BTS "쩔어(DOPE)" 放棄を重ねる者たちへ ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.065
쩔어(DOPE)
いらっしゃい
バンタンは初めてだよね?
紳士淑女の皆々様
準備ができたら歌うよ yeah!
他の奴らとは違って俺のスタイルで
俺の、俺のスタイルで yeah oh!
夜通し働いたのさ
来る日も来る日も
お前がクラブで遊ぶ間 yeah
さあ ビビらず聞けよ
毎日 感じてる
俺は 超ヤバい!
ヤバい ヤバい ヤバい!
俺たちの練習室 汗の匂い
見ろ
バッキバキの俺のダンスが答えるよ
皆 へなちょこ、ヘタレ、
ブーたれに、まぬけども
俺とは関係ない 何故なら
俺は希望に溢れてるから ha ha
そうさ俺たちは
頭のてっぺんから爪先まで
全部残らずヤバい
一日の半分を作業に捧げ
スタジオに籠り生活する
青春は朽ちてゆけども
お陰で 結果的には
成功街道真っしぐら
少女たちよ 叫べ 轟け
夜通し働いたのさ
来る日も来る日も
お前がクラブで遊ぶ間
他の奴らとは違って俺は
首を縦には振りたくない
叫んでみろよ それでいい
身体が燃え尽きる程一晩中
俺たちは炎を手に入れたから
もっと高く 高く
俺はやらなきゃならないんだ
ヤバい!
拒否はさせない
俺は元々手に負えない奴
ひとり残らずついてこい
ヤバい!
拒否はさせない
俺は元々手に負えない奴
ひとり残らずついてこい
ヤバい!
三放世代?五放世代?
じゃあ俺はユッポが好きだから六放世代か?
マスコミと大人たちは
意志無き者でありながら、
俺たちを躊躇なく株のように売りさばく
何故 試してもいないうちに見殺しにする?
(アイツらは 敵、敵、敵)
何故 そんなに早くから頭を下げる?
(受け取るよ 力、力、力)
諦めるなよ 絶対に
君はひとりじゃないってわかってるよな?
君と俺の夜明けの時は
真昼のそれより美しい
だからほんの僅かでも
俺は希望を持っていいか?
眠った青春を呼び覚まして 行こう
夜通し働いたのさ
来る日も来る日も
お前がクラブで遊ぶ間
他の奴らとは違って俺は
首を縦には振りたくない
叫んでみろよ それでいい
身体が燃え尽きる程一晩中
俺たちは炎を手に入れたから
もっと高く 高く
俺はやらなきゃならないんだ
ヤバい!
拒否はさせない
俺は元々手に負えない奴
ひとり残らずついてこい
ヤバい!
拒否はさせない
俺は元々手に負えない奴
ひとり残らずついてこい
ヤバい!
こういうのがバンタンスタイル
嘘やダサいやつとは別物なのさ
毎日がハッスル・ライフ
火を付けなきゃならないんだよ
こういうのがバンタンスタイル
嘘やダサいやつとは別物なのさ
毎日がハッスル・ライフ
やらなきゃならないんだ
俺は 超ヤバい!
盛り上がってる?!
ヤバい!
