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小説個人サイトと、物質になった小説のお話。

 noteでははじめまして、古宮と申します。今日はちょっと自分絡みの昔話を始めます! ざっと10年前の話だ!

 ご存知の方はご存知だと思いますが、先日「電撃の新文芸」というレーベル名が不思議なレーベルより、「Unnamed Memory」というB6の単行本を出しました。で、この画像だと分からないんですけど、宣伝用のあおりに「伝説的webノベル」って書いてるんですよ。「何だよ伝説って!」って思った方が多数だと思います。正直私も思いました。「まじか」って素で言いました。

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 で、この「伝説的」というはおそらく、古い作品が今になって書籍化していることを指し示していると思しいので、その辺りのお話、まだ「小説家になろう」に人が少なく、創作小説と言えば個人サイトが大勢だった時代と、このお話がどうして今、本になってるかについて、お話させてください。

 「Unnamed Memory」が掲載されたのは、2008年、私の個人サイト「no-seen flower」においてです。実のところ、個人サイトとしては私はかなり後半の時代の人間です。個人サイト文化は私がサイトを開く前からずっとあって、逆に2010年以降にはもう「小説家になろう」さんが台頭してきます。私が個人サイトのしっぽの世代です。

 その頃は、創作小説というと自分でwebサイトを作って、htmlファイルで各話を成形し、サーチサイトに載せて宣伝する、という形が主流でした。小説を更新するぞー、と思ったら

1.本文を書く。

2.htmlファイル(本文)を作る。目次のページに更新分へのリンクを付け足す。前回更新分に今回分へのリンクを付け足す。サイトトップに更新告知を書き足す。

3.以上の最低4ファイルをオンラインにアップロードし、登録サーチサイトに行って更新した旨を登録する(複数)

です。今振り返るとめちゃくちゃ工程多い。

で、読者様方は、そう言ったサーチサイトの更新情報を見たり、またお勧め掲示板で「これこれこういう感じの話でお勧めある?」など情報交換したりして、好みの小説を発掘する、という感じでした。(Arcadiaなんかは当時から今まで現役だったりします)

 この時代、創作小説においてはランキングがほとんどない、と言っていい状況でした。サーチサイト主催のランキング(NEWVELなど)なんかはあったんですが、それもそのサイトに登録した作品でないと載らないので、比較的みんな順位を気にせず好きな物を書いていた気がします。ホームページを作る、という作業自体がそこそこ大変なので、作品数が今よりも少ないというのもあったでしょう。――当然、ネット小説の書籍化なんて存在しない時代です。

「Unnamed Memory」は、そんな時代、ぽんと100万字、完結した状態で公開されました。html化による数日のずれはありましたが、出来上がった状態でサイトに載せました。ので、このお話には連載期間というものがありません。

 というのもこの話は、当時私が「旅行先で小説読みたいけど本をいっぱい持っていくのは重いな……。あ、自分で書いて非公開blogにのっけとけばいいのか。それでじりじり読めば解決」という発想で、元々書いてあった話だからです。多分これが2018年の話だったら、私は延々電子書籍を読んでいて、書く側には回らなかったと思います。ちなみにこないだまとめ買いした「五等分の花嫁」めっちゃいいです。どの子も可愛い。決められない。

 で、そんな非公開だった小説ですが、私自身が個人サイトの小説をいくつか読んで「横書きの小説でも普通に読める! 面白い!」という知見にいたり、自分でも公開してみることにしました。(その作品は『wonder wondeful』というお話で、後に訪れた書籍化の波の第一陣の一つとなりました) 私自身、webサイトデザインが趣味だったので、小説サイトを作るのが苦でなかった、という理由もあります。

 当時はサイト名もなく、サーチサイトに載せる為の「Unnamed Memory」目次ページしかありませんでした。私の個人サイトのURLや、私のメールアドレスが「unnamed」になっているのはこのせいです。今だったらもうちょっとなんかこう、格好いい単語にしたと思います。ラーメンとか猫とか。

