です。(参考
また「すでに乗っている時の状態」を表す語でもあるとのこと。(参考
これを未来の状態を推測する表現「will be ~ing=~している予定、~しているだろう」と併せて直訳すると、「私は乗っているだろう」となります。

何のこと?となりますが、ここですぐ後に続く「Die(死ぬ)」の扱いと「乗っている状態」を表していることを考慮すると、
「Ride=生きている」
ことを表しているのではないか、と、私は思い至りました。

――今はずっと遠くまで随分と走ってきてしまったけれど、きっと未来の自分は故郷の地に戻り、生活をして、そして最期を迎えるのだろう――

「走る」「乗る」という行為を人生に置き換えたこれらの表現は、正にロードムービーそのものと言っても良いのではないでしょうか。


2.花の都 一山イルサン

旅はまず、ソウル中心部からバスで北西に約40分程の所にある京畿道キョンギド高陽コヤン市の一山イルサン、RMの故郷から始まります。

ベッドタウン高陽市の中心部である一山は、大型ショッピングモールもあれば、自然あふれる国内最大級の広さを誇る公園も整備されていて、ナムさんの言う通り調和の取れたとても住みやすそうな郊外の街、といった印象です。歌詞の中には実在するショッピングモールの名前(La FestaWestern Dome)が挙げられています。

ナムジュン少年の明晰な頭脳を創り上げた「후곡フゴク学院村」は、立ち並ぶ雑居ビルにたくさんの学習塾が入居している大通りです。ストリートビューで眺めてみると1階には飲食店や衣料品店、薬局などが出店していますが、ビルの上階を見ると「○○학원学院」という看板がやたらと多いことに気付きます。↓

そのフゴク学院村から南へ下ると、人気のフラワーフェスティバル(高陽国際花博覧会)が開かれる湖水公園があります。
ナムさんはこの湖水公園を「漢江よりも好きだ」として、親しみを込めて「너」や「You」といった二人称で表現しています。

한강보다 호수공원이 더 좋아 난
(漢江より湖水公園が更に好きだ 俺は)
작아도 훨씬 포근히 안아준다고 널 ※1
(小さくてもはるかに温かく抱いてくれると言う を)

中略

Remember 너의 냄새 또 everything
(覚えている の匂い また 全て)
You're my summer autumn winter
(は俺の夏、秋、冬)
and every spring
(そして全ての春)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/4714589

※1 -ㄴ다고(~だと言う)…伝聞

漢江よりも規模こそ小さい湖水公園ですが、故郷の馴染みある景色は彼にとってずっと掛け替えのない存在であり、春夏秋冬いつ訪れても懐深く受け入れてくれる「君」に対するありったけの感謝と愛がこの歌詞には込められています。

そしてこの故郷での記憶には、2018年9月の国連総会で行われたスピーチでも触れられています。

I would look up at the night sky in wonder and dream the dreams of a boy.
(夜空を見上げて空想したり、男の子らしい夢を見たりしたようです。)
―― 国連総会スピーチ 2018.9.24

https://www.unicef.or.jp/news/2018/0160.html

この演説でナムさんは、人が作り上げた型に自分を当てはめた結果、純粋に「キム・ナムジュン」として積み重ねた日々の記憶や行動をいつしか封印してしまい「名前」を失った、というような内容の告白をしています。
そしてそれ●●を取り戻すのに長い時間が必要だったことも。

音楽によって自分を取り戻す術を得た彼は、自分自身を見失い、大切にできていないと感じる時、故郷での幼い記憶を辿るのです。

내가 나를 잃는 것 같을 때
(俺が俺を失うような時)
그 곳에서 빛 바래 오래된 날 찾네
(そこで光に願い 古くなった日を探すね)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/4714589

〈心の拠り所〉とはまさしくこのような場所のことを言うのでしょうね…死んだら骨をうずめたい、そう望む気持ちの強さが痛いほどよくわかります。


3.南方の熱気 光州クァンジュ

続いては、全羅南道チョルラナムドの中程に位置する光州クァンジュ広域市、j-hopeの故郷です。

無等山ムドゥンサン」は光州広域市の東に位置する山で、2012年に国立公園に指定されています。
「BTS j-hopeが毎日足を運ぶと歌った無等山 実際に行ってみた」という記事がありました(笑)↓