※쩔어…「非常に~である」という意味をもつ仁川地方の方言「쩐다」が語源と言われているようです。(参考)
自分の中である一定の基準を逸脱している様子を表現するために、否定・肯定どちらの意味にも使うことができるとのこと。
日本版のサブタイトルに「超ヤベー!」とあるので単体で使われている部分はそれに準じ、SUGAパートでは文章に組み込まれているためそれぞれ雰囲気が感じ取れるように意訳しました。
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/4315827
『쩔어(DOPE)』
作曲・作詞:“hitman” Bang, Pdogg, RM, earattack, j-hope, SUGA
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今回は、2015年4月にリリースされたミニアルバム第3集「화양연화(花様年華) pt.1」に収録されている "쩔어(DOPE)" を意訳・考察していきます。
楽曲はその後2016年5月発表のリパッケージアルバム「화양연화 Young Forever」にも収録されています。
1.沼落ち必至のスルメMV
アルバムタイトル曲 "I NEED U" は彼らが初めて音楽番組でチャート1位を獲得した曲としてその名を歴史に刻んでいますが、一方この "쩔어(DOPE)" はそのタイトル曲を食う勢いでMVの再生回数が公開当時から良く伸びていたことが残っている記事からうかがえます。
(ちなみに2022年9月現在の再生回数は7億回超えです)
海外の質問箱では「"쩔어(DOPE)" MVはBTSの国際的成功への足掛かりだったのか?」といった意見交換もなされており(出典)、リリース前年(2014年)ロサンゼルスで開催されたKCON出演ですでにその存在をアピール済みだった彼らへと向けられていた期待値の高さが、ここで証明され始めたと言えるのかもしれません。
前述の質問箱の投稿を読んでみると、MV公開の約3か月後に有名なリアクション動画チャンネルで "쩔어(DOPE)" が取り上げられたことを沼落ちのきっかけに挙げているARMYもいるようです。
リアクション動画でも注目を浴びていた難易度マックスの振り付けは、 "불타오르네(FIRE)"、"피 땀 눈물 (Blood Sweat & Tears)"、"Not Today"、"singularity" を手掛けたアメリカ在住の振付師Keone Madrid氏が担当しています。
また、2020年になってから作曲に携わったearattak氏が "쩔어(DOPE)" 制作時のエピソードを語るインタビュー記事が公開になっています。
2.自分の「スタイル」を貫け
そんな見ごたえあるMVは各々が異なる職業制服に身を包んだメンバーが表情豊かにそれぞれの役どころを演じる姿がフェイクワンテイク技法で撮影されています。
MV撮影秘話や楽曲に対するメンバーの想いが語られている記事↓
MVとコンセプトフォトのメイキングはこちら↓
各音楽番組ではMVには登場していない職業の制服(コスプレ?)を日替わりで楽しむなど、記事にもあるように「カッコよく遊ぶ」姿を見ることができます。
学校三部作を完結させ学生服を脱いだ彼らですが、社会人になっても尚纏わなければならないものがあることを、この職業制服で表現しているのかもしれないと私は感じました。
グループとして統一感を押し出すのではなく、見た目で個の違いがはっきりとわかるようにスタイリングした理由は、「내 스타일(俺のスタイル)」を表現するためでもあるのかなと思います。
※1 부르다…「呼ぶ」という意味も持つ動詞ですが、直前に舞台公演前の挨拶としての歴史のがある「ladies & gentleman」というフレーズがあることから「歌う」の意味で訳すのが自然かと思います。
☆「부를게」の語尾「~ㄹ게」は意志(~するよ)
※2 다르다…「異なる・違う」
☆「다르게」の語尾「~게」は連用形(~く、~ように)
自分のスタイルが「他とは違う」ことを繰り返す歌詞には、彼らがいかにしてそのスタイルを築き上げてきたのを垣間見ることができます。
※3 모로 가도 달리는 성공가도(横に行っても走っている成功街道)
韓国には「모로 가도 서울만 가면 된다(横道にそれてもソウルに着きさえすればいい)」ということわざがあります。(参考)
意味は「過程よりも結果が大事」。
実直に「毎日・毎晩働く(=練習する・作業する)」ことで実力をつける自分達は、嘘を並べる見掛け倒しの奴らとは違う。