 そんなわけで、本当に何も考えず「そうは言ってもぽっと出素人の創作小説なんて読んでもらえないだろう」と公開した作品です。

 でも、公開した初日のうちに、読者さんが訪れ「面白い!」と感想をつけくださいました。それが10年の始まりです。

 昨今、「感想やコメントが、作者や作品を救うんだ」という話は頻繁に訴えられますし、皆様にもそういう意識がおありかと思います。ですがそうは言っても、山のようにあるネット小説全部にコメントがつくか、と言ったらそうではなく……ただ私の時代は、作品や読者が少ない分、今よりもずっと声かけが密でした。本当に幸運だったと思います。

「あ、意外に読んでもらえるし、楽しんでもらえる!」と単純に喜んだ私は、サイト本体を作り、2年間かけて残り二つの長編を書きました。

 一つは当時個人小説サイトで人気だった「女子学生の異世界トリップもの」を下敷きにした「Babel」(これ、本当に人気だったので、この形式に則って書けば、中でどんな哲学問答をしていても読んでもらえると思って書きました。ちゃんと読んでもらえました。やったー)

 もう一つが「小説を書いていくならば、少年主人公の成長ものは書けなければ」と思って書いた「Rotted-S」です。

 この二作品+αを書くのに、大体1日4000字ずつの毎日更新をしてました。特に書き溜めはなく、その日公開の分はその日書く、という感じです。当時はそのせいもあって、日に1000~1500人の読者さんがサイトを訪れてくださってました。(ユニークユーザーです。PVはカウントしてませんでした)今のネット小説界隈の読者さんの数からすると、本当にごく僅かなのでしょうが、毎日いらしてくださる方に楽しんでもらえるように、夢中で書いていた気がします。ディズニーランドのビッグサンダーマウンテンに並んでいる時も、立ちながらポメラ叩いてたりしました。今思うと明らかにおかしい人だし、締め切り前の作家以外の何ものでもない。

 でも、生活スタイルの変化でその毎日更新が難しくなり、それじゃ読者さんをお待たせしてしまう……でも就職活動しないとなー……と悩んだ結果、「じゃあ、小説家になれば読者さんにも小説が届けられるし、収入も入るんじゃ。それで行こう」と、思い立ちました。またもや何も考えない行き当たりばったりです。(結局その後、就職もしたので兼業作家になりました)

 その頃には、ぽつぽつと個人サイトの有名作(主に女性向け)を中心に、ネット小説のスカウトの話が出てき始めました。でもそれらは本当に稀で、アルファポリスが「クラウドファウンティングで皆さんが選んだ作品を本にします。売れたら出資者には配当があります」みたいな企画を出してた頃です。これ、今やったらどうなるんだろう……気になる……。

 またこの時はまだ「小説家になろう」さんは最大手ではなく、ただ少しずつユーザーも増え、サイトのblogに「最近、魔法科高校の劣等生って小説が面白いですよ」って書きこまれてたりしました。うわあ、時代を感じる。

 そんな状況なので、スカウトでの書籍化はまったく現実的ではなかったんですが、当時個人サイト界隈には、とんでもないビッグネームのビッグニュースがありました。

 お察しの通り、川原礫先生の電撃大賞受賞です。

 川原先生のサイト「WordGear」は当時、突出して人気の個人サイトでした。「創作小説を読みたいならまずSAO読めよ」の世界です。この界隈なら全員が知ってます。そんな先生の大賞受賞は、もうめちゃくちゃ大興奮の話でした。みんなの川原先生が電撃に! ほら、やっぱすごいだろ! です。

 それは憧れを通り越して遥か遠い世界の話で、でもずっと私の無意識に残っていました。ので、「小説家になりたいなら公募、電撃大賞に出そう」と決心。川原先生の受賞が2008年、アクセルワールド発売が2009年なので、体感では1年遅れでの挑戦です。まったく歯牙にもかからなかったら諦めよう、と思いましたが、幸運にも3度目の挑戦で最終選考まで行き、商業作家になれました。

