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BTS "불타오르네(Burning Up/FIRE)" お前の好きなように生きろ ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.064

お前の好きなように生きろよ
どうせお前のものなんだから
まあ 努力するのはやめとけ
負けてしまおうが構わないさ

불타오르네(Burning Up/FIRE)


――燃え上がんなぁ

部屋で目が覚める時
俺には何も残らない
陽が沈むのを待って
俺はよろめき歩くよ
満身創痍でふらふら
やたらと道で悪態を吐く
俺は終わった
狂人みたいだ
見渡す限り酷い泥濘ぬかるみ
**のような生き様

お前の好きなように生きろよ
どうせお前のものなんだから
まあ 努力するのはやめとけ
負けてしまおうが構わないさ
La la la la la...
手を挙げ、叫べ 燃え上がれ

皆すっかり燃やしてしまえ
Bow wow wow
皆すっかり燃やしてしまえ
Bow wow wow

なあ、燃え上がれよ
全て残らず燃やし尽くすように
おい、火力を上げろ
闇夜が尻尾を巻いて逃げるまで
'ただ 生きていてもいい
君たちは若者なのだから'
そう言ってるお前は
何様のつもりで匙、匙と繰り返す
俺は 人なのに

お前の好きなように生きろよ
どうせお前のものなんだから
まあ 努力するのはやめとけ
負けてしまおうが構わないさ
La la la la la...
手を挙げ、叫べ 燃え上がれ

皆すっかり燃やしてしまえ
Bow wow wow
皆すっかり燃やしてしまえ
Bow wow wow

怯えすくむ者よ ここに
苦しみ喘ぐ者よ ここに
素手を突き上げ 一晩中
進軍する足どりで駆けてみろ
狂ってしまえ 全て

皆すっかり燃やしてしまえ
Bow wow wow
皆すっかり燃やしてしまえ
Bow wow wow

皆すっかり燃やしてしまえ
Bow wow wow
皆すっかり燃やしてしまえ
Bow wow wow

――勘弁してやるよ


※匙…韓国で起こった「スプーン階級論」を指している。


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/4714592

『불타오르네(Burning Up/FIRE)』
作曲・作詞:“hitman” Bang, SUGA, Devine Channel, RM, Pdogg


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今回は2016年5月発表のリパッケージアルバム「花樣年華 YOUNG FOREVER」に収録されたタイトル曲 "불타오르네(Burning Up/FIRE)" を和訳(意訳)・考察していきます。

アルバム「花様年華」シリーズの集大成である今作の〈顔〉を担うこの楽曲は、10代後半~20代前半の心境を丁寧に綴ってきた楽曲たちの中でも特に強い憤り、奮起の炎を感じさせる歌詞になっています。

その熱い想いから受ける温度感とは対照的なのが、曲の幕開けと幕引きを担うSUGAの台詞です。これらの淡々としたトーンで呟かれた言葉たちは楽曲が持つ熱量の高さを引き立て、若さに任せてただ感情を爆発させているのではなく、冷静に現実を見据えている主人公像を打ち出しています。



1.ハイレベルなダンスパフォーマンス

アルバムタイトル曲として、楽曲だけでなくダンスパフォーマンスに関しても練り上げられたこの "불타오르네" は、「デビュー以来最高」と本人たちが称する程の難易度であるとリリース日のV LIVE配信で明かされています。
ダンスチーム長・j-hope曰く、「第1集収録の "DANGER" よりも難しい」とのこと。

"불타오르네" はイメージカットが多く含まれているメインのMVとは別に「Choreography Version」として振り付けを存分に楽しめる別MVが用意されています。

Dance Practice版はこちら

"불타오르네" の振り付けはアメリカ在住の振付師Keone Madrid氏が担当しています。
(同氏は、他にも "쩔어 (DOPE)"、"피 땀 눈물 (Blood Sweat & Tears)"、"Not Today"、"singularity" の振り付けを行っています)

Keone Madrid氏のInstagramアカウントには "불타오르네" の振り入れ用に作成された動画が公開されており、動画を観ての振り入れがいかに難しいかを前置きした上で、バンタンの習得スキルの高さを絶賛しています。

その後Keone Madrid氏が2017 BTS LIVE TRILOGY EPISODE III : THE WINGS TOURでアメリカを訪れたバンタンと遂に対面できた感動を伝えるツイートはこちら↓


2.メンバー自身に愛される歌詞

"불타오르네" は2020年、2021年にARMYを対象に公式が行った「好きな曲」アンケートで上位にランクインしており(出典)、メンバー自身が楽曲に対する思い入れを語る場面もいくつか見受けられています。