余裕ぶっこいて遊んでる奴ら。
なんでもかんでもYesしか言わない奴ら。
そんな奴らと俺たちは違う。
このスタイルを貫くためには、自らに火を放たなければならないんだ。
〈バンタンスタイル〉というフレーズは過去の作品にも登場しますが、この歌詞における〈バンタンスタイル〉は〈持てる全ての力と時間を注ぎ、青春時代を自分が信じるものに捧げ、情熱を自ら燃やす〉というものになるのかと思います。
この自ら燃やす情熱は、"불타오르네(FIRE)" の炎にも、"방화(Arson)" の炎にも重なります。
そしてそんな〈バンタンスタイル〉を提示することで、10代、20代という人生で最も美しい瞬間=花様年華を過ごす同世代に「自分も頑張ろう」と思ってもらいたい。
前述の記事にも収められているそんな想いが込められた部分が、韓国版〈ロスジェネ〉を語るRap Monsterのパートです。
3.放棄を重ねる者たちへ
韓国独自の世代呼称が登場するナムさんのパートには、理不尽な世の中に一石を投じ同世代の光とならんとする、熱のこもった言葉が並びます。
※4 육포…干し肉(ジャーキー)
ハングルの綴りが六放と同じであることを利用した皮肉。
※5 「~며」は並列。
この文章で「意志がない」のは「俺たち」ではなく、「マスコミと大人たち」の方です。
つまり、ひとりひとりに対して何か思うところがあって「殺す(この場合入学試験や就職試験での不当な不合格処理や、話題として彼らの苦境のみを書きたてるデリカシーのない記事など)」のではなく、ただ単に数合わせや都合、利益のみで淡々と事務的・合理的に処理していることを株式売買になぞらえて揶揄しています。
※6 절대 마 포기(絶対するな、放棄)
本来ならば「절대 포기하지마(絶対に放棄するな=絶対に諦めるな)」となるところですが、詩的許容範囲で倒置操作をして強調させているのだと思われます。
ここに登場する「三放世代」「五放世代」は、その後「七放世代」「N放世代」と続く韓国の〈ロストジェネレーション(失われた世代)〉を表現しています。思うように就労できないため収入が得られず、結果、人生の様々なものを諦めざるを得なくなってしまった世代と言われています。
三放世代…恋愛・結婚・出産を諦める
五放世代…恋愛・結婚・出産・就職・マイホームを諦める
"쩔어(DOPE)" が制作された2015年当時はここまでだったようですが、その後現在までに「七放世代(五放に人間関係と夢が加わる)」、「N放世代(全てを諦める)」までもが登場しており、追い打ちをかけるようにパンデミックが重なって状況は更に厳しいものとなっているようです。
私はロスジェネで、派手なバブル期をこの目で見て育ったにも関わらずいざ自分が就職しようとしたら氷河期だったという絶望を見た世代です。バンタンがデビューする10年以上前の話ですが、自分の当時の気持ちを三放・五放・七放・N放世代と重ねると泣けてきます。
自分は誰かに必要とされているのだろうか、
何のために今まで生きてきたのだろうか、
このままどこにも就職できなかったらどうすればいいのだろうか。
未だにエントリーシートだけでサヨナラした会社の名前は良ーく覚えていますし、何とか拾ってくれた会社の待遇が多少アレでも人間関係がアレでも頑張らなきゃと必死だった新人時代はある意味人生の宝でもあります。
あの時、バンタンのように寄り添ってくれる歌は少なくとも私の周りにはありませんでした。
現実に目を向け、困難に直面する当事者の気持ちを代弁し、手を引いて暗闇から連れ出してくれる。
私はこれらがバンタン楽曲の本質だと思っているのですが、"쩔어(DOPE)" は時空を超えて、あの就職氷河期にひとり不安に震えていた当時の私の手を取り、引き上げてくれました。
現代を生きる全ての「諦めざるを得なくなってしまった」若い世代に、差し伸べられたこの手が届き、ひとりではないのだと気づいてくれるといいなと思います。
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また、"쩔어(DOPE)" は2022年4月に行われた第64回グラミー賞授賞式の "Butter" パフォーマンスで、"불타오르네(FIRE)" と共にその歌詞が舞台演出として使用されています。
"불타오르네" の和訳・考察記事でこの件に触れていますので、よろしかったらご一読ください。↓
最後までお付き合い下さりありがとうございました。
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