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『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』林 伸次

自分の恋愛話を誰に語るか?

バーのマスターに恋愛話というありがちな設定にキザっぽさを感じていた。お店で自分の恋を話すなんて、よっぽど社交的で自分に自信ある人だろう。

でも読み終えて、ふと思う。自分ならいったい誰に自分の恋愛を語れる?読み終わる頃には、バーに行きたくなっている。とまでは言わないけれど、バーのマスターに自分の恋愛話を語るとしたら…という妄想が膨らむのは必至。

この本では、老若男女がマスターに向かってさまざまな恋愛話を語るかたちで物語が進む。

バーテンダーは営業マン?

どの話も、お客がお店のドアをくぐって席に座り、マスターが注文を聞くシーンから始まる。「今日はどうなさいます?」という感じ。

お客は直接お酒を指定することもあれば、ふんわりと、どんな気分だけかを伝えることもある。マスターは入店した瞬間の客をさりげなく、観察しており、要望や客の気分を想像して、お酒を決め、なぜそのお酒をおすすめするかを伝える。

営業のプレゼンに近い感覚だと感じた。客の要望を限られた情報からより理解し、素早く推理して、提案を組み立てる。毎回お酒に添えられるコメントが秀逸。

なぜバーの店内は静かなのか?

雪の降った翌朝いつもより街が静かに感じるのは、なんとなくではなく科学的な理由があるとネットで読んだ。

要は、積もった雪は空気の振動を吸収しやすいのだかとか。この本を読み終わったあと、なんとなくこの話を思い出した。渋谷でバーを20年もやっていると、「事実は小説よりも奇なり」じゃないけど、もうそれは沢山の実話が文字通り降り積もっていくに違いない。

そんな雰囲気が感じられるバーにいくと、きっと自分のなかの繊細な部分もそっと静かに外に出したくなるのかもしれない。

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