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2024年の日記3(1/10-1/12)

1/10
とある銀行の会報誌でのインタビュー取材の日。
編集者、ライター、カメラマンの三人がわざわざ東京から来るまで訪ねてくれて、幼少期から現在の作家活動に至るまでの自分史を一時間ほど話す。
職業柄、取材してもらうことは特別なことではないけれど、展覧会の宣伝をする訳でもなく、自分の来歴を話すだけで、お金がもらえるという、何とも有り難いお仕事である。ちなみに千葉県内で活動する人を特集するページに掲載されるよう。千葉県に移り住んで7年目になるが、千葉で活動していることが徐々に認知されてきたようで素直に嬉しい。

インタビュー形式だけど、ライターとの対話のようなコミュニケーションもあって、自分にとっても有意義な経験になった。
例えば「あ、こういう話題をこの人は面白がってくれるんだな」とか、瞬間瞬間のフィードバックで気づくことが沢山ある。普段自分の思考だけで完結していたパーソナルなことが、他者の思考と衝突して、パブリックな思考に変換すると言ったらいいのか。対話というのは面白い。

何気なく問われた質問から、自分でもハッとする答えが出る。
今回改めて、20〜21歳の時に「現代アート」と出会ったことが自分の人生にとって、いかに重要だったのかが省みることができた。
そして「現代アート」の何に影響を受け、惹かれるかといったら、新しい視点をもたらしてくれること、というのもはっきりと言えた。

また、近年行っているワークショップを通して、参加者の何を引き出したいのかという質問(本質をついた素晴らしいクエスチョンだと思う)に対して、自分が即答したのは「個性」という言葉だった。
身も蓋もない言葉だけど、本当にそれに尽きるのだ。
自分にとってはほとんど無意識で、当たり前過ぎるけれど、とても重要なことなので、この個性というキーワードにについては改めて文章を書きたいと思う。このタイミングで取材していただいたことに感謝している。


1/11
いづみさんと寺田本家の蔵見学イベント「発酵を体感する一日」へ参加。
住んでいる家からも近く、以前から活動内容に興味があった酒蔵だったこともあって、昨年からこの日を楽しみにしていた。

蔵人と呼ばれるスタッフの方からガイドしてもらいながら、蔵を回るツアー形式だったが、寺田本家が普段、どんなことを大事に自然酒づくりしているのかが、とてもよく分かる内容であった。

最初に印象に残ったのが、酒づくりに大切な三つの要素、「水、米、菌」にまつわるお話。水と米については地域資源の恵みを活かすことを徹底していて、素人の自分でも理解できる内容である。三つ目の菌については、考え方に良い意味で衝撃を受ける。発酵に必要である菌は、目に見えない微生物であるが、出来るだけ多様な菌を受け入れ、共生することを大事にしている。
つまり人間が全てを管理し、コントロールすることと全く違う原理である。
それは、このイベントに参加してきた他者の菌でさえ、寺田本家が理想とするお酒づくりおいては、積極的に受け入れていくというメッセージであり(実際に蔵人の方からそう言われた)、その姿勢に最も感銘を受けた。
お酒をつくる神聖な場所に、白衣もなく土足で足を踏み入れる訳だから少し身構えていたけれど、彼/彼女らからしたら、むしろウェルカムなのだ。
はっきり言って、すごい世界である。

他にも大きなもろみタンクを覗かせてもらい、まさにもろみが発酵している様子を見させてもらったり(何と味見までさせてもらう)、酒母(しゅぼ)室で唄われる労働歌の実演があったりと、見所が尽きない贅沢な内容。
「発酵」と呼ばれる古来から伝わる自然現象を、五感で感じとって欲しいという、蔵人さんの言葉どおり、蔵の中の各部屋、エリアに漂う香りも印象的であった。匂いだけは文章でうまく伝えきれないのが残念だが。

普段入れない酒づくりの現場を見学できるだけでなく、蔵人さんの解説付きという何とも贅沢なイベントでとても満足度の高い内容。ちなみに参加費は一人1,500円だったけれど、最後に3種類のお酒の試飲までできて、一言で言うと、最高のプレゼンテーションでした。

当日は、寺田本家に興味のある人達が各地から集まっていた訳だけど、こうした体験型のイベントを通して、ますますファンになるよなと思った。
商品だけでなく、体験そのものが新たな価値となって、作り手と受け手との強い繋がりを生む。そんなことを考えつつ、寺田本家のお酒を買って帰る。香取市に住んでいて良かったと思える濃い一日だった。


1/12
午前中、昨年10月以来の病院へ。長年足のふくらはぎ湿疹に悩まされていて、今回も漢方と塗り薬を処方してもらう。肌が乾燥してきたと伝えると、患部をボディソープで洗わないよう、先生から教えてもらう(もっと早く教えてほしかった)。ボディソープで洗うと、必要な脂も取り除かれてしまうので、せっけんが良いそう。当然のごとく注意されたけど、40年以上生きていても知らないことはまだまだあるようだ。

午後、好きなだけ読書して過ごす。まるで老後のような生活をしている。
主にkindleで「新対話篇 ゲンロン叢書」のつづきを読む。東浩紀さんによる対談集だが、飴屋法水さんと柳美里さんの回が強烈にすごい。
記憶(トラウマ)と虚構(演劇)についてなど、表現者の言葉はやはり示唆に富む。

作品制作のための取材をはじめ、アーティストとしての活動費に使わせていただきます。