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若者がいきるセーフティネットをつくる。D×Pの取り組みを紹介します。

認定NPO法人D×Pは、不登校経験・経済的困窮・発達障害などの生きづらさを抱えた高校生に人との「つながり」と、卒業後の「いきるシゴト」を届けるNPOです。

“夕闇迫る校舎。ここは、定時制高校ってやつ。“

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仕事で疲れたしサボって帰ろうかとも思ったけど、そういえば母さんが朝ヒステリックに叫んでた。家にも帰りたくなくて、学校に向かう。

中学時代不登校だったし、昼間は仕事もしたかったから
なんとなく地元の夜間定時制高校に来た。
でも「あーあ、定時制高校なんかに来てしまったわ」とちょっと思ってる。

Aくんは、定時制高校に通い始めた16歳。ご両親は離婚、障害を持ったお母さんと妹さんの3人で暮らしています。人間関係の悪化から中学時代に不登校を経験し、経済的に余裕もないことから日中アルバイトをしながら定時制高校に通っています。

実は、「高校」には3種類あります。全日制高校と、定時制高校と、通信制高校。そして、定時制・通信制高校には様々な生きづらさを抱えた高校生が比較的多く集まっています。

生きづらさを持った高校生が多く集まる通信・定時制高校

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通信制高校:40%の生徒が不登校経験
通信制高校:70%の生徒が転入・編入を経験
定時制高校:21%の生徒がひとり親家庭
定時制高校:9%の生徒が中退する

というデータがあります。そして、通信制高校の進路決定率は41%、定時制高校の中退率は9%。全日制高校よりも8〜9倍高い数値となっています。

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“いまだに名前もわからないやつも多い”

教室に入ると、声をかけてくるやつもいたけど、
12月にもなるのにいまだに名前もわからないやつも多い。
いつのまにかいないやつもいるけど、どうやら退学したらしい。

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ぼんやり席に着いて、窓を見る。

あんたなんか産まなければよかったって母さんに怒鳴られたとき、
あとでめっちゃ謝られたけど、おれも正直そう思ってる。
もう俺って生きてる価値ないんちゃうかな と思う。
学校の窓を見てると、このまま窓から落ちて死ねたら…って想像する。 

Aくんは、実は日頃のちょっとした考えや家庭や職場でのこまりごとをだれにも伝えていません。中学時代の人間関係のことや家庭での経験から、こまったことや自分の考えを誰かに伝えるのをやめています。人とつながりづらい状況が生まれています。

内閣府の平成29年版子供・若者白書では、「暮らし向きがよくない」と回答する人ほど、居場所と思う場所の数が少なくなる、というデータがあります。経済的に困難な人ほど、だれかとつながりづらくなります。

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経済的な困難だけでなく、さまざまな事情から人とのつながりが得難くなります。発達障害の診断を受けたというAさんは、こんなふうに話していました。

中学生のとき時間割どおりに行動できなくて、目ぇついてんのかって先生に責められてました。音にも敏感で、クラスでキャー!って騒ぐ声がきつくて、静かにしてほしいと伝えたら親友だと思っていた子と話せなくなって。人が怖くて、誰かと話すのも冷や汗かきます。

進路先が決まらないまま高校を卒業したCさんは、就活途中から動けなくなってしまったと語ります。

いちおう就活はしたけど内定もらえなくて、途中からなんか動けなくなったんです。高校卒業してバイトだけはしてたけど、もう先生もいないし、親はあんな(ネグレクト状態)だし、まじで誰からも見捨てられたなって感じでした。

人とのつながりを得づらいと、これから社会で生きていく時に、社会にある様々なセーフティネットや人の助けを得難くなります。

いま、97%の子どもが高校に進学します。そして、高校で進路が分かれます。進学する人、就職する人、子育てをする人、そして、途中退学する人もいます。

「高校が最後の砦」だとわたしたちは思っています。高校に所属しているうちに、人とのつながりを得たり、シゴト先を一緒に考えていくことができれば、その後の生活にも長く続く大きな資産を得ることができます。

“死にたいと思っている自分も、まあええかな。”

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突然、ぞろぞろ謎の人たちが入ってきた。
そういえば先生が「今日はNPOの人たちが来ます」とか、言ってたっけ。

黒板に大きく「D×P ディーピー」と書かれる。
ディーピーと読むらしい。怪しすぎるやろ。
突然教室の机を移動させて6つの机を島にする。
その島になぞの大人たちが1人ずつ座っていく。

俺の隣にも知らんお姉さんが座る。
うわ、気まずっっ…。スマホ出しとこ。

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2週間後の授業でもまたやってきたあの姉さん。
ゲームの話で盛り上がっていると、
今日の授業では、大人たちが「過去の自分の話」をするんだという。

名称未設定のデザイン

「わたしがこれから話すことは、人前で話すのは2回目です。
中学生のとき、お父さんにたまに殴られたり怒鳴られたりすることがあったんだよね。
でも、その時はつらいとは思ってなかった。
ただ、線路とか見ると"このまま死ねたら楽なのに"って思うことはあった。
でも今はフリーランスでデザインの仕事しながら、
なんやかんや、楽しく生きているんだ」と彼女は言った。

この人になら、話してみてもいいかなと思った。「このまま死ねたら」って思ってる自分も、受け止めてもらえたような気がした。

そういえば、うちの学校の特別教室に週1回くらいD×Pの人らが来てるって聞いたことあるな。パンとかおにぎりもらえるらしいし、ちょっとだけのぞいてみようかな?

