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“きっかけは1枚の布団の写真” 語り場 『道』 PART-2

【きっかけは1枚の布団の写真 丹羽拓也】

丹羽
今日色々持ってきたんですよ。
なんでこういうデザインが好きなんだろうとかっていうところとか 、日本のモノ作りとか。僕職人なんで、職人とはどうするべきだみたいな。これらの本があれば、僕はなんとかやっていける。

『陰翳礼賛』谷崎潤一郎
日本の生活様式の美や伝統的な暮らしの豊かさについてあり、言わずと知れた名作。

陰影礼賛 谷崎潤一郎

『ブランドはNIPPON』川島蓉子 2009年
これは今のここに至る発端みたいな感じの本。

ブランドはNIPPON  川島蓉子

『Pen 2004年 No.122』
2004年の2月のPenなんですけど、ちょっとすいません、子供が破ってて出すの恥ずかしいけど。

pen 2004 2/1号

当時、まだサラリーマンやってたんですよ。
その時に和のデザインって、あんまなかったですよね。
このもう“THE和室に合うようなインテリア”って写真が載っていて。
これ見た時に「おっ、布団カッコいいじゃん」みたいな。「だけど、俺ベッドで寝てる」って。

pen 2004 2/1号

なんかこの写真めちゃくちゃかっこいいと思って、これを見た時に、あ、そういえば俺実家が布団屋だよなって。それと“柳宗理”をこの時初めて知って。“バタフライスツール”ていう椅子は有名なので知っていたんですよね。でも、実際に誰がデザインしたとかっていうことは知らなかった。

バタフライスツール
※座布団は丹羽ふとん店製

ここで他のページを読んだ時に、 柳宗理の座布団が載ってると思ったんですよ。
でも、これ座布団じゃなくて、クッションカバーだったんですよ。
クッションカバーと座布団の違いもわからないぐらいのレベルの人間だったんですね(笑)
でも、なんか素敵だよねみたいな。
これを24歳ぐらいの時に気づいて、「なんかあ、こういうデザインとか、そういうものが作れたら面白いな」と思ったのがきっかけになって、会社を辞める決意をして、父に布団屋をちょっとやりたいんだけどっていうことになるんですよ。
でも正直、実家は町にあるような普通の布団屋だったんですよね。
布団がこうバーって積んでて、普通のふとん屋だから帰ってきたところで何もないというか。
むしろ僕のイメージと全く違うなみたいな(笑)

でも父は技能グランプリで日本一になってる布団職人なんで、「お前ここに来たんだったら、日本一の技術を求めないと先がないぞ」って、最初から言われたの。
だから、最初に技能グランプリに出て優勝することをまず目標にしようっていうところから始まったんですよね。
簡単に言うのは良いけど職人の技術って簡単じゃなくて、ここまで来るのに結構大変でしたが、業界最速の7年で技能グランプリ優勝したんですよね。
いや〜素直に嬉しかったですよね。成し遂げた感が半端なかったです。

第26回技能グランプリ優勝

でも、カルチャーやファッション、インテリアが好きいうところから、なんかモヤモヤしてて、そしたら『ブランドはNIPPON』っていう本の中に、“HIGASHIYA”っていう当時中目黒にあった和菓子屋さんが載っていて、そのHIGASHIYAさんが凄くかっこいいんですよ。もう尖りまくってて。

その辺にある和菓子屋ってなんかダサいよね、あれでもここのお店かっこいいよね、って。

その“シンプリシティ”の代表緒方さんの、アディンティっていうか、この中身を見た時に、HIGASHIYAは見た目のデザインだけじゃないだって気づいたんですよ。技術もすごく大事にしてて、本当にすごい面白くて、「あ、こういう方向性だ」と思って。
そこから、パッケージを考えてみたりとか、素材を考えつつ生地を考えてみたりとか。っていうところが始まりで。

さっき僕の布団は何年待ちとか言ったんですけど、僕が作ってるものって、全部手作りなんですよ。なので、やっぱり時間かかります。

そういう話をすると、 色んな経営者の人は、いや、それをたくさん作るようにするのが、経営者としての仕事だって、すごい言われるんですよね。でも、実際にはそれができないんですよね。また、たくさん作れるようにすることが正しいとは僕自身は思ってなくて、本当に感覚でしかわからないことって結構あるじゃないですか、僕が作ってる布団って感覚でしかわからないものなんですよ。材料に使う綿の配合ぐらいは別に数値化してわかるでしょってよく言われるんですけど、配合もダメなんですよ。なんでかって言うと、コットンって植物だから毎年違うんですね。毎年っていうか、毎回違う。野菜とかって、いつも同じ味かって言ったら絶対違うじゃないですか。それと一緒で、気候とかによって違うんですよ。それを微妙にそのいい塩梅にするには、どうしたらいいっていうのは、やっぱり職人技でしかないんだっていう。