また、緯度的には東京と変わらない光州ですが国内では南方の国であること、そして、志を燃やして信念を貫こうとする光州の人々の歴史や記憶に絡めて「熱」というキーワードが歌詞に散りばめられています。

내 삶은 뜨겁지 남쪽의 열기
(俺の人生は熱いよ 南方の熱気)
이열치열 법칙 ※2
(を以てを治める)
포기란 없지
(あきらめないよ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/4714589

※2 이열치열イヨルチヨル(以熱治熱)…熱をって熱を治める(暑い時には熱いものを食べて体調を維持する)

この「熱には熱を以って」という概念をちょうど良く表す日本語の慣用句はないようですが、熱いものに敢えて熱いもので対抗する、という頑ななイメージが伝わってきます。
この頑なさが、過熱した違法な軍の制圧に対する民主化への熱望という形で顕れたのが1980年5月に光州で起こった「光州事件」です。熱を以て熱を治めんとした市井の人々の「あきらめない」行動が歴史を動かした瞬間でした。

歌詞の中には事件を含めた歴史や情勢のことを直接的に描写した部分は見られませんが、いくつかの関連語を確認することができます。


■KIA

固有名詞への意味の含ませ方がいつも巧みなホビの歌詞。今回は、音で聴くと車の「ギア」と理解できる部分が、意図的にハングルの発音を英文字に変換する形で表記されています。

KIA넣고 시동 걸어 미친 듯이 bounce
(俺はギアを入れて始動を掛けて狂ったように飛び跳ねる)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/4714589

この「KIA」には「KIA(起亜)自動車」と「ギア(기어[kiɔ])」のふたつの意味が与えられているのです。

200台のタクシーがデモ行進に参加した(出典)という光州事件。この事実をモチーフにして撮られた映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』は、そのタクシー(運転手)を主役に据えた作品で、私は配信サービスでこの映画を観ることができました。
史実を元にエンターテインメントとして綿密に練られたフィクションでしたが、事件の凄惨さを伝えるために用意されたリアルな要素が作品に説得力を与えています。

そのひとつがレトロなタクシー車両です。映画には、事件当時に街を走っていた車種が続々登場します。その詳しい解説を以下の記事で読む事が出来ます↓

ホビは「ギアを入れて始動」という何の変哲もない行為に、光州事件を想起させる要素として「KIA(自動車)」を掛け合わせたのだと思われます。


■7時

韓国国土を時計盤に見立てた時にその方角に位置していることから、全羅道の隠語として韓国版2ちゃんねるとも言われる匿名掲示板で使用されているという「7時」。

この掲示板では光州事件について否定的な姿勢を示すユーザーが多いとのこと。加えて、全羅道が高麗時代より疎外を受けてきたという背景も根底にはあるようです。(参考

「俺を見るなら〈7時〉に集合」と敢えて指定することで、如何なるヘイトにも屈しない姿勢を顕示しているように思えます。


■062-518

062…光州広域市の市外局番(参考
518…5月18日。10日間続いた光州での抗争の発端となった、軍によるデモ鎮圧が行われた日。1997年に「民主化運動記念日」として国が記念日制定。

ホビが「皆全員押せ」と煽る数字は、このようにいずれも光州に関係のあるものです。
この数列がタイトルの事件を題材とした楽曲がもうひとつ、"Ma City" 発表から遡ること4年半、2010年の独立運動記念日の前日に既に世に出ていました。↓

制作したのは当時ヒップホップクルー「D-TOWN」に所属しGloss名義で活動していたという大邱テグ市在住の高校生ミン・ユンギ、後の防弾少年団・SUGAその人です。
光州で行われた創作歌謡祭にこの楽曲を応募したけれど、1次予選で落選したと記事には綴られています。