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D×Pが目指すのは、ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会

D×Pが目指すのは、ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会です。その若者がどんな境遇にあったとしても、自分の未来に希望を持てるような社会の構造をつくります。

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人には、たくさんの可能性があります。しかし、環境や周囲の人との関係性のなかで可能性が閉ざされ、本来持っている自分を発揮できない高校生に出会うことも多くありました。
そんな背景から、「自ら這い上がって立ち直れる」という意味でなく「周囲の人の手を借りて、自分なりの一歩を踏み出せる」という意味をこめました。

子どもも大人も、豊かな人とのつながりを持っていて、生きていくなかで嬉しいことも辛いこともありながらも、「まあ、これからも大丈夫かも」と思えるような。それが、”自分の未来に希望を持てる”ということだと思っています。

若者がいきるセーフティネットをつくるための、D×Pの取り組み

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わたしたちは、既存のセーフティネットでは拾い上げられなかった10代と出会い、社会につなげていく役割を果たします。生きづらさを抱えた10代が、この社会で生きて・活きることができる新しいセーフティネットをつくっていきたいと思っています。

そのために、「学校現場」と「インターネット」の2つをフィールドにして生きづらさを抱えた若者と出会います。


学校でしか出会えない高校生とつながる

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高校生が人とつながる場を学校のなかにつくり、 一人ひとりに寄り添いながら関係性を築いていきます。定時制高校では、時間やお金に余裕がなくご飯を食べずに登校してくる高校生も多いため、食事の無償提供を行なっています。

定期的な進路相談で卒業後の所属先につながる

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定時制高校と連携し、高校生が定期的に進路相談できる場を学校のなかにつくっています。高校生一人ひとりの特性・興味に寄り添い、その人に合うシゴトや進路を考えるきっかけとなる機会を紹介・企画していきます。


不登校・中退の高校生とオンラインでつながる

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LINEを使用した進路・就職相談やSNSを使った情報発信を行い、不登校・中退などインターネットでしか出会えない10代後半の若者に出会います。ひとりひとりの次のステップにつながる地域リソースを紹介し、社会で生きていけるつながりを届けることを目指します。
・オンラインコミュニティ「ひま部」との連携(2019年度)
・3つの自治体・定時制高校と連携(2019年度現在)


食・暮らしを通じて人とつながる

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高校卒業後、頼れる人や場所が激減し、早期退職につながったり、適切な福祉的支援が受けられずに孤立していくケースかを防ぐため、食・住を若者に安価で提供しています。10代の子や卒業生などが、困ったことがあった時にすぐに頼れる機会として機能することを目指します。
・2件のシェアハウス所持(2019年度)

高校生の時にD×Pと出会い、今でもつながっている若者たち


心のケアもできるような環境をつくっていきたい

現在はD×Pの卒業生コミュニティ事業に関わる ぱたくん
高校を卒業してからはD×Pと連絡をとれていませんでした。けれど、高校を卒業してからの方が自分のことを考える時間があって、過去の経験に対するフラッシュバックがすごく酷かったです。現在はD×Pと一緒に、好きなゲームをやった後にお互いのことを共感したり、話すことが出来きるような場をつくっています。ただ楽しむだけではなくて、心のケアもできるような環境にはしていきたいと思っています。

D×Pと関わりを持ってから、“外の世界”の見え方が変わってきた

アートをきっかけにD×Pのプログラムでドイツ行った よしゆきくん
当時の僕は“引きこもり精神”を持っていたんです。あまり家の外に出たくなかったし、外向的な性格じゃなかった。D×Pと関わりを持ってから、“外の世界”の見え方がけっこう変わってきたんです。だから、外とのつながりを持てたり、興味のあることに思い切って参加すると、これからの人生が楽しくなると思います。

自分が行き詰まったときに、D×Pがきっかけで変わっていった

進学か就職で迷っていた時にD×Pと出会ったジャマネくん
進学するためのお金がなくて、就職するしかないと考えていたころ、学校でたまたまD×Pスタッフと出会いました。いろいろ話しをしたら、「やっぱり進学したいな」と思い、専門学校の入試を受けて合格しました。それまでの自分は、「就職するしかない」と思ってたんですが、自分が行き詰まったときに、D×Pがきっかけで変わっていったなと思います。

「俺がなんとかしてあげるから」そこまで言うなら頑張ってみようと思いました

名前を変えて、女の子として高校に通った高校生
私は、中学校のときは学校に行っていなかったので、高校に進学するのが難しいと思っていました。加えて、自分の(戸籍上の)性別と自分の中での性別が違っていました。高校に行くとしたら名前を変えたいし、女の子として生きたい、という希望をD×Pスタッフに相談したところ、「こんな、高校があるから行ってみない?」と通信制高校や定時制高校を教えてくれました。「名前を変えるのも、俺がなんとかしてあげるから」と言われ、そこまで言うなら頑張ってみようと思いました。高校に合格し、D×Pスタッフにその報告をしたら、入学式にも来てくれました(笑)。

あなたも、わたしたちと一緒にセーフティネットの一員になりませんか?

生きていくなかでは、様々なことがあります。突然、仕事ができなくなるかもしれない、大切な人がいなくなるかもしれない。災害にあうかもしれない。
私たちが関わる生きづらさを抱えた若者も、これを読んでいるあなたにも、困難が訪れるかもしれません。

でも、そんな困難があったとき、「この人にちょっと話してみようかな」「あの人の顔が見たい」と思えるようなつながりが一筋でも、あったら。

わたしたちは、高校生が学校を卒業したあとも人とつながり、ひとりひとりの若者が希望を持てる社会をつくりたいと思っています。
どんな境遇にあっても、「生きていける」と思えるようなつながりを得られる社会を。

わたしたちと一緒に、実現する仲間になってください!

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