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BTS "Permission to Dance" 僕らはまだ始まったばかり ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.096

心配は要らない なぜなら僕らは
墜落しても着陸の仕方が解るから

Permission to Dance


あなたの心が まるで
為す術なく高鳴っていくドラムのようなら
それこそが青春への想いというもの

全てが間違いのように見える時は
エルトン・ジョンの歌声に合わせ、
その感覚に身を任せてただ歌おう
僕らはまだ始まったばかりなんだ

夜が来る度に ますます冷えこんで
リズムに乗れなくなったら
君自身をまっすぐ見つめるその瞬間を
とにかく 夢に見てみなよ
そこで君は言うんだ
「ダンスがしたい」
音楽は気分を上げてくれる
僕らのやり方を
止められるものは何もない
さあ 僕らの計画を壊そう
そして 何もかもが
うまくいっているみたいに生きて
バカみたいに踊り狂いなだれ込む
心配は要らない なぜなら僕らは
墜落しても着陸の仕方が解るから
会話は要らない
今夜はただ歩こう
だって 僕らが踊るためには
誰の許可も要らないんだから

ゆく手にはいつも
何かが立ちはだかっているね
でもそれに惑わされなければ
突破する正攻法が解るだろう
ただ真っ当で居続けるだけだ
振り返ることは出来ないから
僕らが掌握していないことを
証明する人はひとりもいない

待つのはもう終わりさ
その時が来たのだからしっかりしよう
僕らは進み続けて、
朝陽が昇るのをこの目で見届けるんだ
そして僕らは言うよ
「ダンスがしたい」
音楽は気分を上げてくれる
僕らのやり方を
止められるものは何もない
さあ 僕らの計画を壊そう
そして 何もかもが
うまくいっているみたいに生きて
バカみたいに踊り狂いなだれ込む
心配は要らない なぜなら僕らは
墜落しても着陸の仕方が解るから
会話は要らない
今夜はただ歩こう
だって 僕らが踊るためには
誰の許可も要らないんだから

さて 君に見せてあげよう
僕らがこの火を灯し続けられるのを
まだ 終わりじゃないから
終わるまでもう一度言うよ
「ダンスがしたい」
音楽は気分を上げてくれる
僕らのやり方を
止められるものは何もない
さあ 僕らの計画を壊そう
そして 何もかもが
うまくいっているみたいに生きて
バカみたいに踊り狂いなだれ込む
心配は要らない なぜなら僕らは
墜落しても着陸の仕方が解るから
会話は要らない
今夜はただ歩こう
だって 僕らが踊るためには
誰の許可も要らないんだから


英語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6118632
『Permission to Dance』
作曲・作詞: Ed Sheeran , Jenna Andrews , Steve Mac , Johnny McDaid


*******

今回は、2021年7月9日にフィジカル・リリースされたBTSのシングルCD「Butter」に収録された "Butter" とのダブルタイトル曲 "Permission to Dance" を意訳・考察していきます。


1.沼落ち記念日

楽曲リリース日である7月9日はBTS/防弾少年団の公式ファンダムの名称がファンカフェで発表され、「A.R.M.Y」に決定した日となっています。(参考

名称が決定したことを報告している様子がTwitterに残されています。↓

こんにちはARMYのみなさん‼ SUGAです。ファンクラブ名が決まりましたね‼ (ウンキャキャ)僕たちが1000個以上のファンクラブ名の中、慎重に選んだ名前ですよん(ウンキャキャ) みなさん気に入りましたか?(ヒヒっ)これから楽しく過ごして下さいARMYのみなさん~~~
――Twitter (@BTS_twt) 2013.7.9 SUGAによる投稿より

https://twitter.com/BTS_twt/status/354473230184087552?s=20

そんなARMYの誕生日に合わせてリリースされたこの楽曲は、公式MVと併せオンラインライブというかたちで初めて皆の元に届けられました。

記事冒頭に張り付けた動画がこのオンラインライブの様子なのですが、忘れもしない、これが私の沼落ち現場です。

配信当日、確かまだLINE LIVEのつなぎ方を知らなかった娘の代わりに私のスマホでライブを観始めたところ、結局本編終了後のファンカム(まだチッケムという言葉すら知らない…)まで余すところなく観ていたのは私だけでした。

はっきりと覚えているのはヴァース2のホビとユンギの連携にくぎ付けになった自分の心と、ポムナルのチッケムで光に寄ってくる虫と闘っていたジンくんの姿(笑)

その後すでに娘の為に買い揃えられていたバンタンの音源を自分で片っ端から聴き漁り、歌詞の奥ゆかしさに衝撃を受けてnoteに和訳記事を投稿し始めるに至るまで1か月かかりませんでした。