"518-062" を「民主化運動が風化しないように」との思いで制作した当時は、程なくして光州出身の同世代とその先の運命を共にすることになるだなんて彼自身きっと予想もしていなかったのではないでしょうか。
この時ユンギが楽曲に込めた意図は「光州の子」チョン・ホソクを介し、 "Ma City" でより大きく確かな声となって世界中の人々に届けられることになったのです。


4.大邱テグの新しい風

そして舞台はSUGA、そしてVの故郷、大邱テグへと移ります。

ソウル、釜山に次ぐ第三の拠点と言われる大邱広域市は、国土の南東、慶尚北道キョンサンブクドの南端に位置する内陸都市です。ソウルからは高速鉄道(KTX)で2時間弱の距離とのこと。

"Ma City" でユンギは、大邱には「誇れるものが大してない」なんて表現をしていますが、彼がこれまで書いてきた楽曲歌詞に何度も大邱という名前が出てきていること、そして、ソロ名義「Agust D」に至っては自らにDaegu Townを背負わせていることを考えると、それがただの謙遜であることがわかります。

そして自らが地元愛に溢れていることを表現するために選ばれた言葉が「파란 피(青い血)」です。

「輸血が難しい」程に他と交われない血が流れている。そしてその色は「青」である。
「파란 피」「대구」で調べてみると、すぐにその色の由来がわかりました。

大邱に本拠地を構えるプロ野球チーム「サムスン・ライオンズ」のチームカラーが「青」だったのですね。納得。

(余談ですがこの大邱のサムスン・ライオンズが、あの日本でも活躍したイ・スンヨプ選手の古巣だったことを今回初めてちゃんと知りました。イ選手は同世代で、私のひいきのチームがセ・リーグなので巨人時代にTVで拝見していて良く覚えています。こんなところでもひとつ縁が繋がりました…)

自分の礎を創り上げてくれた街、そして、自分がその名に負って生きる街、また、これから自分が輝くことによってその誇りとなるであろう街。
大邱の過去・現在・未来全てを視野に入れた上で「I' ma d(daegu) boy(俺は大邱の男)」と宣言する彼の大邱に対する気持ちが、たぎる「青」に込められています。


5.釜山プサンの青い空と海

残念ながらJinの故郷・京畿道キョンギド果川クァチョン市固有の歌詞は楽曲に出てきませんが、JiminとJung Kookの出身地・釜山プサンの名前がその土地の景色と共に登場します。

慶尚南道キョンサンナムドの東の端、海に面した港町・釜山広域市はソウルに次ぐ人口を擁し、観光都市としても発展を遂げています。

海。青い空、水平線。
こんな風に文字で並べただけでもそこが景勝地であることがわかりますね…。風を切って車を走らせたくなりますし、手を振って気さくに出迎えてくれる地元の人たちの笑顔までもが目に浮かびます。

2030釜山万博広報大使に任命されている防弾少年団は、誘致活動の一環として「WORLD EXPO 2030 BUSAN KOREA CONCERT BTS <Yet To Come> in BUSAN」と名打たれたコンサートを2022年10月15日に釜山で開催する予定です。この記事を書いている時点であと二週間!

開催施設や開催費用の面でニュースになりがちなのは並走相手が自治体なので致し方ない部分があるのかなと思いますが、久しぶりの七人そろってのパフォーマンスを世界中から見守れるというこの日を、心待ちにせずにはいられません。



ここから少し蛇足な話ですが…
私には「俺の街」と言える街がありません。

転勤族だった親に振り回されたせいで、故郷があって、歓迎してくれる家族と地元の友達がいて、里帰りするとホッとする、というおそらく人類ほとんどの方に備わっている大前提が私の人生には何一つありません。
それぞれ住んだ土地も一瞬ずつしか居られなかったので、常にアウェイ、常によそ者、常に根無し草。

私には死んでも埋めて欲しい土地はないので、どこにでも行けるように海か空にでも撒いてもらうのがいいかも、と今回思ったりもしました。

「俺の街」がある皆さんは、ぜひ彼らのように、地元愛に溢れる豊かな人生をお過ごしくださいね。


最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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