見出し画像

BTS "INTRO : 화양연화(花様年華) The Most Beautiful Moment In Life" 日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.017

俺は俺の人生で何をするつもりだ?
この瞬間はもう永遠に訪れない
もう一度自分に聞き返してみろ
今、幸せなのか

その答えは既に決まった
俺は、幸せだ

INTRO : 화양연화(花様年華) The Most Beautiful Moment In Life


今日に限ってリムが遠く見える
コートの上に溜息がにじむ
現実を怖れる少年
ボールを投げる時だけは
却って心が安らぐ

ひとりきりで投げるボール
リムを見据えて俺が投げるのは
数多の悩みと人生の不安

世の中を知っているフリ
でもまだ未完成の身体
シュート
コートが俺の遊び場

手さばき通り足元で小さな球が弾む
成績は地を這う程だけど
俺は更に、むしろ世界中に
全部うまくいくだろうって訳もなく叫ぶ
でも世界は逆に俺を脅してくれ
そういうことなら大人しくする

頭を満たす想念
ボールの代わりに未来を投げる

他人がなすりつける評価と
成功の基準にまた失格
お陰で癌のように広がる不安

投げ捨てたボールと共に広がる笑い
喉元まで上がってくるこの息は
うごめき続ける夢想ども

速くなるドリブル
幸福に満たされる心
この瞬間は永遠のもの
でも 日も暮れ夜が訪れたなら
再び俺を蝕む現実

気がつけば また同じ病室に在る自分の姿に
何度となく繰り返し怯えるよ

襲ってくる現実感
奴らは先に走って行くのに
何故、俺はまだここにいるのか?


息をする? それとも夢を見る?
今 胸の鼓動に合わせて再び櫂を漕ぐよ
他人の薄っぺらい価値観に縛られて
無知なフリして生きていては
コートみたいな人生も夕暮れに沈む


俺は俺の人生で何をするつもりだ?
この瞬間はもう永遠に訪れない
もう一度自分に聞き返してみろ
今、幸せなのか

その答えは既に決まった
俺は、幸せだ



韓国語歌詞はこちら
https://m.bugs.co.kr/track/4315823

『INTRO : 화양연화 The Most Beautiful Moment In Life』
作曲・作詞:Slow Rabbit , SUGA


*******


今回は、ミニアルバム第3集「화양연화(花様年華) Pt.1」に収録のSUGAによるアルバムイントロ曲 "INTRO : 화양연화 The Most Beautiful Moment In Life" を意訳・考察していきます。

この曲を紐解くにあたって、YouTubeに公開されているユンギのアルバムレビュー動画を視聴しました。ところがこの動画、日本語字幕が出なくてですね…残念ながらファン動画もちょっと見つからず、自動字幕を頼りに意を決して聴き取りをすることにしました。
(以下のリンクは "INTRO : 화양연화" の解説部分から始まります)

記事中に引用している内容は私の聴き取りを下敷きにしているので、聴き間違い、解釈違いなどある可能性が多分にあります。ご了承ください。

ちなみにユンギ氏の訥々とした喋り声は私のどストライクトーンでして、睡眠導入剤代わりに「SUGA의 Album review」シリーズを音声で聴いたりしています…声が…よき…



1.人生で最も美しい瞬間

この楽曲、このアルバムシリーズのテーマは言うまでもなく、タイトルの英訳が示す通り「人生で最も美しい瞬間」です。と言ってもその瞬間が訪れるタイミングは人それぞれかと思いますが、彼らが挑んだアルバムテーマとしての「花様年華」は主に10代の頃を指す「青春時代」を意味しているとのこと。

花様年華:人生で最も美しい瞬間、青春

ユンギはこのテーマに沿い、自身の10代の頃についての個人的な話をこの曲の歌詞にたくさん書いたと前出のレビュー中で明かしています。
(以下、引用文はレビュー動画のコメントの和訳)