私事ながら7月9日は私の沼落ち記念日でもあり、2021年のその日は人生のターニングポイントであったに違いありません。数十年かけて経験してきた事の全てがあらためて動き出し、繋がっていくことになるはじまりの日。
彼らと出会わなかった世界を今になって考えてみるとぞっとする程です。


2.「許可」はいらない

そんな "Permission to Dance" の歌詞もリリース当時に当然読んではいたのですが、その頃はコロナ禍も只中で先が見えず、実はマスク姿の人物が映るMVですらどこか切実に観てしまうところがあって、正直楽曲世界を直視できない自分がどこかにいたというのが現状でした。

あれから2年が経ち、彼らの歌詞を100曲に手が届きそうな程読んできた上であらためて "Permission to Dance" を深読みしてみると、リリース当時には気付くことができなかったことが多くありました。


■「あの頃」を思い出せ

まずはグクの歌い出しから。この部分はMVに載っている公式和訳と少し異なる解釈をしました。

It's the thought of being young ※1
(それこそが若さを思うということ)
When your heart's just like a drum ※2
(あなたの心がまるでドラムのようであるならば)
Beating louder with no way to guard it ※3
(抑制する方法も無く更に強く鳴っている)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6118632

※1 thought of~…~についての考え・思い
 thoughtに「the」がつくことで強調(「こそ」)されていると解釈
※2 When…接続詞「~ならば(条件)」を適用。
前の文It's the thought~が成立するための条件がWhen以下となる。
※3 前の文末「drum【名詞】」← 修飾 ←「beat+ing【現在分詞】」=ドンドン鳴っているドラム
・beat…(太鼓が)ドンドン鳴る(参考
・louder…loud「(音などが)大きい」の比較級(参考
・guard…抑制する(参考

公式和訳は元の歌詞と対応するように表示しなければならないルールがあるのか、まず「青春を思うと」という文で始まります。日本語的には「青春を思うと」(条件)→「止められないドラムのように胸が高まる」(結果)という構成になっています。

ですが原文では、「止められないドラムのように胸が高まるならば」(条件)、それこそが「青春に想いを馳せている」(結果)ということなのであると語っていることがわかります。順番が逆なんです。この流れは楽曲の意図を推し量るのにかなり重要な要素だと思っていて、何故ならば、「自分にもあったはずの制御不能な青春(という名の衝動)にあらためて気付く」ことが重要な入り口だからです。

社会に出ると抑制しなくてはならない場面が増えていく衝動的な行動をどんどん肯定していくのがこの "Permission to Dance" の歌詞の骨子です。

次にいきます。

When it all seems like it's wrong
(全てが間違いのように見える時は)
Just sing along to Elton John ※4
(ただエルトン・ジョンに合わせて歌う)
And to that feeling, We're just getting started ※5
(その感覚に合わせて(歌う)、僕たちはまだ始めたばかりだ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6118632

※4 sing along to~…~に合わせて歌う(参考
※5 前の文の「sing along to」のto以下とこの行のto以下は並列
・just getting started…まだ始めたばかりだ(参考
・be getting ~…~の状態になってきている(始まった直後限定)

歌詞に登場するエルトン・ジョンは言わずと知れた英国の世界的ミュージシャンですが、自分の名前がK-POPグループの楽曲歌詞に登場したことについて「とてもクールだった」とコメントしたことが、英音楽誌NMEの記事に残っています。↓

"Permission to Dance" と言えば、バンタン楽曲の中では珍しくラップパートが無い事が特徴として挙げられますが、この形に至った経緯についてナムさんが配信で明かしています。
ラップを入れるか否か意見が分かれていたが、既に完結したひとつの歌だったので入れない選択をしたとのこと。ナムさんが歌うエルトン・ジョンの部分、私大好きなんですが、本人もその部分を好きだと語っています。↓


■(あらためて)エルトン・ジョンとは何者なのか

そもそも、何故ここにエルトン・ジョンの名前が刻まれたのか。
その手掛かりを求めて、2019年公開の映画『ロケットマン』を視聴しました。

私がエルトン・ジョンの楽曲に出会ったのは確か10代で聴いた "Your Song" がきっかけだったと思うのですが、どこで聴いたのかまでは覚えておらず…調べてみたら日本の映像作品で80~90年代に何度か採用されていたようで、おそらくTVで耳にした後アルバム「Love Songs」をレンタル店で借りたのではと。

