本質は、差別にあえぐ者の物語 〜 「アス Us」感想
「ミッドサマー」や「ヘレディタリー」でも思ったが、本当に怖い映画というのは優しい人が作るものだと思う。ホラーという不条理な状況を、抜け出せない悲しみを表現する手段として用いるからこそ、見るものにとってもっとも予想を許さない恐怖を生み出すのだろう。
この「アス」という映画はドッペルゲンガー的であり、予告からして不可解な映画だ。幼い頃に自分とそっくりの人に遭遇したトラウマから失語症を一時的に患った過去を持つアデレード。彼女ら家族はある日、別荘地で過ごした。その晩、自分たち家族とそっくりの人達が現れ、自分たちを殺しにやってきた・・・・
オープニングが非常に恐美しくて、それだけでツボにはまってしまった。音楽のいい映画はイイ映画だぞ!
この映画を見終えて真っ先に思い出したのが「パラサイト 半地下の家族」であった。見た人ならなぜ思い出すのかおそらく理解できるのではなかろうか。そう、この映画はホラーの不条理を描いているようで、差別の不条理を寓話化して描いている映画なのだ。
それはどうしてなのか、これから語りたいところなのだが、それ以上は大変なネタバレとなってしまうため、それでも読みたい方のみ先に進んでいただきたい。
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以下、ネタバレ。
さて、この映画なのだが、実はSF設定がある。
ドッペルゲンガーと思われた人々は、実はクローン技術で作られた複製人間であり、アメリカ地下に実在するとされる大量の地下道の中に閉じ込められていた。
そしてクローンは二つの体だが一つの魂とされ、一方が一方に操られる構造となっていた。また、クローンは長い間封じ込められたのもあって人間としても欠陥であった。そのため地上で行われていることは地下の何もない地下道で、さながら演技のように、何も考えずにその様を再現する、という不気味な光景が広がっていた。
そして、幼い頃に失語症を患っていたとされる主人公は、実はクローン人間でありそもそも教えられるまで喋る力がなかった。かわりに地下に封じ込められた本当の地上の人間が、復讐のために地上に登って家族に復讐しようとしたのだ。
この地上の人間、という上位存在のために地下の人間が長い間圧力に晒され、その中の極めて危険な精神の持ち主が地上にのし上がる、という光景は、否応なしに、「パラサイト 半地下の家族」の騙して富裕層の家に住み込もうとする貧民街の家族を彷彿とさせた。
「ジョーカー」もそうだが、少なくともここ数年の映画のトレンドは、格差を描くことだったのかもしれない。
ホラーという枠で見れば、いささか刺激が足りないかもしれないこの作品は、その代わり現実に存在する人の業を、生々しく描いていたのだった。
恐ろしい映画だった。しかし、面白かった。
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