僕も10代を過ごしているので、個人的にコメントをして、どんな考えもたくさん書きました。
10代…20代の前半の今まで、それぞれ考えがたくさんあるけど、ただその時感じた感情を書きたかったんです。

https://www.youtube.com/embed/d5liS0Ah_W8

なので、認知空間…音楽を聴く時に舞台掲示する空間の感じも、バスケットボール場でボールを弾ませるような感じのビートを使いましたし、ボールが出てくるサンプルもバスケットボールの音をサンプルにして作ったビートなんです。

https://www.youtube.com/embed/d5liS0Ah_W8

歌詞を見たら「今日に限ってリムが遠くなって/コートの上に溜息がにじむ/現実を怖れる少年/ボールを投げる時だけは却って心が安らぐ」こういう歌詞なんですが、実際に、実際にこう思いました。

https://www.youtube.com/embed/d5liS0Ah_W8

「現実を怖れる少年」ミン・ユンギに「心が安らぐ」瞬間を与えてくれる存在であった「バスケットボール」がこの曲の裏テーマと言えるようです。

バスケットボールが弾む音やバッシュがコートを引っ掻く音で作ったビートにより音楽空間を創り上げる事で、歌詞の内容や声色に奥行きと質感が加わり、10代の心境をたどるたった2分余りの時間に絶大な説得力が生まれています。


2.10代が抱えている大きすぎるもの

韓国の受験事情は日本にもその様子が伝わってくる程過激とも言われて久しいですね。

学歴至上社会で進学以外の道を選ぶことについて、ユンギは前述のレビュー動画でこんな風に語っています。

やっぱり周りは、音楽をするって事が正しいとか言うと、まず心配して、まあ、ダメだろうと。そういう音楽みたいな事をやってきて一家が滅びるんだ。こんな話を数えきれない程聞きました。いつの頃からか話を聞きながら、まぁそうだと思ったんだけど、そういう話を聞いてきたら、少しだけ何だか心配でたまらない時期でもあります。

https://www.youtube.com/embed/d5liS0Ah_W8

「세상에 다 잘 될 거라며 괜시리 소리쳐(世界に全てがうまく行くだろうって訳もなく叫ぶ)」と自分の才能に対して強い自信を持ちながらも、「하지만 세상은 되려 겁줘 그럴 거면 멈춰(だけど世界は却って脅してくれ。そういうことなら止める)」というように、本当に自分が世間で通用するのか?という不安を捨てきれず、音楽の世界の方から来るなと脅すなら(その道を志す事を)やめてもいい、と本音を吐露しています。

歌詞の中では「少しだけ何だか心配でたまらない時期」がそんな風に表現されているのですが、この自信と不安のせめぎ合いこそが「青春」だよなぁ、と今となっては思います。

我が家にも10代後半に差し掛かった子がおり、こういった話題は常に身近にある状態なので、この「音楽なんかやると家が滅びる」と言って反対する保護者側の気持ちもよくわかるんですよね…。

それと同時に、自分の経験や観念を語る事がいかに彼らにとって無意味であるかも思い知らされています。危険回避を促す道路標識のつもりで「○○しないと○○になるよ」と言ってみても、それが当人にとって助言になるとは限らないんですよね。まったくもって意味がない。

本来逆算など効くはずがない人生において「より良い人生、より良い未来を手に入れるためにより良い学校に入る」なんていうもっともらしい公式に自分の人生を当てはめて安心しても、それだけではそこに利がある一部の人たちの思う壺ですし。

いかにしてより多く、正しく、自分の意思を進路に乗せられるか。それを判断するのに果たして10代後半という年齢は妥当なのか。抱えるものが大きすぎるのではないか。とそんな親目線の心配はやはり絶えません。

曲の中盤でユンギは「ボールの代わりに未来を投げて」います。
ここで投げているのは、親を始めとする先人達が自分たちの経験だけを理由に押し付けてくる、何の成功の保証もない「仮」約束された未来、ということなのではないでしょうか。