私の中のエルトン・ジョンはしばらくこの「Your Song」のジャケ写と収録曲のイメージでインプットされたものでした。ネットが普及してからちょいちょい目にした奇抜な衣装姿には驚いた記憶がありましたが、『ロケットマン』を見て全てが繋がりました。

"Permission to Dance" の作詞・作曲に携わっているエド・シーランとは10年以上の交流があるとのことで、2021年末には一緒にクリスマス・ソングをリリースしています(出典)。

人の名前というものはその歴史の全てを背負う表題のようなもの。
エルトン・ジョン本人も制作に携わったという映画『ロケットマン』を観る限り、「エルトン・ジョン」という名の誰もが知っているタイトルの本には、音楽へと向かう衝動のままに生きることで数々の憤りと虚しさを乗り越え、偏見や不遇に見舞われてきた自分をようやく愛せるようになったひとりの人間の物語が描かれているのだと思います。
「エルトン・ジョン」の名を歌詞に登場させることによってそういった付随する物語を想起させ、歌詞の世界とリンクさせることを試みたのかもしれません。

まぁ単純に、エルトン・ジョンが派手な衣装でステージに立つ様子を思い浮かべるだけでも前向きになれる気がします…。マツコ会議でマツコさんがとにかく明るい安村にエルトン・ジョンのネタを提案した時、今イギリスではエルトン・ジョンをやるだけでウケる、みたいなことを言っていた理由もなんとなくわかります。


■「自尊心」を取り戻せ

コロナ禍で一変した世の中で、それまでの人生を根底から覆された多くの人々は皆、自分の存在価値の在り処を見失っていました。そんな状況下で "Permission to Dance" をリリースした彼らも例外ではありません。当時の苦悩の様子は徐々に各作品として発表されていますが、そこには深い絶望が色濃く描かれています。

"Permission to Dance" の歌詞は、そんな自身の存在を肯定できずに自尊心を失っていく人たちに向けて光を取り戻す術を示します。

When the nights get colder ※6
(夜がどんどん寒くなって、)
And the rhythms got you falling behind ※7
(リズムがあなたに後れを取らせた時は)
Just dream about that moment ※8
(とにかくその瞬間についての夢を見なさい)
When you look yourself right In the eye eye eye ※9
(あなたが自分自身の目をまっすぐ見る瞬間を)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6118632

※6、7
・the+複数形…特定の集団(参考
ここでは汎用的で普遍性のある「夜」や「リズム」ではなく、限定的なある期間中の複数日の出来事を指している(おそらくコロナ禍に突入してからの日々)
・get+比較級…だんだん~の状態になる(参考
※7
・get+人+動詞ing…人に~させる(参考
・fall behind…後れを取る(参考
※8 just を命令形(肯定)で使う時…とにかく~しろ、ただ~するだけ(参考
※8、9 関係代名詞when以下は前行の「the moment」を説明。
・look+人+right in the eye…人の目をまっすぐ見る(参考

――――人との距離を意図的に取らなければならなくなったコロナ禍では、夜を重ねるごとに人恋しさは募る一方。新しい生活の基準に戸惑い、崩れていく生活のリズム。それまでとは全く違ってしまった自分にうんざりする。
そんな時は、自分自身の姿を怖れずに直視できるようになる「その時」を信じて気持ちを奮い立たせるんだ。―――


3.振り返ることはできない

次はヴァース2の、ホビ→ユンギ歌唱パートです。
ここは苦境を生き抜くための強いメッセージが込められた、楽曲の軽快さとは少し対照的な部分になっていると思います。

There's always something
(いつもなにかがある)
That's standing in the way ※10
(それは邪魔だ)
But if you don't let it faze ya ※11
(でももしそれに惑わされなければ)
You'll know just how to break ※12
(あなたは公正な壊し方がわかるだろう)
Just keep the right vibe yeah ※13
(とにかく正しい雰囲気を保て)
'Cause there's no looking back ※14
(振り返ることはできないから)
There ain't no one to prove ※15
(証明する人は誰もいない)
We don't got this on lock yeah ※16
(僕らは状況を掌握していない)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6118632

※10 stand in the way…邪魔になる(参考
※11 動揺させることをさせない=されない
・don't let A~…Aに~させない(参考
・faze…(状況が人を)動揺させる(参考
※12 形容詞 just…公正な
※13 just を命令形(肯定)で使う時…とにかく~しろ、ただ~するだけ(参考
※14 There is no ~ing…~することはできない(参考
※15 二重否定だがここは肯定ではなく否定のまま(参考
※16 haveと同じ意味を持つ口語表現have gotのhaveが脱落した形(参考
・We don't got this = We haven't got this(私たちはこれを(手に入れて)持っていない)
・on lock…(状況などを)支配して/(人を)自分のものにして(参考
※15,16 の間にはthatが省略されていると考えると、「We don't got~」が「to prove」の内容となる。