綿の配合

『ブランドはNIPPON』の中に

「長年の経験で培ってきた職人の勘であって、手で触ってみて、確かめる。それが機械に頼っての物作りではなし得ないことだ」

『ブランドはNIPPON』

という一文があって、だから職人にしかできないことっていうのは絶対あるっていうのが僕はわかってる。

いろんな物事には“道(どう)”みたいなのがあると思うんですよ。
僕にとってそれは“職人道”だと思ってるんですよ。
僕自身空手の道場もやってて、空手も“空手道”。
それと布団職人として布団を作る道“布団道”みたいな。
全部一緒のような感覚だと思ってる。

荘子の一文に

「道とは、実在性があり真実性がありながら、しわざもなければ形もないもので、身に受けとめることはできても、それを人に伝えることはできず、身につけることはできても、その形を見ることはできない」

荘子 第一冊[内篇]

っていうことが書いてあるんですよ。
道(技)を極めるって結局感覚の話なんですよね。僕も実演でこう見せるじゃないですか。見せることはできるんだけど、みんな見て確認することは出来るけど、実際にはどのようにしているかはわからないんですよ。


布団の角作り

それでちょうど昨日も建築家の人と会ったんですけど、その方は僕がやった実演を見たことがある方で、

「丹羽さんの作るものって、見た感じ簡単そうにやっているけど、でも実際にやってみたら全然できないんだよね」

それってみんな言うんですよ。
やっぱり見せることができたりしても、やっぱり伝えることっていうのは、なかなか難しくて、だから弟子を取らないっていうのはありますよね。

『荘子 第一冊 〔内編〕』 1971年
この本は職人として日々大切にすることが詰まっていると思う。
原点に返る場所みたいな本。

荘子 第一冊 〔内編〕

小林
どうしても企業になると会社を大きくしなきゃとかっていう方へ向いちゃう。
去年の売り上げを越さなきゃいけないとかって。
もうそっちの方向に話が行くと、モノ作りはちょっと難しいよね。

丹羽
うん、掛け離れちゃう。

小林
僕も設計してると、じゃあ人入れて、図面を描いてもらって、現場廻して、ってすると、それは売り上げは上がるよ。
実際受注も来てはいるから。でも今はそれがさばけてない状態。
でも、じゃあそうなってくるとどっかで、やっぱ我慢が出てくるんですよね。
スタッフが作ったものを手掛けたものを一応うちの屋号として出してる時に、本当にそれ自分が納得してるのかっていう。
でも、 まあ、売り上げとか給料とか考えると、そこをぐっと我慢して出さなきゃいけないっていう。そこをどう耐えられるかみたいなところがある。
職人を育てたり、誰かを後継者を育てるまでにまどっかで、「まあ、これでもいいか」っていうところが出てくると思うんですよね。そこを許せるか、許せないかっていうところだと思う。
経営者はよく我慢の連続だって言ってますよね。
だから、多分、分かり合えるのかもしれないけど、分かり合う必要もないと思う。
別にそっちを否定するつもりもないし。
みんながみんなこうじゃないんだよ。
そこは間違いないですよね。

丹羽
そうそう、たくさん作る事は正義だと思うし、別に間違ってないと思う。
実際に僕らが使ってるモノって、大量生産のモノが多いことは間違いないからね。それを否定する気はないです。

PART-3 【きっかけは1脚の椅子】へ続く。

PART-1【それぞれの歩んできた道】
PART-4 【伝えることの大切さ】

プロフィール
丹羽拓也(にわたくや)
instagram 
@niwatakuya
1978年生まれ
丹羽ふとん店 5代目
寝具製作技能士一級
ふとん職人としては2011年に第26回技能グランプリにて優勝。
日々のふとん制作だけでなく、ふとんを通じた様々な活動を積極的に取り組む。
学生時代からの趣味の動画制作や写真撮影を活かし、SNSなどを利用したり、実演、ワークショップなど、ふとん職人として、インテリアやアパレルなど多岐にわたり挑戦。
あらゆる取り組みから、伝統の技法を使い「現代のふとん」の価値を見出している。
2017年 レクサスが主催となり、日本の各地で活動する、地域の特色や技術を生かしながら、自由な発想で、新しいモノづくりに取り組む若き「匠」に対し、地域から日本全国へ、そして世界へ羽ばたくサポートをするプロジェクト“LEXUS NEW TAKUMI PROJECT”に、全国から選出された51名の「匠」の一人として選ばれる。 
2019年 ロンドンの日常の暮らしに溶け込ませる尾州の毛織物を使ったプロダクトを持って、新たな挑戦としてLondon Craft Week 2019に参加。 
https://niwafuton.com/

プロフィール
小林正和(こばやしまさかず)
instagram  
@iks_kobayashi
1979年生まれ
イクスデザイン 代表
学生時代からの家具好きが昴じ、家具からインテリア、建築へと興味が広がり大学卒業後、設計事務所へ入所。
岡山、東京の設計事務所を経て、2012年にイクスデザインとして学生時代を過ごした名古屋で独立。
現在は東海圏を中心に建築設計、インテリアデザインを行う。
手掛けたお店やクリニックなどを国内外の書籍やデザインサイトにて紹介される。
http://iks-d.jp/

ナナメにつながるきっかけを”をビジョンに掲げ活動するMIJP(NPOメイド・イン・ジャパン・プロジェクト)にご興味を持たれた方は是非リンクよりお問い合わせください。

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