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吾野からの贈り物

2023年2月25日(土) プロジェクトなづき吾野宿稽古

すでに江戸期や大正期の雛人形は飾られていました。館の主、大河原さんは地域の雛祭り展の準備のためさらに人形を取り出していました。そこでなづきもお手伝い。雛壇を参加メンバーで組み立てました。組み立てたのはバブル期に購入した2セット。雛道具はプラスチック製です。大河原さんがいうには今回でこの雛人形たちはお焚き上げにするそう。古いものに比べると品格は落ちますが、なんだか寂しい。

稽古開始は遅れました。ですが、吾野の空の階調変化をたのしむように吾野時間のおおらかさにどっぷりとつかってみるのもいいでしょう。都心とは異なるゆったりとした時間が流れています。分刻みで流れる近代以降の時間の暴力性、つまりスケジュールに身体を拘束させようとするところには抗わないといけないはずです。

ひと段落して稽古を始めます。当初三名組になった場面稽古を想定していましたが、ある一人からソロでやらせてほしいという要望が上がりました。そこでまずは伸枝さんの座敷童の登場場面。白い石を使って遊びを始めます。静かな眼差しで演じる伸枝さん。底知れなさとともに屈託なさが表れています。役どころを押さえています。暫くして伸枝さんからお焚き上げになる人形と演りたいとの要望が上がり、大河原さんの許可をもらって三体の人形を借り受けました。先ほど雛壇を組み立て、実際に人形に触れた手つきが呼び覚ましたイメージなのでしょうか。スケジュールにはない行為が生んだ行幸です。別れを惜しむような演技が前近代の時間感覚を生きています。まさしく座敷童が憑依しているといっても過言ではないでしょうか。

次にソロで演ることを提起した山田零さんは到着まえに吾野の山、秩父御嶽神社を巡ってからの稽古参加。役どころは薬罐の付喪神。メタ的な解釈を取り入れて批評的に展開します。雛飾りを使いドナドナを歌いながら、随所に先ほどの登山の体験も生かしています。ケレン味さえ感じさせる大胆な演技。それでいながらユーモラスで、川津も思わず大笑い。

付喪神や座敷童はそれぞれの個性のある演技がアウトプットされました。各アクターが憑依しているところが違うのです。当初この役どころのソロのシーンを予定していませんでしたが、組み入れたいと感じさせました。脚本にはうまく溶け込みそう。

最後は田口和さんと川津の信之と美咲の逢引シーン。自分で書きながらいうのはなんですけれども、川津の役柄は自分にはない側面が多く、ここは演じるのが難しい。しっかりと役柄を造形していきたいです。そんなことを考えていると、大河原さんが稽古の様子を見に来ました。川津に対して、色気が欲しい、演技は濡れていないとね、という助言がくだりました。厳しい視線です。本公演の音響担当してくださるMichael's Winkさんから大河原さんは若いころから演劇を観てきた人なのだと聞いています。あなどりがたし。川津は振りもまなざしもまだ探っている途上ですが、後半にかけては恋愛感情が伝わってきた、と相手役の田口さんが言ってくれました。これはうれしい。

現場の声が脚本を生成させていき、役柄の感情の往還が脚本を大きく変える一日でした。
稽古が終わり、吾野宿にて別件で焚火会という催しがありました。上野憲治さんの演じる秀人役のセリフの重要なインシデントが「焚火」となるはずなので、事前の体験を兼ねて月読彦さんとともに参加しました。焚火にあたりながら月を眺め、初めて会う人と談笑。会話を通して世相も感じることもできました。またこの日の直前2月22日が大河原さんの誕生日。改めて焚火会からも大河原さんの誕生日をお祝いしました。

次回の稽古は、シーンの細かいところを詰めていきます。

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