この部分は主語が曖昧で様々な解釈ができると思うのですが、

  • 人生には障害が付き物であるが、心持ちを確か保てれば進むための正当な方法は自ずとわかる

  • とにかく正しいと思うことに専念し続けろ

  • 過去を振り返ることはできないから、我々が状況をコントロールできていないと証明する者はいない。(=過去と比較して現状の評価を落とすことは誰にもできない。今できることに集中すべきだ。)

こんなメッセージとして受け取ることができるのではないかと思います。

「過去にとらわれない」というモットーは、ジンくんが日頃から口にしていたり、ユンギがAgust Dの活動を通して体得したものですが、この "Permission to Dance" でも共通意識として採用されているのかなと思うと、この曲を英語圏向けに用意したポップソングだと簡単に片づけることはできないのではと思います。


4.着陸はこわくない

さて、ここで最後にサビの掘り下げをしてみたいと思います。

Then you say
(そこで君は言うんだ)
I wanna dance
(ダンスがしたい)
The music's got me going ※17
(音楽は僕の気分を上げてくれる)
Ain't nothing that can stop ※18
(止められるものは何もない)
How we move yeah ※19
(僕らがどうやって動くかを)
Let's break our plans
(さあ、僕らの計画を壊そう)
And live just like we're golden ※20
(そして何もかもうまく言っているように生きて、)
And roll in like we're dancing fools ※21
(踊るバカみたいに押し寄せるんだ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6118632

※17 got+人+going…人を動かしてくれる、テンションを上げてくれる
※18 二重否定だがここは肯定ではなく否定のまま(参考
・ain't nothing~…~なものはいない
※19 How+S V…Sが~する方法(参考
※20 golden…良い状況にいて上手くいく(参考
※21 roll in…(集団で)押し寄せる(参考

歌詞の冒頭で自分の中に眠っている衝動を引き出すためのきっかけを作り、それでもその気持ちのままに動くことができない状況に丁寧に寄り添い、打破する方法を伝授した上での「踊りたい!」という言葉。
取り戻した衝動にまかせて踊り狂う、その喜びをありのままに爆発させている感じがとてもよく伝わってくる構成になっていると思います。
こうくるとやはり、冒頭の和訳に関する今回の考察が活きてくるのではないかと思います。

この後に続くのは、お馴染みのあの●●名言です。

We don't need to worry
(僕らは心配する必要がない)
'Cause when we fall we know how to land
(墜落しても着陸の方法を知っているから)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6118632

この「墜落」と「着陸」のフレーズは、Dicon掲載のインタビューでユンギが語った言葉に由来しています。↓

この言葉については2018年の防弾会食でも話題に上っています。↓

추락은 두려우나 착륙은 두렵지 않다
(墜落は怖いが 着陸は怖くない)
――防弾会食 2018 FESTA 2018.6.12 SUGA

https://www.youtube.com/watch?v=K4Melso7MPU&t=2160s

高みを極めた者にしかわからない恐怖と自信が、読んで字の如くここに集約されています。一方、今回の歌詞の趣旨に当てはめると、後先を考えず衝動のままに行動したらどうなってしまうのかと怖れを感じている者に対して「僕らなら、あなたなら大丈夫」と背中を押すような言葉として位置づけられています。

Don't need to talk the talk
(会話は必要ない)
Just walk the walk tonight
(今夜はただ歩こう)
'Cause we don't need permission to dance
(僕らにはダンスをするための許可は要らないから)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6118632

2020年2月以降、身体的・物理的な隔離を強いられた間、ただいつもの道を歩くだけでもビクビクするような強迫観念を持ったこともありました。
伝えたいことが伝わらない、したいことができない、そんなジレンマをやり過ごす方法をわざわざ考える時間もありました。

そんな時期にこの楽曲は、恐怖を感じながら敢えて会話をする必要はない、ただそこを歩くことに罪もない、衝動にまかせて体を動かすことに許可は要らない、と、先頭切って高らかに宣言してくれていました。

明らかに状況が変化した2023年現在においても、この「胸の高鳴り」に気付いて自らを奮い立たせるパワーは誰もが必要としているチカラだと思います。

時が経ち、この歌詞が歴史と共に語られる時、そのメッセージの普遍性が更に輝きを増して時代の壁を超えてゆく様を見守ることができるのを、今後も楽しみにしています。



今回も、最後までお付き合い下さりありがとうございました。
アミヨロブン、お誕生日おめでとうございます💜