「未来」を投げ捨てたユンギ少年がその手に取ったのは「夢」でした。


3.夢を現実に換えた者のみぞ知る

そうして「未来を投げる」歌詞の後からは、「夢」だった音楽の道を歩み始めたにも関わらず新たに生まれた別の不安と戦うその後のユンギがクロスオーバーしていきます。

学力上の評価を拒み、進学志望という大通りを外れる事でひとつの成功の基準に「失格」したと感じていた彼が、「また」同じ劣等感を感じてしまう事になってしまいます。

「癌のように広がる不安」を相手にしたこの10代の終わりの時期は、Agust D名義の「마지막(The Last)」で明かされているようにミン・ユンギにとってかなり深刻な時期と重なります。

そんな18、19歳頃の彼が自分自身を見失わないよう必死にもがく様子が後半にかけて書き綴られていきます。


■幸せの守り方の変化

歌詞の前半でバスケットコートを「遊び場」と称しています。そして曲の後半部分で、この「コート」という場所が再び登場します。

남들의 얄팍한 잣대에 갇혀 
(他人の薄っぺらい物差しに閉じ込められて)
모른 척 하며 살다간
(知らないふりをして生きていては)
코트처럼 인생도 노을 져
(コートみたいな人生も夕暮れになる)

https://m.bugs.co.kr/track/4315823

この「コートみたいな人生も夕暮れになる」については、「コートみたいな人生も夕暮れに沈む」と意訳しました。「コート」という言葉が登場するこの2か所は対になっています。

・自分の外側(世の中)を知っている振りをしながら将来に対する不安に対して虚勢を張っていた頃はコートが遊び場=自由と幸せの象徴だった。
・「他人」の評価に縛られたまま自分の内側(本当の気持ち)を知らない振りをして生きていては、その自由と幸せにすら闇が訪れ廃れていく。

幸せを守りたいなら、周りの声を気にするよりも、自分の声に耳を傾けろ。
ここではそういった事を「コート」という場を介して訴えかけているのではないかと思います。


■幸せの感じ方の変化

ボールに触っているだけで雑音との距離を取り幸せと安らぎを感じる事が出来た学生時代。

ところがいざ夢に向かって一歩踏み出してみると、そこで待っていたのは新たなる評価主義の世界。

好きで始めたはずの音楽で自信を失う時期を迎え、永遠に続く幸せをもたらしてくれると信じていたバスケットボールをもってしても、その現実からは逃れられなかった。

病室、という単語が登場していることから、心を病んでいた時期を指す描写である事が推測できます。

前述のレビュー動画の中でユンギは、この曲の歌詞の中で一番好きな部分を挙げています。

ここで僕が一番好きな歌詞は「俺は俺の人生で何をするつもりだ?/この瞬間はもう永遠に訪れない /もう一度自分に聞き返してみろ 今、幸せなのか /その答えは既に決まった 俺は、幸せだ」このようなことだとか、全般的にこれ自体がすごく好きです。
なぜなら、ひとまずすべての歌詞がそうだけど、僕の話をした歌詞でもあるし、何と言うか、僕の10代に捧げる…10代後半、19歳の頃がすごく思い浮かんだんです。

https://www.youtube.com/embed/d5liS0Ah_W8


自身の鼓動に合わせて櫂を漕ぎ始めた彼は自分の中の本当の声に耳を傾け、その時々の最善をつくす事に意味を見出すことができた今はもう、幸せは永遠のものだ、などとは思っていません。

二度と訪れない今この瞬間ごとの自分が幸せかどうか。
それを確かめながら生きていくことだけが、幸せを感じるための手段なのだ。
曲の最後の自問自答は、そんな気付きを含んでいるのではないでしょうか。

これは、夢を現実と引き換えた彼だからこそ行き着いた、ひとつの境地とも言えるのではないかと思います。


この曲は比較的短めなアルバムイントロ曲ですが、「人生で最も美しい瞬間」という荘厳なタイトルを背負った道しるべのような…『銀河鉄道の夜』に出てくる北十字みたいな…ここから始まる花様年華シリーズが歩くべき道を明らかにしてくれる大事な1曲目であることに間違いありませんでした。


最後まで読んで下さりありがとうございました。


💜