 その間もサイトの更新はぽつぽつ続け、やがて利便性の面から「小説家になろう」さんにバックアップを移すようになりました。担当さんには、特にweb作品の話は伏せてなかったんですが、あえて話すこともしませんでした。宝島社さんの「このweb小説がすごい!」の7位と9位に2作品ランクインしたところで、ようやく「古宮さんweb作品も書いてるんですねー」みたいになった感じです。実は書いてるんですよ……。コミケとか出てるしね……。

 そんな感じで、いつの間にかサイト開設から10年が経った頃、ある日、書き続けてきた話に、担当さんから「書籍化してみませんか」とお声がけを頂きました。「なんで!?」って思いましたが、担当さんが私のweb作品を覚えてくださっていたこと、またおそらく私自身を応援してくださる読者様の声が、お手紙などで編集部に届いていたのが原因だと思います。

 実のところ、そのちょっと前まで私は「Unnamed Memory」について、あくまで趣味の話だから、商業に載せる気はない、というスタイルでした。

 ただそれが変わったのは少し前に、この話が、ネット上で盗作改変の被害にあったからです。台詞や地の文のあちこちがそのままで、でもキャラクターは別の色付けで書かれるその話は、さすがに即、読んだことのある方に気づかれたらしく、私のところにも話がきました。実際それを読んだ私はがっつり凹み、「ああ、古い話だからこういう風に使われやすいのかな」としみじみしたものです。そして「じゃあ、ちゃんと宣伝して周知させてやるからな!」と。絶対退かないから覚悟しろ!

 そんなこともあって、カクヨムにも掲載したり、ネット上の公募にも出すようになってからしばらく、デビュー以来の担当さんから書籍化の話が来た、というわけです。

 このお話、本当にありがたかったです。今のところ、書籍化は本編の表にあたる一幕を三冊で書く予定ですが、同じ条件で別の会社さんから打診をされても、多分私は「それでどんな出来にできるのだろうか」と頷けなかったと思います。5年一緒にお仕事をさせて頂いた担当さんと電撃さんだから「ぜひお願いします」とお返事できました。

 振り返ればあっという間の10年です。当時の個人サイトのうち、人気の作者さんは約半数が商業に足を踏み入れ、(先日発売された「ナイトメアはもう見ない」もそのうちのお一人です)、半数がアマチュアで書き続けていくことを選んだ、という状態です。それはいやが上にも過ぎ去った月日を感じさせるもので、でも私自身は多分、10年間ほとんど変わっていないのだと思います。毎日小説を書いて、読者さんの反応に一喜一憂しているあの日のままです。

 だから、今なおこの話を読んで、知って、好きでいてくださる方々に感謝しております。

「Unnamed Memory」は「world-memoriae-」という世界観を同じくする複数作品の一つで、私がおそらく生涯で唯一「人に読まれることを意図せず、自分が読むためだけに」書いたお話です。

 オーフェンやスレイヤーズが好きだった私が、世界の秘密に挑むそれらファンタジーにわくわくしていたように、自分の読みたいものをひたすら詰め込んだ話。

 確立された強さを持つ主人公。彼の戦闘と煩悶と、小さなエピソードを通じて明かされる世界の謎。彼は一人の魔女を連れていて、世界最強の彼女には秘密の過去がある。他愛もなくふざけて笑いあえる日常と、振りかかる事件の繰り返し。でもある時、運命は唐突に全てを拭い去っていく。二人は、それに直面し、人として選択する。――そういうお話です。

 おそらく、サイト時代にこの話を読んでくださった方の多くは、今回の書籍化をご存知ないと思います。ネット小説からも離れてしまったかもしれません。それでも、読んでくださった皆様のおかげで、今の私と、この本があるのは変わりません。

 だから、変わらない話が読みたくなったら、また立ち寄ってください。

 そして新たにこの話を読んでくださる皆様、またこの話に寄り添い続けて下さる皆様、この度は本当にありがとうございます。皆様のご厚情、感謝の言葉にたえません。

 それでは、もう一度開幕より、繰り返す運命の話を。

 どうぞお楽しみください。

                        2019.1.30 藤村由紀




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