■SUGAの場合

2016年の楽曲リリース時には、ユンギが公式Twitterで「僕たちの楽曲の中で最も好きな歌詞」として一節を引用して紹介しています。

"니 멋대로 살어 어차피 니 꺼야 애쓰지 좀 말어 져도 괜찮아".
(「お前の勝手に生きろ どうせお前のものなんだから
なあ 努力するなよ 負けても大丈夫」)
우리 곡들 중 가장 좋아하는 가사
(僕たちの曲の中で最も好きな歌詞)
학창시절부터 경쟁만 하던 우리에게 해주고 싶은 말
(学生時代から競争ばかりしていた僕たちに言ってあげたい言葉)
어짜피 우리꺼에요 다들 화이팅
(どうせ僕たちのものです 皆さん頑張って)
-SUGA-
―― 公式Twitter @BTS_twt 2016.5.2 SUGA

https://twitter.com/bts_twt/status/726808066667081729

余談ですが、前述した台詞のうち、ラストの「許してやるよ」の挿入をユンギ本人は当初反対していたとのこと。「WINGS」発表時のV LIVE配信でナムさんが明かしています。(09:10~)


■JINの場合

またJINは、2021年3月にKBSで放送されたトーク番組『Let's BTS』にて、"불타오르네" の歌詞が自分を大きく変えたと明かしています。

그 가사를 듣고 좀 많이 변했던 것 같아요.
(この歌詞を聴いてちょっと変わったと思います) 
엄청 부담감에 좀 막 재미없게 살고 뿐 했는데
(すごいプレッシャーで面白くない生き方をしてるだけだったんですが)
내키는 대로 또 한번 살아 보고 
(気ままにもう一度生きてみようと)
그런 식으로 해봐주셔는
(そんな風にしてみてくれる)
그 노래가 가장 저를 크게 변화시켜준 노래 잖았나.
(この歌が最も僕を大きく変化させてくれた歌じゃないでしょうか)
―― JINコメント Let's BTS! #24 - KBS WORLD TV

※筆者聴き取りのため実際のコメントと相違がある可能性があることをご了承ください。
https://www.youtube.com/watch?v=ZrLGMD-J3po

そしてこの件に関してジンくんは、後日雑誌『GQ KOREA』のインタビューでも同様のコメントを残しています。

質問:JINに大きな響きを与えたアルバム、または楽曲があるとしたら?
個人的には「FIRE」でした。
「お前の好きに生きろ」という歌詞にたくさん刺激を受けました。
僕を嫌いな人たちはどんな良い姿を見せても結局嫌いになるだろうし、
逆に僕を好きでいてくれる人たちは傍に残ってくれるでしょう。
―― GQ KOREA 2021年12月

https://www.gqkorea.co.kr/2021/12/21/%EC%A7%84-%EC%9D%B4%EB%AF%B8-%EC%9E%98-%ED%95%B4%EC%99%94%EA%B3%A0-%EC%9E%98-%ED%95%98%EA%B3%A0-%EC%9E%88%EB%8B%A4/


3.好きなように生きろ

そして、2022年4月に行われた第64回グラミー賞授賞式の "Butter" パフォーマンスでは、舞台演出に "불타오르네" と "쩔어(DOPE)" の歌詞が使用されていました。 

該当箇所の画像↓
https://madamefigaro.jp/upload-files/31bd59650cef9fc04db95787e604d12fb28ffc5f.jpg

世界中の人々が見守る一世一代の舞台で〈花様年華〉のシーンと共にこの歌詞が選ばれ演出に組み込まれたことにはおそらく、ARMYに人気の楽曲であること以上にとても大きな意味があったのではないかと思います。

パンデミックでスケジュールが軒並み変更になる中、完全英語詞のポップソングで活動するにあたって彼ら自身に葛藤があったことは後日「2022防弾会食」で触れられていますが、"Butter" の頃には「チームが確実に変わった」「自分たちがどんなチームなのか、何を話せばいいのかわからなくなってきていた」と吐露するナムさんの切実な様子が印象的でした。

常に新しい表現を求められる世界にあって〈花様年華〉という「人生で最も美しい瞬間」を過ごした経験は、彼らを大きく成長させると共に、成功の前例としてひとつの「枷」となっていたのかもしれません。

次はもっと上を、と意気込めば意気込むほど、前例を踏襲することは表現者としての怠慢であると感じることもあったかもしれません。

それでもやはり、自分達が言いたいこと、言いたかったことを振り返る大切さを再確認することで「消えかかった道」をなぞり直し、また対外的にも、自分たちが歩いている道は〈花様年華あの頃〉と変わらない同じ道であるということを明確にするために、英語詞のメガヒット曲の演出に〈花様年華〉シリーズの楽曲歌詞を「韓国語」で使用したのではないか。そう私は感じました。

特にこの "불타오르네" は前述の通りメンバーにとっても愛着のある歌詞であり、何より「負けようが構わない」「自分の思う通りに生きろ」というメッセージが、自分達自身に今必要な言葉であると感じていたのではないか、と思い至ります。

目前で燃え盛る炎の色を淡々と瞳に映し、社会的抑圧に反旗を翻す。

"불타오르네" で描かれている人物像は、恨み妬み嫉みで炎上し続ける世界に対して彼らがどんなスタンスで挑んでゆくつもりなのかを宣言したものであると私は受け取りました。

その凛とした佇まいは、当時も今も何も変わっていません。



最後までお付き合い下さりありがとうございました。
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