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ヌルオ人生奇譚-ろくろくび

小学生の頃、父は家族をよくキャンプに連れていった。
高速道路のSA、父母弟は車を降りて軽食を反抗期が始まっていた私は、無意に車に残っていた。
ゲームボーイをやりながらふと窓をみると女性の顔が覗いていた。
驚いて「な、なんですか?」と聞いた。
女性はニヤと笑い「珍しい車なんでみてました」と言っていた。
窓から覗いた顔がすっと居なくなって (気持ち悪いおばさんだな、人の車を覗くなんて非常識だし)なんて子供ながらに思ったのを覚えている。

神奈川の山間の高速道路、渋滞、赤いランプが何処までも続く、ゆっくり百足の様に車は進む、山を縫う様にトンネルを抜けては入り抜けては入り

何個目かのトンネルを抜けた所、そこは谷間の様になっていて上の方に道があるのか高速道路と平行してガードレールが見えた。
ガードレールを何となしに見上げていると、上に乗った白い丸と脇から垂れる黒い影
目を凝らして見ると女の顔が此方を見ているのだ。
(うわっ)と思ってかけていた毛布を頭まで被る。 (今の何だろう、、、こわい、、)恐がりの癖に反抗期だった私は親にも何も言えず。
毛布を被って車が進んでしまうのを寝た振りをしてまった。
ブロロロ、渋滞の道、ゆっくりと車が進む 何分かしてトンネル特有のオレンジ色のライトが毛布を透かして目に入る。
(あ、トンネルに入った。もう大丈夫かな) 毛布から顔を出す。
岩堀のトンネルの天井が見える。
(よかった、もういない) そう思ったのも束の間、車がトンネルを抜けて頭上に見えるガードレールの上、やはり居るのである。
さっきよりハッキリと白い顔に縮れた長い髪の女がこちらをじーっと見ているのだ。
再び毛布を被り、目を強く瞑り人差し指を耳に入れる。 何も見えないように、何も聞こえないように
そのまま、漏れる車の走行音を聴きながら丸くなって2、3時間やりすごした。

高速道路を抜けて、暫くして毛布から顔を出して窓の外を恐る恐る見る。
見慣れた近所の風景、風に街路樹が揺れる。
(よかった、流石に車の速度には付いてこれなかったんだ。)
深夜に家につく、次の日は学校だったため早く寝なさいと急かされ自分の部屋へ
布団に入り蛍光灯に結わえた紐を引いて消す。
曇りガラスの窓がカタカタと風に揺れ、街灯の光がボンヤリと入ってきた。 何分位たっただろうか、相変わらず少し強めの風が窓を揺らす。
窓を見る。
すーっと黒い影がスクロールする様に窓の下から上へ昇る。
それが女の首だとわかった瞬間、金縛りになる。
私は影をじーっと見ることしか出来なかった。

いつの間にか日が登り朝の光が差し込んで目を覚ます。
夢だったんだなとその時は思った。
しかし、それ以来、風の強い晩には女の首が窓から覗き金縛りになる事が度々あった。

さっき、その窓ガラスを見ていて思い出した。
中学2年くらいから女の首は覗かなくなった。

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